カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」データ入力バイト編
2020年になったが、無職も丸二年が近づくと、正月の親戚の集まりでも「今何やってるの」とはあまり聞かれなくなってきた。
働いていないから悪いというワケではないが、親戚の集まりの居心地だけに関しては「働いていた方が良い」と言わざるを得ない。
だがバイトを始めようにも、接客業には向いていないし、体力にも自信がない。
「ならば一体、何なら出来るんだ?」と聞かれたら、憮然とした表情で「息?」と答えるしかない。
しかし、そんなタイプでも「出来るかも」と希望が持てるのが、今回紹介する『データ入力』のアルバイトだ。
データ入力とは文字通り、パソコンを使ってデータを打ち込む仕事である。
最近は、スマホやタブレットを使った入力もあるようだが、現在でもパソコンが主なようだ。
つまり、このバイトはパソコンなどの電子機器慣れしている人間ほど有利ということである。
そもそも私がコミュニケーション能力に難ありなのも、人間に向き合うべき時間をパソコンと向き合うのに全ブッパしてしまったせい、と言えなくもない、
そんな、コミュ力や体力などのパラメーターを「パソコン力」に全振りしてしまった戦士にとって、このデータ入力は天職と言っても良いのではないか。
「データ入力」で打ち込むデータは何かというと、顧客情報・商品の在庫・紙で集めたアンケートなどの情報などだ。
手書きのものをデータ化する場合、私のように「マリリン・マンソン※」が「マソソソ・マソソソ」になるような悪筆にぶち当たることもあるので、最初はパソコンスキルだけでなく解析スキルも要するかもしれない。
(※マリリン・マンソン:アメリカのロックバンド名)
しかし、担当も読者もだんだん私の字が読めるようになったので、慣れれば大丈夫である。
他にも販売状況の推移売れ行きなどを打ち込んだりもするが、ほとんどが、既に作られたエクセルなどのフォーマットに打ち込む作業になるので、パソコンに慣れている方が有利、とは言ったが特別詳しい必要はない。
私のようなパソコン野郎だって、一日中エクセルに向き合ってきたわけではない、主にツイッターとかだ。
パソコン操作に慣れていたり、タイピングが早い方が良いというだけである。
よって、パソコンが全く扱えないとなると厳しいが、教えられれば大体誰でも出来る仕事内容になっている。
逆に、データ入力のバイトをすることで、エクセル知識やタイピングスキルが身につくこともある。
データ入力は、特別なスキルがいらない、主にパソコンに向かうため人間とのコミュニケーション能力もそこまで必要としない、さらに「仕事環境が快適」というメリットがある。
データ入力は電子機器を使う仕事だ。
人間であれば、多少雨ざらしでも大丈夫だが、パソコンはそうはいかない。
よってデータ入力のバイトは、パソコン様のために完備された屋根や冷暖房のおこぼれに預かれるため、雨風や暑さ寒さに耐えなければいけない、ということはほとんどない。
しかし、快適な環境に単純作業が加わると人は「スヤア…」してしまうことがある。
データ入力は、特別な体力やスキルがいらないかわり、集中力や根気などは必要なのだ。
また、体は使わないのに、何故か体にダメージを受けるというのも座業の特徴である。
長時間パソコンに向き合いデータ入力をすることで、目、肩、腕が疲れるし、座りっぱなしなことで、足腰、何よりケツがやられる恐れがある。
PCメガネやクッションなど体に負担をかけないようにする、ついでに寝ないように電流を流すなど(※やりすぎ注意) 、各々工夫をした方がよい。
また「データ入力」というぐらいだから、様々なデータを目にすることになる。
「爆笑アンケ回答」などを目にしたら思わずスクショを撮ってSNSに晒したくなってしまうかもしれないが、もちろんそれは情報漏えいだ。
データ入力バイトで見たことはどんなにバズりそうでも他言してはいけない。
データ入力には「在宅」という魅力的な業務形態もあるようだが、家のパソコンで作業すると、漏えいリスク、そして当然「スヤア…リスク」も高まるので、それが心配な人は、出社型にした方が無難である。
快適な環境での仕事には魅力を感じるが、1日中パソコンとだけ向かい合うなど無理、蝶々とか追いかけに行ってしまうし、独り言を連発してしまう、という人もデータ入力を諦めるのはまだ早い。
データ入力バイトは、ひたすらデータ入力をするものもあるが、テレアポや一般事務を兼任するものもある。
テレアポなら人間と話すし、一般事務なら仕事にバリエーションがあるので、自分の能力や性格にあった募集を探してみると良いだろう。
私が選ぶとしたら、やはりデータ入力のみのデータ入力バイトだ。
決して、集中力と根気に自信があるわけではない、むしろ今でも蝶々を追いおいかけに行きたい。
だが、タイピングは割と早いし、何より人間に向き合うよりは向いている。
このように、消去法で仕事を選ぶしかない人間にも「やれる」と思わせてくれるデータ入力はやはり魅力的な仕事と言わざるを得ない。
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
Twitter https://twitter.com/rosia29
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私の本業は無職だが、副業でこのような文章や、漫画の仕事もたまにしている。しかし、私の漫画を書店で見かけることはあまりない。何故なら書店というのは売れているか、売れるあてがある人気作品を置くところだから。それと同じ理由で、今回紹介するバイト先でも私の作品を見かけることはあまりない。今回紹介するのは「ネットカフェ」でのアルバイトだ。

私ほどの低知名度になると「スタッフは全員身内」という、毎回冷蔵庫の余りのみで作ったかのようなイベントになるのだが、それでも滞りは特にない。しかし、世の中には、それではパニックになってしまう大きなイベントがある。今回紹介するアルバイトは、そんなイベントを支援する「イベントスタッフ」だ。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。