芸人・田津原理音インタビュー「カードネタのおかげで、自分のアイデアの幅が広がったし、周りからのアドバイスも増えました」
自作のカードを使った開封動画ネタで2023年『R-1グランプリ』優勝を果たした田津原理音さん。趣味のカメラの才能もSNSを中心に高く評価されています。好きなことや特技を活かした芸風で活躍の場を広げている田津原さんに、芸人を志したきっかけから、芸人活動での転機、そして田津原さんなりの好きなことを仕事にする方法などをお聞きしました。
中学生のときは、相方もいないのに漫才のネタを書いていた
――田津原さんがお笑いに興味を持ったきっかけは?
明確に覚えてるのは、中学2年の時に見た『M-1グランプリ』です。NON STYLEさんが優勝した年(2008年)なんですけど、その姿がめっちゃカッコよくて、お笑い芸人になろう、と決めました。元々は漫画家になりたいと思ってたんですけど、その日からは完全にお笑い芸人にシフトしました。中学生の頃は、相方もいないのに自分で漫才のネタを書いてました。
――ということは、最初はピンではなく「漫才」をやりたい、と。
初めて人前でやったのは高校2年の文化祭でした。そのときは漫才をやっていて、コンビ以外でやっていく発想は全くありませんでした。ピンネタの凄さを知らなかったんです。ピンネタをやりたいと思ったのは、NSC(吉本総合芸能学院)に入って、2年目ぐらいでピン芸人になったとき。『R-1グランプリ』を見て、ピン芸の凄さにシビれたんです。一人でこんなに人を笑かせることができるんだって。そこから漫才やりたいというのは一切なくなって、ピン芸を極めよう、と思いました。
カードネタを始めたら、周りが次々とアドバイスをくれるように
――ピンとして、この形でいけそうだ、という手応えをつかんだ瞬間は?
カードネタをやるようになって、周りに芸人がいっぱい集まってきたんです。それまでフリップでネタをやってたときは、お客さんにはウケてるけど、いわゆる「袖ウケ(※)」みたいのがない状態だったんです。それがカードでネタをやり始めたら、ネタ終わりに先輩、同期、後輩いろんな芸人が集まってきて、「ここもっとこうしたらいいんちゃう?」とか「こんなのできるんちゃう?」といろいろ言ってくれて。仲間がこんなにアドバイスをくれるなんて初めての経験だったんです。それで、もしかしてこれってすごいわくわくするネタなのかも、という手応えがありました。
――田津原さんが芸人を「仕事」としてやっていける、と実感できたのはいつ頃ですか?
それはほんまに最近やっとです。まず、R-1優勝後の仕事のギャラが反映されるのが、先月だったんですよ。優勝後一発目の吉本からのギャラは月6万円でしたから(笑)。優勝直後も電気止まりましたし。でも、バイトやってる暇もなくなって、どうしたらええんやろ、っていうのがずっとあって、やっと先月ぐらいからまともに(笑)。
コンビニのアルバイトはあるあるネタの宝庫
――ちなみに、アルバイトはどんなことをされてましたか?
いろいろやりました。一番長くやったのはコンビニの夜勤ですね。あとは、ミシンを箱に詰める仕事、健康診断の補助をするバイトもやりましたし、8時間ひたすら服をたたむバイトもやりましたね。カラオケ屋とか、スーパーのレジ打ちも、介護施設のグループホームでもアルバイトをしました。
――アルバイト経験が今の田津原さんにプラスになった面はありますか?
人間観察という点では勉強になりました。コンビニに来られる方の「あるある」はネタでやらせてもらいましたし(笑)。僕は基本的に手が空いている時間をネタやアイデアを考える時間にできるようなバイト先を選んでいたんですけど、バイトをしていたコンビニとかは、そこに対する理解もある店長さんだったので、すごく助かりました。
苦しい時間も想像してこの世界に入ったので、苦しく感じる時も全部楽しい
――現在、初の作品展『どんな人生。』が開催中ですが、写真やイラストなど、ご自分の好きなものを仕事として、作品として形にされています。そこにはどんな意識を持たれていますか?
周りの芸人が辞めるかどうか悩んでる時に、僕がいつも言うのは「何でもできるのが芸人だよ」って。俳優もできるし、歌を出せる、何でもできるのが芸人だから、辞めてやりたい仕事があるなら、それ芸人やっててもできるんじゃない?って。それは自分に関してもその発想で、やりたいことをやろう、というのは常にあるので、写真もやろう、個展もやろう、と。
――田津原さんの活動を見ていると、ただ、趣味を仕事に取り入れようとするだけではなく、そこに進んでいくために、相当研究されて、考えられたんだろうなというのも伝わってくるのですが。
考える時間が楽しいんです。よいアイデアが出てこなくて苦しい時間も全部楽しい。苦しい時間も想像してこの世界に入ったので、苦しい時間がくると、「これこれ!」って思うんです。俺青春してるな、って。それに、一度こんなんもできるぞ、というのが見えてくると、ネタの全体像がどんどん明確に見えてくるんですよね。ぼんやりとじゃなく、ビジョンが見えてくるんです。
やりたいことが明確になると、自分の世界が広がっていく
――ビジョンが見えてくるとはどういったものですか?
ネタ作りでいうと、カードネタという形を考えると、このカードあるあるもできるし、こういう見せ方もできるな、と無限大に広がって、すごく鮮明に見えるんです。そうすると、周りにも伝わりやすくなるから、先輩も後輩芸人からのアドバイスも増える。芸人って、見てわくわくするネタを見ると、自分だったらこうできるかも、とかも生まれてくるし、その本人にも言いたくなるんですよ。
――ビジョンの明確さが自分も周りも動かすと。
そうですね。だから、仕事探しも、こうしたいああしたいみたいな広がりがぼんやりとしか見えないものよりは、これをしたら次はこうしたいがどんどん出てくるっていう感覚の仕事の方が向いてるんちゃうかなって…、すみません、偉そうですけど、そんな気はします。
――では、最後にこれからバイトを始めたい、自分に合った仕事を見つけたいと考えている読者の皆さんへメッセージをいただければと思います。
あくまで僕の考えなんですけど、好きなことじゃないと何事も続かないと思ってるんです。続けるのがしんどいものは好きじゃないんやろうな、と。僕、ほんまにお笑い芸人を辞めたいと思ったことは1回もないんですよ。つらいときもあったんですけど、「辞めたい」にはならない。仕事を選ぶときは、大変だと思っても、続けられるものは何なのか、という角度から考えたほうがいいのかもとは思います。
田津原理音(たづはら・りおん)
1993年5月25日生まれ。奈良県出身。吉本興業所属のピン芸人。主に特技のイラストを駆使したフリップをめくる芸風。オリジナルカードの開封ネタで2023年の「R-1グランプリ」で優勝を果たす。趣味は写真撮影、ポスターデザイン、イラスト
◆Official YouTube:https://www.youtube.com/@user-cw8dm6gq5z/featured
◆Official Twitter:@pen_my
◆Official Instagram:@rion_tadzuhara
◆Official TikTok:@rion_tazuhara

田津原理音 作品展「どんな人生。」開催
田津原理音初の作品展を開催。芸歴10年間でのネタや撮りためた写真などを展示。
・日程:2023年6月24日(土)~7月2日(日) ※6月27日(火)、6月28日(水)は休館日
・時間:13:00~18:00
・場所:Laugh & Peace Art Gallery(大阪市中央区難波千日前3-15 吉本本館1F)
・HP:https://laugh-peace-art.com/
・入場料:無料
・企画・制作:吉本興業株式会社
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:井野友樹 取材・文:田部井徹