俳優・黒羽麻璃央さんインタビュー「心に余裕をもって、何事も腹八分の精神で」
人気舞台俳優37名が参加した「ACTORS☆LEAGUE 2021」の応援ソングを収録したCD「ACTORS☆LEAGUE 2021」が12月15日にリリースされる。そのイベントの企画・プロデュースを担当した黒羽麻璃央さんにインタビュー。大型イベントを成功させた手ごたえや原動力、そして、11年目に入った俳優という仕事への思いを聞きました。
挫けそうになったこともあるけれど、夢が僕を支えてくれた
――まずは「ACTORS☆LEAGUE」を開催することになった経緯から聞かせてください。
舞台俳優には野球好きが多く、よく「野球やりたいね」と話していたのですが、実際集まるとなるとなかなかスケジュールが合わない。そんな矢先、仕事でお世話になっている方から「やりたいことはないの?」と聞かれ、「野球がやりたいです」と答えたんです。先方は「やりたい作品」という意味で尋ねてくださったと思うのですが、僕は純粋に「野球大会がやりたい」という意味合いの発言で。
――お話を聞いた方も驚かれたでしょう(笑)。そして、黒羽さんの希望を耳にした方のご厚意で、思ってもいなかった方向に話が進んでいったと……。
驚くようなスピード感でイベントの開催が決まり、場所も東京ドームに決まりました。そして、せっかくエンターテインメントの世界にいる人間がやるのだから、野球だけではなくエンタメもプラスしよう、こんなご時世ゆえ楽しいイベントを、と企画が走り出しました。
――開催当日の心境を覚えていますか?
「あぁ、ここでプレイヤーとして野球ができるんだ」と興奮したことを覚えています。変な緊張や力みがあって、ずっと足がつりっぱなしでした(苦笑)。
――開催までの苦労もあったかと思いますが、背中を押してくれたものは何ですか?
“夢”ですね。挫けそうになりましたし、本当に大変だったけれど、俳優になる前は一野球少年だったので、「東京ドームという聖地に立てる」というモチベーションで乗り切ることができました。
――そして、イベントの応援ソングは同大会のコミッショナーを務めた城田優さんの作詞作曲ですね。
城田さんから「手ごたえのあるいい曲ができたよ」と「L・A・S・T」の音源が届いて、聴いてみたらとてもオシャレな曲で、「もったいない。こんな曲をいただいていいんですか?」と恐縮してしまったんです。先に完成していたチームソングがアップテンポの熱い曲調で、そことはまったく違う落ち着いた応援ソングになりました。この時代にピッタリな、背中を押してくれる楽曲になっているので、多くの方に聴いてほしいです。
――そして、各チームにもテーマソングがあるんですよね。
僕がキャプテンを務めたBLACK WINGSのチームソング「B.W.Anthem」はちょっと強めの曲調。ユニフォームも黒を基調としていたので強さやカッコよさをイメージして、曲を作っていただきました。一方、DIAMOND BEARSは和田琢磨くんがキャプテンだったので、彼の優しさや温かさが前面に出た「D.B.Go For It」というチームソング。どちらもとても素敵な曲ですので、ぜひ聴き比べてほしいです。
俳優を辞めても受け入れてくれる場所がある、そうわかってから気持ちがラクになった
――昨年、俳優デビュー10周年を迎えましたが、デビュー当時と今とでは仕事への向き合い方に変化はありますか?
デビュー当時は自分なりに一生懸命やっていましたけど、ダメだったら地元へ帰ろうとか、違う仕事に就けばいいという甘えみたいなものが心のどこかにありました。僕は宮城県出身で、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストに出場したことがデビューのきっかけなのですが、ジュノンボーイ出身であれば仮面ライダーに抜擢され、テレビに出て活躍して一人前みたいなところがあって、舞台に出演していても、テレビには出ていないから、地元の人たちからすると「あいつ、今何やってるんだろう?」となる。自分では頑張っているのに、それがまわりに届いていないというもどかしさを抱えて、悩んだ時期がありました。
――そこからどんなふうに意識が変化していったのでしょうか?
