声優・伊藤美来さんインタビュー 「“なんでも出来る”声優という仕事を通じて、自分と向き合うことを学びました」
11月22日に公開される劇場アニメ「フラグタイム」で主人公・森谷美鈴を演じた伊藤美来さん。女子高生同士の不思議な関係を描いた作品にまつわる秘話や、昔から“演じることに興味があった”という伊藤さんのお仕事観を伺いました。
「フラグタイム」は、学生時代の葛藤や悩みなど、人間味に溢れた作品です
——まずは主人公・森谷美鈴を演じてみての感想から聞かせてください。
森谷の心情がモノローグで綴られる部分が多かったので、セリフ量が多いかも、と心配だったんですが“オーディションで選んでいただいたからには!”と自分に言い聞かせ、気合いを入れて臨みました。
——特に印象に残っているシーンを教えてください。
森谷の成長を感じることができる、ラストシーンへ向かっていく展開がとても好きです。大切な相手に自分の本心や、強い言葉を伝えるのはとても怖いことだと思うんですけど、相手や自分自身ときちんと向き合うシーンでもあるので、演じる時も大事にしようと思いました。完成したものを見てもグッときましたし、森谷のセリフは自分に言われているみたいで、ハッとさせられることが多かったです。
——演じるうえで難しかったシーンはありましたか?
女の子同士のドキッとするシーンが何度か出てくるんですけど、森谷と彼女の憧れである村上遥(声:宮本侑芽さん)との距離が近いシーンは、少ない言葉数と息づかいだけで雰囲気を表現しなければならなかったので難しかったです。でも、アフレコ前に、シーンごとに監督との打ち合わせをしてからの本番だったので、テイクはあまり重ねずにできました。
——アフレコの際に必ずするルーティンはありますか?
お腹がならないように、現場におにぎりを一つとゼリー飲料を必ず持っていきます。静かな現場でマイクに拾われてしまうと想像以上に恥ずかしいので、お腹がいっぱいでも予備として必ず持っていくんです。それはそれで、食いしん坊みたいでちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。
——お腹が空いたら伊藤さんのところに行けば助けてもらえるというわけですね(笑)。では、演じた森谷美鈴と伊藤さん自身との共通点はありますか?
人づき合いが苦手なところは似ているかもしれないです。みんなに好かれる村上さんのようにキラキラしたタイプではなく、私自身も実はちょっとネガティブで考え込んでしまうタイプなので。
——「フラグタイム」には、友だちを中心にした人間模様が描かれていますが、伊藤さん自身は周囲からどんな人に見られていると思いますか?
普段はネガティブな部分を出さないようにしているし、一緒にいる相手には楽しんでほしいので、そこだけを見て分析されると“ヘラヘラした人”って言われちゃうかもしれないです(笑)。
――それは意外です(笑)。劇中の登場人物たちのように、10代後半にはその年代だけのモヤモヤした感情に悩まされる時期が必ずありますよね。
「フラグタイム」はイラストだけ見ると可愛らしいテイストなんですが、実は学生時代ならではの葛藤や痛みに迫っていて、人間味溢れる作品だと思います。キレイだけど心の深いところを突かれる痛みみたいな部分も描かれているので、観ていてハラハラドキドキしたり、自分自身と向き合うキッカケになってもらえたら嬉しいです。
表舞台やブログなど、自分自身を表現することが成長に繋がっている
——ここからはお仕事観について伺いたいと思います。この世界を目指したキッカケから教えて下さい。
小さい頃から舞台やドラマなどのお芝居を観ることが大好きで、ドラマを見ながら女優さんと同じ表情をしてみたり、どんな感情なのかを想像して泣いたり笑ったりという遊びをしていました。私は“演じることをしたいんだな”という密かな思いはその頃からあったのですが、現実的なものではなく、憧れどまりでした。
——そこからどんな変化があったのでしょう?
中高時代の友だちにアニメがすごく好きで詳しい子がいて、いろいろな作品を教えてもらうなかで声優という職業があることを知りました。どんな仕事をするのか自分なりに調べてみたら、アニメキャラクターの声以外にもゲームの声や、役者としてドラマや舞台に出演されている方、歌手活動をされている方もいて、“なんでも出来るこの職業ってすごい!”と感激したんです。声優という仕事を軸にしつつ、エンターテインメイント性にあふれたこのお仕事を知ったことをキッカケに、今の事務所のオーディションに応募しました。
——実際にお仕事をしてみていかがでしたか?
