カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」パチンコバイト編
私事だが、会社を昨年辞めた。
以後、漫画や文章で生計を立てるフリーランスになって、早1年近くだが、あまりの不安定さに笑う。
これを考えると、継続的に賃金を得られる「勤め」というのは神システムと言わざるを得ない。
もちろん、アルバイトもそうだ、今回もそんな神の一つを紹介したい。
今回取り上げるのは「パチンコ店スタッフ」だ。
パチンコ店でのアルバイトと言えば、まず「時給が良い」と言う、イメージだ。
昔、漫画で「主人公が一か月フルでパチンコ店で働いたところ『給料日に札が立った』」というクララが立った時より感動的なシーンを見たことがある。
ちなみにその次の日、主人公はバイトを辞めてしまうのだが「パチンコバイトが稼げる」というのはフィクションではなく、地方でも時給が1000円を超えるぐらいの、割高バイトである。
「でも、おキツイんでしょ?」という、深夜番組のような合いの手が聞こえるが、私もそう思う。ではパチンコ店のバイトとは一体どのようなことをするのだろうか、そして本当にキツイのか。
まずパチンコ店の仕事は主にホールスタッフ、カウンタースタッフ、コーヒーワゴンスタッフの三つにわけられる。
まずホールスタッフ、店内とパチンコ台の清掃、玉を入れた箱(ドル箱)の上げ下げ交換が主な仕事になる。
パチンコバイトがキツイとしたら、このドル箱の上げ下げこそ、そう言われる原因だろう。
いっぱいになったドル箱は10キロ近くあり、それを長時間上げ下げするとしたら、立派な肉体労働であり、腰を痛めてしまう者もいるようだ。
しかし、この「ドル箱」に関してはすでに革命が起きている。
従来なら、出玉は一旦ドル箱に入れて積み重ね、それを計数機に持って行き、玉の数を数えるというシステムだった。
それだともちろん、持ち運びに手間がかかるし、もし、球状のものが山ほど入った箱を床に落したら店内はどうなってしまうか、想像もしたくない。
さらに、パチンコ店では、玉=お金だ、落としてなくしでもしたら、こちらのタマが危なくなる。さらに、落ちた玉を踏んで転ぶ人が出るなど、地獄のピタゴラスイッチが始まらないとも限らない。このように「ドル箱」運びは、バイトにとって、失敗できない仕事だった。
そんなドル箱のデメリットをなくすため、最近では「各台計数システム」を導入している店舗も増えてきているという。
各台計数システムとは、玉をドル箱に貯めず、各台に個別に取り付けてある計数機でその都度出玉を計数するシステムである。
これなら、ドル箱の移動中に玉を落とすこともなく、バイトは重いドル箱を上げ下げすることもなくまさにお客様もバイトもウインウインという感じなのだが、実はこの各台計数システム、店側にデメリットがある。
ドル箱を積み重ねるのには「玉が出ているアピール」という意味もあるのだ、他のお客様はそれを見て「この店は出る」と読んで、打ち始めるのである。
よって、各台計数システムになると、誰一人ドル箱を積んでおらず、傍から見ると全員が髪の毛1本も残さずむしりとられているような、漫画の“カイジ”に出てきそうな店に見えてしまうのである。
よって「イメージ」のため各台計数システムを導入していない店舗もあるようだが、働く側からすれば、この各台計数システムかどうかで、働き方は大きく変わると思われるので、事前に各台計数システムかどうかは調べておいた方が良いだろう。
逆に各台計数であれば、力に自信のない女性でも安心して働けると言える。
ただし、経験を積むことでこのドル箱の腰が痛くならない持ち方のコツがつかめるようになるらしいし、世は空前の筋肉ブームなので、あえてドル箱の店を選んで、バイト代と筋肉の一石二鳥を狙ってもいいかもしれない。
続いて「カウンタースタッフ」は、案内やレジ対応、景品交換や景品の在庫管理、電話応対などが主な業務となる。
こちらは、肉体的負担は少ないが、直接、お客様に接するため、ホール担当より笑顔や清潔感など接客スキルが求められる。
そして最後に、ホール内でお客様にコーヒーや軽食を提供する「コーヒーワゴンスタッフ」だ。
ワゴンスタッフは、お客様とのコミュニケーションも仕事の一つであり、無礼がないのはもちろん、また来店してもらえるような接客を心掛けないといけないという。
パチンコ店の時給が割高なのは、多少肉体労働的側面があるのと、他の接客業より密なお客様とのコミュニケーションがあるためかもしれない。
だがバリバリの肉体労働というわけでもなく水商売級の接客が必要というわけでもない。多少求められるものが多くても、しっかり稼ぎたいという者にはちょうどいいアルバイトだろう。
だが、パチンコ店での接客は、時給を越えて大変なのではというイメージもあるだろう。
確かに、何せパチンコ店である。ご機嫌があまり麗しくないお客様がいらっしゃるのも事実だろう。どんな温厚な人間でも「今しがたゲーマン(※5万円のこと)溶けた」という状況なら、機嫌に傾斜がついて当然である。
しかし、一方で「見た目がイカつい人でも話したら優しい」・「今まで出会ったことのない斬新なタイプに出会える」という、パチンコ店の客層がむしろ楽しい、という声もある。
結局、接客業である以上、良いお客様も来れば、困ったお客様も来るという点は他の接客業と同じのようだ。
ただ、「ほぼ毎日気が短くなったお客様がいる」という特性もあるので、相手の顔色や空気を読む力は格段に磨かれるという、コミュ力にさらに磨きをかけたいという人にはお勧めのバイトかもしれない。
ちなみに、パチンコ店で働く上で避けて通れないのが「タバコ」だ。
タバコが苦手な人間には若干厳しい職場だが、逆に喫煙者からすると「気兼ねなく吸える場所が多くて良い」そうだ。
だが、今では「全席禁煙」のパチンコ店もではじめているという。
計数機や、喫煙禁煙の形態も店舗によって大きく違う、パチンコ店で働く時は、事前リサーチが重要だ。
探せば苦のない店舗で、高時給を得られる「いざという時のパチンコ屋バイト!」になるかもしれない。
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編集:森 晶