俳優を辞めてしまおうと思い、親へ相談したときに、「辞めていいよ」って言われたんです。「もうちょっと頑張りなさい」みたいな答えが返ってくると思っていたところに想定外の答えが返ってきて、「もし自分が辞めたとしても、何事もなかったかのように受け入れてくれる場所がある」とわかった。そこからは気持ちがすごくラクになって、やれるだけのことをやろうと決意してからは仕事が楽しくなりました。もちろん、つらいことや苦しいことはありますが、たまに訪れる最高に楽しいこと、舞台でいうと千穐楽の快楽を味わってしまったので、いろいろと大変な思いをしても、楽しいと思える方向に今、進めています。
叶えたい夢があるのなら口に出すべき。僕は言霊を信じています
――黒羽さんが普段、仕事をするうで大事にしているのはどのようなことですか?
寝坊をしない。そこは自分にとってかなり大事なことで、それぐらいですね。仕事へのこだわりはあまりなくて、お芝居をする時もそうです。柔軟性を大事にしていて、風が右から吹けば右へ行くし、左から吹けば左へ行く。そして、たまに立ち止まればいいのかなって。その他、心に余裕をもつ。いっぱいいっぱいになると、体もきついし精神的にもきついというのは、この10年で最も学んだことです。何事も腹八分の精神。お腹いっぱいになったら、次は何を食べようって思わないじゃないですか。その感覚が仕事にもあると思います。
――その最もきつかった時期について聞かせてください。
仕事に没頭するあまり、余白がまったくなくなってしまい、常に脳をフル回転させた状態の時期がありました。自分とは違う人格を演じることが当たり前になるあまり、そのうち「どれが本当の自分だっけ?」となってしまったんです。このまま続けていたら、僕は50歳より前に死んでしまうと思ったので、それ以降は仕事のペースを考えるようになりました。
――今回の大型イベントのように大きな壁が目の前に現れたら、どう対応しますか?
1人では難しいので、誰かに助けを求めたり、アドバイスを聞いたりします。「どうしよう」となっているときって、どうしても視野が狭くなってしまうと思うんです。極端な話、相談ではなく、愚痴をこぼしてもいいと思う。世の中、思ったよりも冷たくないし、きっと誰かが助けてくれるはず。「ACTORS☆LEAGUE」だって、僕の一言を掬ってくれた人がいて、結果的に大きなイベントへとつながった。誰かに協力してもらうこと、これが大事ですね。
――誰かに助けを求めることに躊躇している人も中にはいると思います。
誰かに助けてもらったら、次に誰かを助ければいいと思います。誰かを助けたことって、きっと自分に返ってくると思うんです。僕は俳優の先輩から「後輩は大事にしろよ」とよく言われていて、それは自分がもし窮地に立った時に助けてくれるのは先輩ではなく、後輩のほうが多いと。そこでもらった恩をどこかで返せるチャンスがきっとあるはずだし、そういう助け合いで世の中は成り立っているのだと思います。
――野球少年だった黒羽さんがドームのマウンドに立つ夢を叶えたように、目標に向かって奮闘している同世代へアドバイスをお願いします。
僕は言霊というものを信じています。最近は、黙っていることが美しいとされる向きもあり、そこを否定するつもりはないのですが、僕自身は何事も口に出して実現させてきた。啖呵を切ってしまったことで自分へのプレッシャーにもなりますし、自己催眠にもなる。やりたいことを口に出すことで誰かが掬ってくれるということを、僕は身にもって経験しているので、皆さんも実現させたいことがあるのなら、ぜひ口に出してみてください。
黒羽麻璃央(くろば・まりお)
1993年7月6日、宮城県生まれ。2010年、「第23回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞し、芸能界デビュー。主な出演作にミュージカル『刀剣乱舞』(三日月宗近役)、「エリザベート」(ルイジ・ルキーニ役 ※コロナにより中止)、「ロミオ&ジュリエット」(ロミオ役)、舞台「黒子のバスケ」(黄瀬涼太役)、テレビ演劇「サクセス荘」(テレビ東京)など。映画演劇「サクセス荘 侵略者Sと西荻窪の奇跡」が12月31日(金)に公開される。
◆公式サイト:https://kuroba-mario.com/
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編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子