土岐隼一(声優アーティスト)インタビュー「不安な時は、それを解消するための方法を考えて行動をすることが大切」
2014年から声優活動を始め、昨年は「東京リベンジャーズ」「大正オトメ御伽話」など数々のアニメ話題作に出演。2019年にはアーティストデビューを果たすなど多岐に渡り活躍中の土岐隼一さん。声優の専門学校に通うために、数々のバイトをしたという大学時代の貴重なお話を伺いました。5月18日には初のフルアルバム『Good For』をリリース。
アルバム『Good For』は、今の年齢だからこそ表現できた作品
――アルバム『Good For』は、大人の色気を感じさせる仕上がりになっていますね。
初のフルアルバムということで「等身大の自分」をコンセプトに、33歳という年齢に合った少し大人な目線での世界を表現したいと思って作り始めました。新しいジャンルの曲調や、歌い方にも挑戦しています。
――ファンクテイストの1曲目「Nonfictional」から、すでにインパクトがありました。
アルバムの冒頭から印象を変えたくて、あえてクールでカッコいい「Nonfictional」を1曲目にしました。リード曲は、2曲目に収録の「Good For」ですが、「Nonfictional」は裏リード曲といってもいい仕上がりになりましたね。
――軽快な「Good For」との対比も魅力的でしたが、そのリード曲に込めた思いを教えて下さい。
ラジオ番組をやっていると悩みを抱えている方がすごく多いと感じるんです。悩みはみんなが持っているものだけれど、僕自身は何かにぶつかった時に「でも、とりあえずやってみっか!」と考えられる事が増えてきました。そういった「少しだけ長く生きた僕」からのアドバイスや後押しを、軽快で陽気な音楽に込めて届けられたらいいなと思って歌いました。
――では、制作を通して特に印象深い曲はありますか?
特別な1曲をあげるのは難しいんですけど「このアルバムじゃなければ出来なかった」という意味では「ワスレモノ」です。今まで、恋愛をコンセプトにした楽曲は、それほど多く歌ってきていないので“急にどうした!?”と驚かれるかもしれません(笑)。失った恋に対する未練や、弱った男性の心理がすごく繊細に描かれていているので、聴いた方に、どのように受け止めてもらえるのかも楽しみです。
――聴き手の状況によっても、伝わり方・感じ方が変わりそうですね。
音楽は聴いて下さった方が感じたことが全てなので、その時々で変化するというのも魅力だと思います。だから、僕はいつも「こういうふうに聴いてほしい」という限定的な表現はしないようにしているんです。
――それが「特別な1曲」を挙げられない理由でもあると。
はい。聴き手の思いを大事にしたいなと思っています。でも、自分からは言わないだけで、ファンの方から感想を頂いた時に、こだわった部分に気づいてもらえた時はすごく嬉しいですよ(笑)。逆に、自分では意識していなかった部分を教えてもらえた時も「こういう捉え方をしてくれたんだ」と思うから、すごく嬉しくて(笑)。音楽に正解・不正解はないので、自由に聴いて楽しんでもらえればと思います!
専門学校の学費を稼ぐためのバイトに明け暮れた大学時代
――では、ここからはバイト経験について伺いたいと思います。
僕が声優を目指したのは大学3年の時だったので、大学を卒業したら自分で学費を払ってお芝居の専門学校に行こうと考えました。専門学校に入ったら、そこで学べることに集中したかったので、目標が決まってからの大学生活はひたすらバイトをしました。
――どんな働き方をされたのでしょうか?
大学4年の時に「1ヶ月休みなく働いたらどうなるんだろう?」と思って、4つのバイトと、派遣を掛け持ちしました。バイト代は40万円を超えましたが、体はボロボロで目標とした1ヶ月が限界でしたね(苦笑)。
でも、その時はお金を稼ぐことだけが目的というよりは、声優やお芝居の仕事を目指すなら、色々な経験をしておきたいという理由もあったんです。だから、バイト先も、書店、コンビニ、飲食店、警備員と、あえて職種を変えて、短期の派遣のバイトもなるべくやったことのないものを選ぶようにしていました。
どんな環境でも、好奇心を持つことで楽しむ方法を見つけられる
――やってみて“これは違ったな”と感じたことも?
どの仕事も、興味が先立っていたので実際に働いてイメージと違うからイヤだと思うことはなかったです。むしろ“こういうふうになっているんだ”と、知らないことに触れる醍醐味がありました。バイトは仕事なので、大変なのは当然ですが、その環境のなかで好奇心を持って何か1つでも楽しみを見つけるようにしていました。
――楽しみというと?
