俳優・佐藤流司さんインタビュー 「激流の中でもきちんと立っていられるように、芯を強くもつことを大切にしています」
舞台「『笑ゥせぇるすまん』THE STAGE」で、主人公の喪黒福造に扮する佐藤流司さん。2.5次元作品を中心に絶大な人気を誇る佐藤さんが挑むのは、藤子不二雄Ⓐ氏によるブラックユーモアの傑作として、昭和から平成にかけ人気を博した作品。本番への意気込みや役作りについて、そして、現在の仕事観を聞きました。
見た目が似ていなくても、そう見えるように演じなければいけないのが役者の本分
――この作品は2020年に上演される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で約1年後の上演となりました。まずはオファーを受けた時の感想から聞かせてください。
同時期に3作品のオファーをいただきまして、結構有名な作品が並んでいたんです。うち2作品は「あぁ、俺っぽいな」というものだったんですが、「笑ゥせぇるすまん」は、ちょっと意外というか、ひときわ異彩を放って見えた作品で、「やりたい」と即決しました。
――あの「笑ゥせぇるすまん」の舞台化ということで、上演決定当時は大きな話題となりました。
出演が決まった時や、今回の喪黒福造のビジュアルが世に出た時に賛否両論ありましたが、「そりゃ(原作とは)似てないですよ」と。それが狙いでもあるし、役者の本分として、見た目が似ていなくてもそう見えるように演じなければいけない。お客さんが本番を観た時に違和感なくスッと入り込めるよう、楽しみながら作業をしているので、似ているか似ていないかは大事ではないと思っています。
――喪黒福造と見た目がまったく違う佐藤さんが演じることで、作品への期待がますます高まります。心に潜む願望や欲望を叶える代わりに、約束を破れば代償を払うことになる、という藤子不二雄Ⓐ氏による独特の世界観はいかがですか?
出演が決まってから原作とアニメを見たのですが、現代だとコンプライアンス的に合わないところが多々出てきそう(笑)。でも、昭和の伸び伸びと自由な空気を感じる素晴らしい作品で、いいなと思いましたね。
――佐藤さんのファンの皆さんは若い世代も多いですが、現代の若者がこのブラックユーモアをどのように受け取るのかとても興味深いです。
はたして世界観をうまく伝えられるかどうか(苦笑)。俺自身も最近は若い方とのジェネレーションギャップを感じるようになってきて、今どきの流行りの言葉も理解できないんです。例えば、「〇〇しか勝たん」って言うじゃないですか。語感に「うわうわうわっ!」となるんですよ。丁寧な言葉づかいで汚い言葉を言うのが、俺の心情なので(笑)。
――佐藤さんはいつも言葉のチョイスが面白いですよね。
まわりくどい言い方をすることや蛇足が結構好きで……聞き手を惑わせるじゃないですか。ストレートに結論だけをバーッと話すよりも、蛇行して余計なことをしゃべって、ちょっと聞き覚えのない言葉なども織り交ぜつつしゃべったほうが、相手が聞いてくれる気がするんですよ。
お客さんに“喪黒福造”というコースターに乗ってもらうような作品にしたい
――「笑うゥせぇるすまん」といえば、「ココロノスキマお埋めします」という口説き文句が登場しますが、佐藤さんは甘い話をもちかけられたらどう対処しますか?
基本的にしゃべることは好きなんですけど、難しい話を聞くのがダメなんですよ。途中で飽きちゃいます。
――オイシイ話はあまり信じないほうですか?
まわりから悩み相談をうけることもあるんですが、結局、人の意見を実行してもしなくても、自分で決めたことじゃないなら後悔することがほとんどだと思うんです。俺だったら、自分で選択した道じゃないと満足できないから「人に聞かないで自分自身で考えたほうがいいよ」と毎回言うんです。だから、人の誘いにはまずのらないですね。
――ともすれば疑心暗鬼になってしまいそうな可能性を秘めている作品だと思うのですが、そのあたりはどう考えていますか?
