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2016年06月08日

“非リア充”が “リア充” と気後れなく会話するには│名越康文

名越康文先生(リア充、非リア充)メイン

今の若者のなかには、自分と自分の属性に近い人を「非リア充」、自分より充実した生活をしている人を「リア充」に二分し、「リア充」側の人に苦手意識を持つ人がいます。こういった「非リア充」が「リア充」と気後れなくコミュニケーションをとるにはどうすればいいのか。テレビでおなじみの精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)にお話しを伺いました。

リア充の「リアル」は本当に充実しているのか

フェイスブックを見たら、「その日行ったパーティの写真」が貼り付けられていて、「ああ、リア充だなあ」と気後れしてしまう。おそらくそんな経験をしたことがある人は少なく無いでしょう。そういう人はぜひ、「この人のリアルな生活は本当に充実しているだろうか?」と想像してみることから、始めてみてください。

確かに、フェイスブックに掲載された写真は華やかで、楽しげです。大きなお皿の上に伊勢海老が載っていて、花火がパチパチ光っている。その周りで、みんなで、笑顔で写真に写っているのを見ると、「いいなあ、楽しそうだなあ」と思われるかもしれません。

でも、よくよく考えてみるとその人は、パーティ中か、終わったあとかはわかりませんが、わざわざそんな写真を撮り、SNSに公開しているわけです。その作業に勤しんでいるときの心境をできるだけリアルに思い浮かべてみてください。それはそんなに「充実した」時間と言えるでしょうか?

パーティに出席し、そこで撮った写真をSNSにアップする。アップされた写真は幸福そうに見えても、それをアップする人の心境に目を向ければ、そこにはどうも焦りや、不安がありそうだ……そうやって相手の心境をリアルに想像する、ということをやるだけでも、「リア充に対する気後れ」が軽減される、という人もいるかもしれません。
 

幸せは「過ぎ去る」もの

名越康文先生(リア充、非リア充)サブ1
誤解のないように申し上げておきますが、そういう写真をアップしながらも、毎日を心から楽しんでいる人もいらっしゃるとは思います。ただ、「自分が楽しんでいる」「自分は幸せである」ということをことさらに意識したり、アピールしたりするということは、少なくとも心理学的には幸福度を下げる行為であると言っていいだろうと思います。

なぜならどんな幸せも「やがて過ぎ去る」ものだからです。「楽しい」「幸せ」という感情は、その瞬間を楽しむ限りにおいては素晴らしいものですが、それを意識すればするほど、気分を激しく浮き沈みさせてしまいます。

フェイスブックやインスタグラムに毎日のように“ハレ”の写真を上げるという行動は、「楽しい時間」と「楽しくない時間」の落差を際立たせます。もちろん、「リア充」という言葉自体がすでに「ネタ」になりつつある昨今においては、半ばパロディとしての「リア充」を演じている人もいるかもしれません。しかし、タレントさんや芸人さん、あるいはスポーツ選手のように「見せる」ことを仕事にしている人でないかぎり、「他人に自分が楽しんでいるところをアピールする」というのは、マナーうんぬんとは別に、心の安定という観点からいうと、あまりお勧めはできないんです。
 

気後れは自信のなさの裏返し

名越康文先生(リア充、非リア充)サブ2
リア充に対して気後れをしてしまうというのは、一言で言えば「いまの自分の人生に、どこか自信がない」ということです。

これまで見てきたように、いわゆる「リア充」と呼ばれる人たちは、「自分が幸せである」ということを誰かにアピールしたい、と考えている時点で、どこか不安を抱えている人たちです。そのことは、ある程度、人生経験を積んできた人であれば了解いただけることでしょう。しかしながら、まだ社会人経験の浅い若い人は、頭でそうわかっていたとしても、実際に「リア充」を目にすると、ついつい焦ってしまう、ということがある。

頭では「あの人たちはあの人たちで大変なんだろうな」と冷静に捉えようとしても、心のどこかで「でも……やっぱりあいつらは、自分の知らないところですごく楽しい思いをしているんじゃないか?」という妄想から手を離せないわけですね。

「ホームパーティ」とか「クラブで踊りにいく」といった、いまの自分の生活の枠組みから外れたイベントを楽しんでいる人たちのことを見聞きすると、どうしても「やばい! 自分だけが人生の楽しみをつかみ損なっているんじゃないか」と不安になるわけです。