最初はすべてが新鮮でした。声優を目指すキッカケでもあった“なんでも出来る”ということに対しても、思っていた以上にライブやイベントで表に出たり、ブログに日々の出来事を書いたり、ラジオでお話したりと、自分自身を表現する機会が多くて驚きましたね。“声で演じること”が仕事なので、表舞台に立つことに戸惑った部分もありますが、(表に出ることで)成長の場を与えてもらっていると思います。
“わからない”を解消するために、言葉の背景を考えることから始めました
——人間性が豊かになると仕事にも繋がっていきそうです。声優として感じている成長や変化はありますか?
オーディションを受け始めた頃は、お芝居の立ち振る舞いや、台本の読み方、感情の作り方など、何もわからない状態からスタートでした。
——それをどう打破していったのでしょうか?
お芝居に関して何もわからなかったので、現場でお会いする先輩たちの背中を見ることしか出来なかったんです。そこで役の作り込み方が人それぞれ違うことを知り、自分なりの方法を見つけないといけないと思いました。
——伊藤さんが見つけた方法とは?
“わからない”と感じるのは、自分が作品を読み込めていないからだと感じたので、端役や一言だけのセリフの収録でも、その言葉の裏にはどんな背景があるのか、どんな気持ちで出てくる言葉なのかを一つずつ考えて取り組んでいくことを心がけました。まだ、自分の方法論とまではいかないですけど、その積み重ねが自然と自分の身についていったらいいなと考えています。
先輩に声の芝居を評価してもらえたことで、ようやく自分に自信が持てた
——お仕事をするなかで、大事にしていることはありますか?
ドラマCDで初めてヒロインをやらせていただいた時に、キャストはみなさん大御所の声優さんで、私だけが新人で右も左も分からない状態だったんです。頑張ってついていこうと必死で…。
——それは緊張感がありますね。
でも、ある先輩が「自然なお芝居がいいね」と褒めてくださって。「技術は大切だけど、変に上手くなることだけにとらわれないように」というアドバイスは、今でも心にしっかり留めています。当時はまだ私自身の出演作品も少なく、誰かにお芝居を“評価してもらう”ということがなかったので純粋に嬉しかったですし、その後の自信につながりました。
——誰かに認めてもらえるとパワーになりますよね。
演じたキャラクターの声が「私でよかった」と思ってもらえた時が何よりも嬉しいです。今回の作品も、制作中に原作の佐藤卓哉さんとお話した時に「オーディションの時から森谷の役は、伊藤さんがいいと思ってたんだよね」と言っていただけて光栄でしたし、期待された分、きちんと恩返しをしたいなと思いました。
仕事を始めたことで、少しずつ自分自身のコントール方法がわかってきた
——お話を伺っていると、伊藤さんはとても冷静に自己分析されている方だなと感じます。
ありがとうございます。まだ、少しずつですけど。自分のことが分かってきたのはこのお仕事を始めてからです。仕事を始めたのが15歳だったので、学校との両立で体力的にもメンタル的にもちゃんと自分をコントロール出来ない、と思ったんです。コントロールといっても難しいことではなく、“落ち込んだ時はどうしたらいいのか?”とか“気持ちが楽になる方法は何かな?”とか、本当に単純なことなんですけど(笑)。
——たとえば、どんなことをしますか?
壁にぶつかった時は、“出来ない、どうしよう、もうダメだー!”って悩めるだけ悩みます。落ちきったらもうそれ以上先はないので、次はどうしたら変われるのかを考えます。落ち込んだ後は、寝るとか、美味しいご飯を食べるとか、意識して自分をフラットな状態にもっていくようにするだけでかなり違ってきます。そうするうちに、フラットな状態にしたほうがいいタイミングがなんとなく分かるようになってきました。
——では、最後に夢を追いかける世代にメッセージをお願いします。
アニメの内容とも重複しますが、私はお仕事を通して自分自身と向き合うことを学べました。どんな職業でも、得られることはたくさんあると思うので、夢を追いかけている方は諦めずに頑張ってください!
伊藤美来(いとう・みく)
10月12日、東京都生まれ。2012年「第1回スタイルキューブ声優オーディション」に合格。2014年「普通の女子高生が【ろこどる】やってみた。」の宇佐美奈々子役でテレビアニメ初主演。2016年、シングル「泡とベルベーヌ」で歌手デビュー。主な出演作に「五等分の花嫁」(中野三玖役)、「BanG Dream!」シリーズ(弦巻こころ役)など。
◆OFFICIAL SITE:https://columbia.jp/itomiku/
◆OFFICIAL Twitter:@infoItomiku
◆OFFICIAL BLOG:https://ameblo.jp/itou-miku/
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:青木早霞(PROGRESS-M)
取材・文:原千夏