カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」警備員バイト編
相変わらず自宅から出ていない。
私のような、家から出ない無職を「自宅警備員」と呼ぶことがある。
自宅警備員の本格活動は、主に家族が寝静まったころに始まる。
顔を合わせると小言を言われて煩わしいからだが、ある意味「寝ずの番をしている」と言っても良い。
仕事は、冷蔵庫の在庫処理などだ。こうすることにより、家族が賞味期限切れの食品を食べてしまうことを防ぐ、つまり自宅だけではなく家族の健康をも守っているのだ。
このように、家族が安心して働けるよう、自宅と健康を守り、無駄を排除するのが自宅警備員の仕事だ。
まさに家庭の守護神。なくてはならない存在なのだが、どうせ警備するなら時給をもらえる警備をした方が良いのではないか、という意見もある。
それが今回紹介する「警備員」のアルバイトである。
警備員と言うのはその名の通り、施設やイベント会場、駐車場などを警備する仕事である。
警備というとトラブルの発生や、不審者の侵入を防ぐため、その場を見張る仕事というイメージが強いかもしれないが、工事現場や施設の駐車場で車の誘導をする「交通誘導」や、コンサートや祭など、人が多く集まる場で、車や人間の誘導をする「雑踏警備」も警備の仕事に入る。
交通誘導では、我が村のドラッグストアもポイント4倍デ―になると、駐車場がいっぱいになるので、誘導する人が立っている。あれも警備の人なのだ。
道路ではなく、敷地内の誘導のみなので事故の危険は少ないが、混雑時の駐車場というのは1歩間違えると、進むことも戻ること出来ないアゲハ蝶状態になるので、判断力と他の警備員との連携が必要になってくる。
雑踏警備は人が集まる場所故に、多くの車や人を誘導しなければならない。
さらに、人間にはたくさん集まると揉めやすくなるという厄介な習性があるので、トラブルが起こらないように一層気を張る必要があるのだが、一方でイベントアルバイト同様、コンサート警備などでは有名人を目にする機会がある、というメリットもあるようだ。
そして、ショッピングモールやビル、大学などの警備室に常駐したり、施設内や敷地の巡回をする「施設警備」の仕事がある。
おそらく警備員と聞いて、まず思い浮かぶのがこの施設警備なのではないだろうか。
警備員のアルバイトをするのに資格はいらないが、業務に当たる前に30時間の研修が必ず必要になる。研修は会社が受けさせてくれるので、自分で事前に受ける必要はなく、未経験者でも応募することは可能だ。
また、警備のバイトに資格はいらないが、警備業務検定など警備に関する資格はある。
警備という仕事は今のところ需要がなくなることはないので、バイトを通じて取っておいても損はない
警備員の主な仕事は、まずはトラブルが起こらないように、誘導、警備をすること、そしてトラブルが起こった際はその対処に当たることである。
よって危険が100%ないとは言い切れないが、不審者を取り押さえたり、親指を立てて溶鉱炉に沈んだりと、自分の命を顧みず危険に立ち向かわなければいけないというわけではなく、利用者の安全確保と、速やかな通報が主になると思って言っていいだろう。
敵に背中を見せたら切腹という新撰組みたいな規則はない。
ただ、利用者を差し置いて逃げる、一番最初に泣く、などということはあってはならないので、トラブルが起こったら率先して対処に当たらなければいけないという覚悟と冷静さは必要である。
警備員をやるメリットだが、時給が高め、そして時間の融通が利くというのがある。
場所によっては24時間警備が必要なので、自分の空いた時間に入ることができ、深夜や早朝などの時給割り増し時間を狙う、ということも出来る。
ただ、屋外警備は「雨で中止」ということもあるので、天候によって収入激減ということもあるようだ。また、真冬や真夏の屋外警備は当然のごとく厳しい。
いくら時給が良くても暑さ寒さに耐える自信がない人は、施設内警備にしておいた方が身のためだ。
ただ、屋内でも、基本的に何時間も立ちっぱなしであるということは頭に入れておいたほうが良い。
ところで、女性は警備のバイトができるのか気になっている人もいるだろう。
これが実際は重宝されることが多いらしい。
施設によっては女性の利用者が多いところもあるし、女子トイレや更衣室、授乳室など、基本的に男子禁制な場もある。
いざトラブルが起きたらそんなことは言っていられないのだが、そういう場に男性警備員しかいないのは逆に不安と感じる利用者もいるだろう。
また有事の際に声をかけるにも、女性警備員の方が声をかけやすいと感じる人も多いようだ。
このようなことから、女性警備員を求めている会社も多く、むしろ応募者不足から歓迎されるかもしれない。
もちろん屈強でなければ採用されないなどということもなく、警備員の制服は警察をオマージュしているので、それを着て目を開けて立っているだけでも十分警備にはなっているし、後ろ暗い人間は早足で前を通り過ぎる。
私も自宅警備に関してはすでにベテランの域であり、よく何もないところを見つめているので、「見張り」も得意と言えば得意だ。
そのスキルが警備員のバイトでどれだけ生かせるかはわからないが、逆に警備員を経験することにより「家人の小言に出くわしたら最短の経路で速やかに避難する」など自宅警備員としてのスキルが上がるような気がする。
私もそろそろスキルアップを考える時が来たのかもしれない。
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
Twitter https://twitter.com/rosia29
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私の本業は無職だが、副業でこのような文章や、漫画の仕事もたまにしている。しかし、私の漫画を書店で見かけることはあまりない。何故なら書店というのは売れているか、売れるあてがある人気作品を置くところだから。それと同じ理由で、今回紹介するバイト先でも私の作品を見かけることはあまりない。今回紹介するのは「ネットカフェ」でのアルバイトだ。

私ほどの低知名度になると「スタッフは全員身内」という、毎回冷蔵庫の余りのみで作ったかのようなイベントになるのだが、それでも滞りは特にない。しかし、世の中には、それではパニックになってしまう大きなイベントがある。今回紹介するアルバイトは、そんなイベントを支援する「イベントスタッフ」だ。
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