カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」採点スタッフバイト編
そろそろ無職になって丸2年、あとひと月で任意継続の青い保険証も手放さなければいけない。
「社会保険…何もかもが懐かしい」という状態だ。
若人には何だかさっぱりなことを言ってしまったが、実は私の世代ですらない。
アルバイトでもうまい事いけば、社会保険に入れるのだが、ご存じの通り、今は外出の自粛を要請されている、という状態だ。
店舗も休業が相次ぎ、アルバイト募集も少なくなっているようだ。
労働をしなくていい理由が出来たとも言えるが、当然そのような姿勢でいつまでもいると、衣食住が確保できないなど、ウィルスとは関係ない理由で生命が脅かされかねない。
在宅や、リモートワークで業務を続けている企業があるように、アルバイトも在宅で出来る物もある。
今回はそんな在宅でも可能なアルバイトである。
「採点スタッフアルバイト」これが今回紹介する仕事だ。
採点スタッフとは、学生たちが受けたテストや模試、もしくは通信講座の答案を採点するアルバイトである。
この時点で私をはじめとした学力に自信のない者は解散してしまっているかもしれないが、もう一度2メートル間隔をあけて集合してほしい。
もちろん正誤は己が判断するわけではなく、用意された解答マニュアルに沿って行う。
マークシートや、番号や記号を記入するようなテストなら、ひたすら答案と回答を照らし合わせる単純作業となる。
たまに、0と6、さらには9までも同じ形態で表現してくる芸術家肌の回答者もいるので、多少解読力も必要になってくるかもしれないが、主に学力より、注意力と集中力を求められる仕事だ。
このような単純な採点であれば、在宅でも可能だというものもある。
また採点アルバイトには、マークシートや記号を記入するものだけではなく、回答者が自分で答えを考えて記入するものもあり、中には文章形式で答える問題を採点することもある。
例えば国語のテストなどに「この時の筆者の心情を100文字以内で答えなさい」というような問題がある。
実は、この問題は問題自体が間違っている。
原稿を書いている時の作家の心情など、締め切りや出版社、担当編集への怨嗟以外ありえないので、答えが全部同じになってしまう。
よってこの問題は「締め切りが明けて余裕ぶっこいている筆者が掲載された己の原稿を読み直している時の心情」が正しい。
そのような文章形式の解答も「締め切り、今日、つらい、担当編集、恨」などのキーワードが何個入っていたら○にする、または「担当編集 恨」という重要ワードが入っていなかったら減点にする、などの細かい採点基準マニュアルが用意されているので、それに沿って採点することになる。
このように基本的にマニュアルに通りに採点していけばいいので、採点スタッフには特別な学力や知識、スキルはいらない。ただし、最近は用紙ではなくパソコン上で採点することも多いようなので、パソコン操作はある程度慣れていた方が良いかも知れない。
だが採点スタッフアルバイトには、マニュアルでは採点が難しいものや、アドバイスを記入するなどの指導を求められる場合もある。
このような学力を必要とする採点スタッフは採用テストがあるので、イヌクティトゥット語しか話せないのに何故かスペイン語講座の採点を任された、というような事故はない。
学力を求められる採点スタッフは当然時給なども高い、よってスキルがなくてもできるが、スキルを生かして高収入を狙うこともできるアルバイト、ということである。
つまり、私が中学生の時にやっていた通信教育の赤ペン先生®も先生ではなく「赤ペンアルバイト氏」だった可能性もあるが、指導力に問題がなければ別に構わない。
採点アルバイトのメリットは業務自体は簡単、また黙々と答案や画面に向かう仕事なので対人スキルもそれほど必要ないという点だ。
また、自分も問題を見るので勉強になる、という余裕のある意見もある。
ただ前述の通り、集中力と注意力が必要となる。
模試とは言え、その点数を見て志望校をバカ田大学に変えてしまうということもなくはない。
解答者をバカボンのパパの後輩にしてしまう可能性がある、と思えばかなり責任重大な仕事だ。
ちなみにバカ田大学は名門大学らしいので「本来の実力では無理な学校を志望してしまうかもしれない」という意味でもある。
また、体を動かす仕事ではないが、目が疲れたり、同じ言葉を見続けることによりそれが何だったかわからなくなったというゲシュタルト崩壊報告もあるので、ミスを防ぐためにも休憩は適切に取る必要がある。
集中力と注意力を求められる単純作業と言われたら、私に向いていないような気もするが「人に点数をつける」という作業なら楽しんでやれそうな気がする。
何せ、いつもはこちらが、漫画レビューサイトで☆1.5とか採点される側なのだ、たまには採点する側に回りたいものである。
※「赤ペン先生」は、株式会社ベネッセコーポレーションの登録商標です。
▼カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」▼
そのほかの記事を見る(記事一覧はこちらから)
▼前回・前々回記事を見る▼

無職に伴う隠遁生活も早二年、たまに外界の人間に接すると、動機、めまい、吐き気、頭痛、腹など、死なない程度の体調不良が全て押し寄せる。万が一働くとしても、出来るだけ人と接しない仕事であることがマストだろう。さもなければすぐに「労災だ!」と言い出す厄介な人になってしまう。今回紹介するアルバイトは、そんな条件をかなり満たしてくれていると言って良い。「ポスティングアルバイト」これが今回のテーマだ。

相変わらず自宅から出ていない。私のような、家から出ない無職を「自宅警備員」と呼ぶことがある。自宅警備員の本格活動は、主に家族が寝静まったころに始まる。顔を合わせると小言を言われて煩わしいからだが、ある意味「寝ずの番をしている」と言っても良い。仕事は、冷蔵庫の在庫処理などだ。こうすることにより、家族が賞味期限切れの食品を食べてしまうことを防ぐ、つまり自宅だけではなく家族の健康をも守っているのだ。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。