俳優・橋本祥平さん&田中涼星さんインタビュー 「お客様への感謝を忘れず、笑顔で帰っていただきたいという思いで舞台に立っています」
鳴かず飛ばずの8人の芸人が、寂れたお笑いライブハウス「湘南劇場」で奮闘する姿を描く「あいつが上手で下手が僕で」で、お笑いコンビ・ロングリードに扮した橋本祥平さんと田中涼星さん。さえない芸人を演じた感想や芸人と俳優に共通する焦燥感、さらに目標へと向かって邁進する心境などをインタビューしました。
コントに挑戦したことで、芸人さんたちの苦労を痛感しました
――芸人を演じることが決まったときの心境を聞かせてください。
橋本:僕は昔からテレビっ子で、ドラマやバラエティ番組を見ることが好きだったのですが、賞レースも毎年見ているぐらいお笑いが好きなので、そんな芸人さんを演じることになって純粋にうれしかったです。と同時に、芸人さんが抱える、苦悩もわかるような気がしていて、プレッシャーもありました。
田中:僕も朝、目覚めたらお笑いの動画を見て頭を起こすみたいな生活をしているぐらい、お笑いが好きなんですけど、菅田将暉さんや神木隆之介さんが芸人を演じたドラマ「コントが始まる」(日本テレビ系)にハマっていた時期に今回のお話をいただいたので、めちゃくちゃタイミングがいいなと思いました。祥平くんと同じようにプレッシャーを感じつつも、台本を読んでみたらとても面白かったので、これは純粋に楽しむしかないと。そして、現場は終始笑いが絶えない明るい雰囲気で、楽しく演じることができました。
――役を演じることに加え、慣れないコントなど苦労したこともあったかと思います。
橋本:僕たちが演じたロングリードはコント師で、通常の台本とは別にコント台本が用意されていたのですが、どこまで振りきればいいのか、その加減が難しかったです。参考のために、コント師さんのネタをいろいろ見ましたが、皆さん、キャラクターの作り込み方が素晴らしいんですよ。自分がコントに挑戦してみて、実際の芸人さんたちは普段から高いハードルに挑んでいるということを実感しました。
田中:好きでずっと見ていたものにいざ挑戦してみると、感覚がまったく違うんですよね。頭で思い描いていたイメージ通りには進まなくて、かなり難しかったです。ドラマの中で役を演じながら、さらにコントの中のキャラクターを演じる難しさもあって。コントの流れは決まっているのですが、そこをどう演じるかはお任せみたいな状態で、笑いどころを自分たちで作っていかなければいけない。レベルの高いことを要求されていると実感すると同時に、これまで見てきた芸人さんたちの苦労を身をもって知りました。
可愛らしさではロングリードが一番だと自信をもっていえます
――ロングリードは橋本さん演じる湾野がツッコミ、田中さん演じる犬飼がボケというポジションですが、実際はボケとツッコミのどちらですか?
橋本:2人ともボケだよね。ロングリードの湾野(橋本)と犬飼(田中)と、実際の僕らの芸風は似ていまして(笑)、先輩俳優に対する懐の入り方なんかは、特に似ていると思う瞬間が多々ありました。そんなボケの2人ゆえ、“ツッコミ脳”というものをまったく持ち合わせていないので、ポンポンといろんなワードが出てくるツッコミの方ってすごいんだなと感心しました。(島役の)和田雅成くんなんて、普段からワードセンスがすごいので、どんな鍛え方をしたらそういう思考回路になるんだろうって。
田中:あれは天性のものだよね。ツッコミって「なんでやねん」とか関西弁のイメージが強く、そちらの想像はしやすいのですが、標準語のツッコミだと、ニュアンスや言い方でまったく違った温度感になってしまうんです。そんなツッコミを、ボケの犬飼として新鮮な気分で受け止めていました。
――劇中にはロングリードを含む4組のコンビが登場しますが、ロングリードのここが一番というアピールポイントを教えてください。
橋本:僕たちが武器としているのは、幼なじみゆえの関係性と、これは不本意なのですが(笑)、可愛らしさという点ですね。
田中:ロングリードは下っ端のコンビで、特に犬飼は先輩に可愛がってもらえるような立ち振る舞いをしているのですが、そのちょっとした愛らしさは一番だと思います。
――そんな芸人コンビを演じたことで、彼らをとりまく環境や考え方など共感する部分はありましたか?