今回は観客の皆さんに“喪黒福造”というコースターに乗ってもらうような作品にしたいと考えているので、この作品に携わったことでもっと人を大事にできそうな気がしています。善悪がはっきりしているのかと思ったらわりとそうでもなく、人間の曖昧な感情を深く掘り下げていくところもあるので、受け取り方は人それぞれ違うものになるのではないでしょうか。
――深く考えさせられるものになりそうですね。昭和の作品が令和の時代に届けられる意味についての思いを聞かせてください。
毎回言うんですけど、役者が何を伝えたいかなんてそんなに重要ではないと思っていて、俺たちがやっているものを観て、どう感じてもらえるかが大事だと思うんですよ。どう思ってもらっても結構というスタンスです。
家族や友人、お客さんに誇ってもらえる存在でいるためにサボらないようにしている
――ここからは佐藤さんの仕事観をお聞きしたいのですが、俳優というお仕事のどのような部分に醍醐味を感じていますか?
人生がマンネリ化しないことでしょうか。いろんな種類の人生を追体験させてもらって飽きることがありません。毎日新しい情報が入ってきて、毎日新しい言葉をしゃべって、刺激的な日々を過ごせる。そして、風邪などちょっとやそっとのことでは休めないというのが個人的にはありがたいです。以前はサボりグセがあったので、逃げられない状況下においてもらうことで自分という人間を保てているんだと思います。
――サボりグセ……ですか?
サボるとはちょっと違いますが、上京したばかりの頃、焼肉屋さんでバイトを始めたんですけど、七輪が熱くて2日で辞めてしまったんです(笑)。現実的な話をすると、作品の途中で投げ出してしまったら金銭的なこともあるし、多少なりとも顔と名前が世に出ていますから、親にも迷惑がかかるし、友人にも顔向けができないし、お客さんにも会えなくなるし、俺を応援してくれてるお客さんの評判も落としてしまう。そういった方たちに誇ってもらえる存在でいるためにサボらないようにしています。
自分を認めてくれて、必要としてくれる人がいることが原動力
――では、お仕事をするうえで大切にしていることは何でしょう?
意見を曲げず、持論をしっかりともつことですね。もともとブレない性格ではあるんですけど、役者さんやタレントさんってクセの強い人たちの集まりなので、そこで流されないよう、激流の中にきちんと立っていられるように芯を強くもつようにしています。
――そのようなスタイルにたどり着いたのは何かきっかけがあったと。
消去法です。自分がイヤだと思うことを排除していった姿が理想像じゃないですか。だから、最初に「こういうものがいい、こういうことがやりたい」じゃなくて、「こういうものはやりたくない、こういうことは言いたくない」から始めるんです。
――現在、佐藤さんの原動力になっているものは何ですか?
猫です。猫にごはんを食べさせないといけないので(笑)。あとは、当たり前すぎて普段は言わないんですけど、少しでもお客さんのパワーになれているという実感ですね。極端な話、死を考えていた人が俺の芝居を観て「もう少し生きてみようと思いました」というコメントをいただくと、まだ力不足かもしれないけど、少なからず人の人生を変えるだけの力がある人間になれているのかなと。俺を認めてくれて、俺を必要としてくれる人がいることが大きいです。
――最後に、夢や目標に向かって奮闘する若い世代へアドバイスをお願いします。
“嘘も方便”なので、できるだけ強いふりをしたほうがいいです。例え、自分が子猫みたいな存在でも「タテガミをつくってください」と言いたい。俺はそうやって騙し騙し、才能があると見せかけてここまでやってきましたから。「自分はすごく崇高な人間なんだ」と自分を騙し、周りにも凄い人なんだと思わせて、世界のすべてを騙していく。これですね。
佐藤流司(さとう・りゅうじ)
1995年1月17日、宮城県生まれ。2011年「仮面ライダーフォーゼ」(テレビ朝日系)でデビュー後、ミュージカル「忍たま乱太郎」で初舞台をふむ。その後、「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」、「ライブスペクタクル『NARUTO-ナルト-』」、「學蘭歌劇『帝一の國』」シリーズ、「ミュージカル『刀剣乱舞』」シリーズ、朗読劇「『私立探偵 濱マイク』-我が人生最悪の時-」、ドラマ「おしゃれの答えがわからない」(日本テレビ系)などに出演。8月上演のミュージカル「ジェイミー」、2022年1月上演の「火炎ノ消防隊」に出演する。
◆OFFICIAL SITE: 佐藤流司OFFICIAL SITE (sato-ryuji.com)
◆OFFICIAL Twitter:@ryuji7117
◆OFICIAL Instagram:@ryuji_japan
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
ヘアメイク:最知明日香
スタイリング:吉田ナオキ
取材・文:荒垣信子
衣装協力/Siora yatsu-sue