そういう人に僕がお勧めするのは、いまの自分から一歩踏み出して、「殻を破る」体験を積む、ということです。
 

「殻を破る」ことが自信になる

名越康文先生(リア充、非リア充)サブ3
「殻を破る」とはどういうことか。別に、普段人付き合いをしない人が、いきなりホームパーティをやったり、合コンに行ったりしろ、というわけではありません。ポイントは「ちょっとだけ無理をする」ということです。

例えば、運動不足気味の人であれば、週に1-2回、スポーツクラブに通ってみるということです。あるいは、読書習慣のない人が、1時間、じっくり本を読むということでもいいでしょう。別にあえて「リア充的な生活」をする必要はありません。いまの自分の生活習慣にない何か、自分がこれまでなぜか手を出してこなかったものに、あえて手を出してみる。それだけでも十分、「殻を破る」ことになります。

こういう時間を積み重ねると、だんだんと、「リア充」の人を相手にしたときでも、あまり気後れしなくなってくるんですね。

リア充相手に気後れしないために必要なことは、「リア充」に近づく努力ではありません。今の自分の枠組みを超えること、「殻を破る」という体験なんです。
 

中二病は大事

名越康文先生(リア充、非リア充)サブ4
なぜ「殻を破る」ことが、リア充に対して気後れしないことにつながるのか。これは僕が経験的に感じていることなんですけれど、中学生や高校生の思春期の頃にちょっと「間違った努力」をした経験のある人って、意外とリア充に対する劣等感を持ちにくいようなんですね。

これは特に男性に多いケースですが、思春期の頃って「間違った努力」をしがちですよね。例えば「女の子にモテたい」と思っているくせに、ジャズみたいなマニアックな音楽に手を出したり、やたらと身体を鍛えてマッチョになろうとしたりする。

本当ならファッションにお金を使ったり、女の子と共通の話題にアンテナを張ったりしたほうがいい。でも、多くの男子中学生は、どういうわけか「そんなのじゃダメだ」と思ってしまう。その結果、モテるためには何の役にも立たないような(というよりも、むしろ逆効果になるような)趣味に心血を注いでしまう。

ところが、です。こういう思春期特有の「間違った趣味」「行き過ぎた努力」みたいなものが、往々にして、その人が生きていく上での「芯の部分」を太く、形作ってくれることがあるんです。

これは女性でも同じです。最近、「こじらせ女子」という言葉もありますが、自分の欲求をストレートに追求できずに、ちょっとオタク的な趣味に走ってしまった経験というのは一見、「リア充」とは真逆の方向のようですけど、意外に「リア充」に対して気後れしないための、支えになってくれたりするんです。
 

リア充との出会いは「チャンス」

名越康文先生(リア充、非リア充)サブ5
「リア充への気後れ」を解消してくれるのは、「リア充的な経験」の積み重ねではなく、むしろ「非リア充的な努力」によって自分の殻を突き破った経験なのだと僕は思います。そういう意味では、もしもあなたがリア充に心を揺さぶられ、不安を覚えているとすれば、それは「殻を破る」チャンスだと捉えてみるのはいかがでしょうか。

何も「エベレストに登る」とか「トライアスロンに挑戦する」といった高いハードルを超える必要はありません。本当に些細なことであっても、それまでの自分の人生の殻を破る体験は、あなたの心の芯に、自信を植え付けてくれます。

あなたの本棚には、買ったまま一度も開いたことがない本が、一冊はあるはずです。あなたはなぜ、その本を開かなかったのでしょうか? 忙しかったから? 時間がなかったから? いろいろ理由をつけることはできると思いますが、心理的に考えれば、答えはひとつです。あなたの身体が、心が、無意識のうちに「殻を破る」ことを拒否しているのです。

リア充に触れたとき、もしあなたが「自分は人生の楽しみから疎外されているのではないか」と不安になったとしたら、それはチャンスだと思ってください。「気後れ」を生むのは、あなたの心の中に無意識のうちに設定されてしまった「限界」が刺激されたからです。

必要なのは、ほんの少しの勇気です。自分の殻を破るチャンスを逃さないように、何か一歩、自分の枠組みの外に足を踏み出してみてください。

 
※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。

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