カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」塾講師バイト編
私ごとだが去年実家の父親が倒れた。
幸い一命は取り留め、現在入院中だが4月には退院し、自宅へ戻るべく今リハビリ中らしい。
「自分のことは自分でやる」と父は供述しているようだが「まあやらねえだろう」という50年近く父に連れ添った母の言葉は重く、現在自宅を急ピッチでバリアフリー化しているそうだ。
そんな状態なため「去年からついに生徒募集をやめた」らしい、実は私の実家の家業は「塾」なのだ。
だがこちらとしてはやめたことより、まだやっていたことに驚愕である。
父は既に後期高齢者であり、入院以前から体の具合がそんなに良くはなく、親戚の集まりにも匍匐前進で登場するようになってから久しい。
だが逆にいえばそんな状態になっても続けられるのが講師業ということだ。
定年後も働け、むしろ定年を引き上げようなどと、国が堂々と物騒なことを言っている今、永遠に続けようと思えば続けられる仕事の一つとして選択肢に入れて良いだろう。
ちなみに漫画家も需要さえあれば死ぬまで続けられるのだが「死ぬまでこんなこと続けたくない」というのが正直な感想だ。
ともかく「永遠に働かなければいけない」という最悪の事態を想定した時、塾講師の経験はあって損はない、ということだ。
そんなわけで今回紹介するのは塾講師のアルバイトだ。
私は何せ家業が塾なため、他の塾に通うなど、家がセブソだが、買い物はローソソ決め打ちみたいな真似はできない。
そう言いたいところだが、真剣にやる系のゼミは普通にやっていた。
だが流石に実家と同じタイプの塾に行って講師に教えてもらうタイプの塾には通ったことがない。
よって実家以外の塾は知らないのだが、塾にも種類が色々あるそうだ。
まず全ての塾を総称して「学習塾」といい、その中で学校の授業をフォローする「補習塾」と、受験対策用の「進学塾」や「予備校」がある。
また指導形態も講師1人に対し1～3人を受け持つ「個別指導」と10～30人くらいを受け持つ「集団指導」がある。
これでいうと私の実家は学習塾の中では「補習塾」に当たるのではないかと思う。
そういえば塾の名前も「学●塾」であり、玄関に立派な筆字の看板が掲げられ、そこまではまだ良いが何故か「塾歌」が存在した、もちろん「作詞作曲：親父」であり、多分歌ったことがあるのも親父だけだろう。
何故こんなパリピから私のような陰気な人間が生まれたのか不思議で仕方がないが、真実は母のみぞ知るである。
ちなみに補習塾は主に小中学生向けが多いそうだ。
次に個別指導の塾だが、教える人数が少なく、ほとんど家庭教師のような状態になるので、問題集やテキストの自由度が高く、初心者でも働きやすく大学生にも人気のバイトだ。
ただ、ほとんどマンツーマンになるので、生徒に合った指導をするためにコミュニケーションは密に行う必要があり、集団の中に紛れ、誰とも希薄な関係しか築きたくない、という人には向かないかもしれない。
さらに、個別指導塾を利用する生徒は受験対策目的な場合が多いため、3月に心臓が痛くなる可能性はある。
なら、大勢に教える集団指導の方が生徒に対するプレッシャーや責任が軽くて楽かというと、技術的には集団指導が一番難しいそうだ。
確かに、全ての生徒に伝わる指導をするのは難しく、わかりやすさ重視になりすぎると学力の高い生徒から「俺は指を使った計算を学ぶために親の金と自分の時間を使ってるわけじゃねえ」などとクレームがくるだろう。
全ての生徒に伝わり、かつ全ての生徒の学力向上につながる指導をするというのは大変である。
また集団指導でも最も難易度が高いのが中学受験を目的とした小学生の指導だという。
確かに中学生ぐらいになれば、教室にトンボが入ってきたぐらいでは祭にならないだろうが、小学生ぐらいだとまず勉強に集中させるのに苦労するだろう。
よって、子供が興味を持つ教え方の工夫、もしくはポケモソカードを大量に持っているなどのカリスマ性が必要となってくる。
だが、難しいが故に集団指導の塾講師は個別よりも時給が高い場合があるようなので、塾講師経験が豊富だったり、カリスマに自信がある人はこちらの方が効率よく稼げるかもしれない。
塾講師アルバイトは資格が必要なことはあまりないようだが、どの塾講師バイトも「生徒に勉強を教え、質問に答えられるだけの学力」は不可欠であり、生徒の問いに対し「君はどう思う？君の意見を聞きたい」と悪い意味で生徒の主体性を重んじているようではダメである。
よって自分も、生徒に教える内容を勉強しておくなどの「準備」も塾講師バイトの仕事の内だ。
今も我が実家には割と立派な塾の建物が残っているのだが、私や兄が継ぐという話は一回も出てこなかった。
何故かというと、我が家の塾は多分集団指導タイプだったのだが、実質個人指導タイプになっていたからである。
塾を経営するとなるとまた別の話になってくるが、塾講師のスキル自体は腐ることがない。
「ぜひ死ぬまで働きたい」という意欲に溢れた方はまずはアルバイトで塾講師のスキルを身につけてみてはどうだろうか。
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