まずは、すごいと思うことを探すんです。たとえば、お盆を腕にまで乗せて、一気に大量の料理を運ぶ先輩とか、他の人より滑らかな動きで誘導をする警備員さんとか。そのプロフェッショナルな姿を見るのが好きでしたし、良いと思ったことは真似するようにしていました。
――発見を楽しむと。
そうですね。“置かれた環境で楽しみを見つける”という考え方は親から教わりました。バイトは、色々な職種を選べたり、様々な環境に身を置けたりと経験値を増やしやすいので、生き方を魅力的にする1つの要素としてやっておいて良かったなと思いますね。
書店の販売員をしていた頃は、天然の筋肉がついた!?
――専門学校に入った後は、どうされたのでしょうか?
大学時代に学費は貯めましたが、その後も生活費は必要だったので、バイトは昔からやっていた書店の販売員だけに絞りました。書店のバイトは、大学生の時から始めて、声優としての仕事が安定するまで続けていたので、店舗は変わりましたがトータルで6年くらい働きました。
――もともと書店を選んだ理由は?
オタクだったからです! 社内割引で本が安く買えたらいいなと思ったんですけど、それも最初だけでしたね。専門学校時代は芝居に専念するために、テレビゲームや、カードゲーム、漫画類など趣味のものは実家に置いて、家には一切置かなかったので。
――書店では販売がメインだったのでしょうか?
レジの接客だけだと思われがちですが、倉庫での仕分けや運搬もあるので、かなり肉体労働でした。出版社に本を送り返すための返品作業は、本が重たいので自然と体も絞られて、当時の体脂肪率はかなり低かったですね。僕はそこで出来た筋肉を“天然の筋肉”と呼んでいるんですけど(笑)。
他にも定期雑誌や単行本の発売日を覚えたり、レジに立っている時はフロアのお客さんを意識しながら、手元では休みなくブックカバーを折っていたりと忙しかったです。でも、そのおかげで手先も器用になりました!
自分にとって、より良い環境を作ることの大切さをバイトを通して学んだ
――では、バイト全体を通して今に役立っていることはありますか?
早い段階で“自分にとって、より良い環境を作ることの大切さ”に気づけたことです。一緒に働く人たちと無理やり仲良くなる必要はないんですけど、本当にちょっとした世間話や挨拶をするだけでも、職場の空気は変わりますから。今でも声優の現場で、知り合いがいてくれるとホッとしますし、その状態で働けたほうが絶対に良いパフォーマンスが出来るはずなんです。僕自身が、緊張しやすくて人見知りだからこそ、一緒に働く相手には、自分から言葉をかけるように意識するようになりました。
――ちなみに、相手に一言をかけるためのアドバイスがあれば。
たとえばコンビニで働いていたとしたら「なんで、今日は水がすごく売れたんですかね?」と質問してみる。そしたら「今日は近くで◯◯があったからね」とか何かしらの答えが返ってくると思うんです。それくらいの会話なら、みんな付き合ってくれると思うので、ちょっとした質問はオススメです(笑)。
――では、最後の質問です。夢に向かって目標を立てて進んでこられた土岐さんですが、気持ちが折れそうになったことはないのでしょうか?
声優という職業は、若い頃から働いている方も多いので、僕自身が夢を追い始めた時期が遅いという不安はありました。でも、親に専門学校に進むと話した時点で“後戻りは出来ない”“目指すと決めたからには泥水をすすってでもやってやろう”という覚悟を決めたので、その時から今まで一度もモチベーションが揺らいだことはありません。
――思いの強さが必要だと。
そうですね。もちろん、上手くいくことばかりではないので、いつも不安はあります。でも、そういう時こそ“今何をするべきか”を考えて行動をする。それが無駄になることもあるかもしれないけれど、考えているだけでは何も変えられないので、そうやってこれからも乗り越えていくんだと思います。
■Profile
土岐隼一(SHUNICHI TOKI)
1989年5月7日生まれ。東京都出身。
2014年より本格的に声優活動を開始。2021年は「東京リベンジャーズ」「大正オトメ御伽話」「吸血鬼すぐ死ぬ」など数々の注目アニメ作品に出演。一方で、2019年5月にシングル「約束のOverture」でアーティストデビュー。今年5月18日に発売されたばかりの『Good For』は、初のフルアルバムとなる。同アルバム内に収録された「Home」は、岐阜県垂井町のPRアニメ『関ヶ原合戦 岐路に立った垂井の武将たち』のエンデイングテーマであり、自身も声優(竹中重門役)として出演中。
◆土岐隼一 OFFICIAL SITE:https://tokishunichi.com/
◆土岐隼一 Official Twitter:@tokishunichi
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影・河井彩美 取材・文:原 千夏
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。