橋本:いっぱいありましたね。
田中:犬飼は争いを好むタイプではなく、中立の立場でいることが多いんですけど、僕自身も似たタイプなので、そのあたりは共感できました。
橋本:湾野ってまず真面目なので、出番の前は必ず「ネタ合わせをしてからいこう」というタイプなのですが、犬飼は先輩とのつき合いを大事にしているので、ギリギリまで先輩たちと遊んでいる。犬飼を呼びたいのに、先輩の手前、なかなか呼び出せないもどかしさを抱えた湾野の葛藤はとても理解できます。
そして、ロングリードのネタを書いているのは湾野なのですが、書いているほうと書いていないほうの対立。僕自身がネタを書いたことがあるわけではないんですけど、そういうことへのモヤモヤした思いには共感できました。
芸人の世界でも俳優の世界でも、生き残るのは「いい人」
――芸人の世界も俳優の世界も成功するのはほんの一握り。それなのに、入ってくる人があとを絶たないのはどうしてだと思いますか?
橋本:どうしてなんでしょうね……。僕自身も答えを知りたいです。こうだから売れるとか、こうだから売れないという理由はよくわかりませんが、芸人さんでも俳優でも、結果生き残るのは「いい人」という声を聞きます。技術や実力ももちろんですが、それ以上にまわりのスタッフから可愛がられ、「あの人いいよね」と言われ、お仕事をいただけるのは「いい人」。確かに、悪い人よりいい人に残ってほしいと、僕も思いますから。
田中:入ってくる人が途切れないのは、夢があるからじゃないでしょうか。売れ方って不規則で、一気にバーンといく人もいれば、数年、数十年経ってやっと芽が出る人もいる。僕自身もそうだったのですが、漠然とした夢を思い描いて、その世界へ飛び込み、すぐに売れるイメージを頭の中で妄想しながら活動しているうちに、現実は違っていたことに気づく。芸人を目指す人も、俳優を目指す人も、夢があるから諦められないんだと思います。
――湘南劇場の芸人たちが舞台に立つことを大事にしているように、お二人が仕事をするうえで大事にしているのはどのようなことでしょう?
橋本:湘南劇場の芸人たちと同じく、僕たちも舞台に立つことをメインにしているのですが、コロナ禍で感じたのは、公演できることへの感謝、足を運んでくださるお客様への感謝ですね。そこだけは忘れず、心にもっていたいと思っています。
田中:僕はお客様に対し、観に来ていただくからには満足して帰っていただきたいという思いがあります。カーテンコールで笑顔になれるような作品をお届けできたら、そして、日常に少しでもプラスになればという思いで、いつも舞台に立っています。
――世の中には湘南劇場の芸人たちと同じように、夢に向かってもがいている人がたくさんいます。そんな方たちへアドバイスやメッセージをお願いします。
橋本:どんな職業でも、もがいている時期は苦しいですよね。僕も、「歯車が合っていないな、うまくいかないな」と感じていた時期がありましたが、その時期を乗り越えたら途端に楽しくなりました。ずっとその状態にいるのではなく、いつか抜け出せる日がくると思うので、それまでは努力しつつ、まわりの人の力も借りて、乗り越えてほしいです。その手助けができるのなら、僕もエンターテインメントの世界から、全力で楽しくなってもらえるようなものをお届けしたいと思っているので一緒に頑張っていきましょう。
田中:これは僕も自分に言い聞かせていることなのですが、「人生一度きりだぜ」と。人生どれだけ生きられるかわからない中、「こんなことに悩むのは時間のムダだ」と言えるぐらい、ラフに生きることも時には必要なのではないでしょうか。
■Profile
橋本祥平(はしもと・しょうへい)
1993年12月31日、神奈川県生まれ。主な出演作に舞台「幽☆遊☆白書」シリーズ(飛影役)、舞台「デュラララ‼」~円首方足の章~(竜ヶ峰帝人役)など。10月8日(金)~17日(日)・10月21日(木)~24日(日)「バクマン。」THE STAGEに出演するほか、2022年1月7日(金)に主演映画「文豪ストレイドッグス BEAST」が公開される。
田中涼星(たなか・りょうせい)
1994年12月24日、新潟県生まれ。主な出演作にミュージカル「テニスの王子様3rdシーズン」(乾貞治役)、MANKAI STAGE『A3!』(有栖川誉役)、ミュージカル「刀剣乱舞」(御手杵役)など。
◆橋本祥平 公式サイト:https://hashimoto-shohei.com/
◆橋本祥平 公式Twitter:@hashimotoshohey
◆田中涼星 公式サイト:https://tanaka-ryousei.com/
◆田中涼星 公式Twitter:@ryousei_tanaka
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子