カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」食品工場バイト編
ここ最近世の中ではいろいろあったが、徐々にいつもの生活をとりもどしつつある人も多いのではないだろうか。
それとは関係なく、私は依然無職だ。
そういうと、こういったライター業をしているのに無職とか嘘を吐くなと怒られることもあるのだが、こちらの仕事を説明した上で「それ無職と何が違うの？」と言われることも多いのだ。
そう聞かれるとこちらも「明確な違いはない」と答えざるを得ないので、混乱を招かぬよう親切心で無職と名乗っているのだ。
「働かざる者食うべからず」「働かないで食う飯が美味いか？」などという煽り文句があるが、逆にせっかく農家さんが作ってくれた米を「働いてないから」という理由で食うことを拒否ったり、作ってもらった料理を「働いてないから全部マズい」などと言っていいわけがないだろう、それこそ実際働いている人に対して敬意がない。
そんなわけで、働いていようがいまいが、飯を食う必要があるのが我々であり、そういった意味で、今回は世の中に不可欠な仕事の紹介である。
食品工場での「食品製造」が今回紹介するアルバイトだ。
「食に関わるバイト」と言ったらまず、飲食店のホールスタッフなどの接客業、スーパーやコンビニのレジや品出し、そして工場など裏方での食品製造業が思い浮かぶのではないか。
そしてコミュニケーション能力に自信がない者はまず製造業の方を選ぶし、その中でも「精神がふくよか」な人間は「せっかくだから何に使うかわからんネジとかより、食い物を作っている工場で働きたい」と思う物だ。
そんな精神的人見知りかつ豊満な者が選びがちな食品工場でのバイトは実際どのようなものなのであろうか。
「食品製造」と言っても食品を作るだけではなく、食品を詰める作業も含まれる。
仕事内容は主にライン作業で、ベルトコンベアーで流れて来る容器に食品を詰めていく、といったものである。
ちなみに、バランやプラスチックの菊の花など、もはや食品ですらない物を扱うのも食品製造の仕事である。
このように非常に単純な作業なので、能力的に無理ということは少ない。
ただ、流れ作業の「流れ」が想像の３倍ぐらい早かったため、ついて行くのに苦労するケースもあるようだが、そこは「慣れ」である。
作業は黙々とすることがほとんどなので、コミュニケーションに自信がない者の思惑通り、少なくとも仕事中コミュ力を発揮しなければいけないことはないようだ。
ただしライン作業故に、サンドイッチ製造工場のピクルス担当がもたついているせいで、ハム担当やパン（上部）担当の作業も詰まり、製造スピードが落ち残業、という現象が起こらないわけではなく、会話ではなく仕事の速さで人間関係に軋轢が生じる可能性はあるかもしれない。
逆に言えば、仕事さえ正確かつスピーディにこなせれば問題ない、ということでもある。
それ以上に食品製造バイトで重要なのは「清潔さ」だ。
これは「とりあえず洗いざらしのシャツを着ておけ」と言うような「清潔感のあるファッション」のような話ではなくリアル清潔である。
口に入れる物を扱うわけなので当然衛生面は徹底しなければならない。
よって大体の食品工場では、衛生着や帽子、マスク、手袋などの重装備かつ、手洗い、コロコロでホコリ取り、エアシャワーを浴びるなどするため、準備には相当時間がかかるそうだ。
正し、それらの装備は会社側からレンタルされるので自前で用意する必要はない。
つまり、食品工場では老若男女美男美女も全員給食当番に命を賭けている人みたいなビジュアルになるため「職場での服装に悩まなくても良い」というメリットもある。
髪も帽子に全入れなので、入念なヘアセットも意味がない。
アクセサリー類やネイル、つけまつ毛、などが不可な場合もあるため、職場でもオシャレを楽しみたいという人には向かないかもしれない。
ただし、食品工場バイトに外側の準備は不要だが、内側の準備は必要だと言う。
何故なら食品を扱う場所なので工場内は「寒い」ことが多く、防寒対策として機能性インナーなど必須になるのだ。
中には、単純作業ではなく寒さで眠くなったと言う八甲田山体験をした人もいるので、天に見放されないためにも最初から防寒対策はして行った方が良い。
また、工場には製造ノルマがある場合が多い。
まだ容器に飯と切り干し大根のみというバアちゃんが作った弁当状態でも、定時が来たのでまた明日という風にはならない。
つまり、残業が発生する場合がある。
もちろん残業代は支払われるが、残業は出来ないと言う人は事前に残業の有無を確認したほうが良い。
そして気になる、工場で作った物を食べられるのかという点だが、もちろんベルトコンベアーで流れて来るものをつまんで食うことはできない。
いくら流れについていけるほどスピーディに食えてもダメだ。
ただし商品を割安で買えるところは実際あるようである。
思うほど楽ではないようではあるが、単純作業でコミュ力がいらず、食べ物が安価で手に入るならやってみたいと思う。
ただ食品工場アルバイトには「パン工場でバイトをしたせいで、パンを見るのも嫌になった」というような話もつきものだ。
しかし、全員がそうとは限らないだろう。「もっと好きになった」という例もあるはずだ、食品工場バイトをして己の「心の太さ」を測ってみるのもアリだなと思った。
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