「人助け」にあこがれて。JAFロードサービス隊員が仕事を志した理由とは
自動車に乗っていてトラブルに巻き込まれたとき、多くの人が頼りにするのがJAF(一般社団法人 日本自動車連盟)のロードサービスではないでしょうか。JAFの会員数は、約1900万人。全国24時間年中無休でワンコールすれば出動してくれます。
そんな頼もしいサービスは、現場の大変な努力によって支えられているのは想像に難くありません。実際にはどんな苦労があるのでしょう。また隊員さんはどんなモチベーションで勤務しているのでしょうか。東京支部ロードサービス隊中央基地に勤務する、入社4年目の髙山真樹さんにお話をうかがいました。
車だけではなく人の心のケアもする
──髙山さんは、どんなトラブルで出動することが多いんでしょうか?
バッテリー上がりやパンク修理、キー閉じ込みが多いですね。故障して動けなくなった車を、レッカー車で運ぶこともよくあります。

12Vを供給するポータブルバッテリーをサービスカーに常備する
私の担当エリアで特に多いのは、バッテリー上がりですね。都心の方の多くは週末にしか車に乗らないので、バッテリーが上がることが多いんです。たとえば、ルームランプを1灯消し忘れたまま、次の週末まで放っておいてしまう。それだけでもうバッテリーはなくなってしまいます。
──作業中に気をつけていることはありますか?
まず、車体に傷を付けないように心がけますね。自動車ってそもそも高価な物ですから。さらに、私の担当エリアは中央区。いろいろな企業の社長さんが住むことも多い地域です。そのためか、超高級車に携わることもあります。ベンツやBMWはよくありますね。ランボルギーニも何度か手がけました。もちろん、どんな車でも丁寧に扱っていますが、ああいった車はひときわ緊張感があります。
──それは確かに気をつかうところですね……。いままでで、一番困った状況はどんなことですか?
キー閉じ込みの依頼で、なかなか鍵が開かなかったときです。工具を使って、鍵屋さんのように鍵を開けるのですが、2人がかりで4時間かかりました。
──それは確かに長い。そう滅多には、ありませんよね……?
普段は数秒~2、3分で開くんです。しかし、鍵には多くの種類があり、それが新しくなっていくので中には難しい鍵もあります。そこから反省して、日々練習してコツをつかんでいます。こうした努力は欠かすことができません。
――一般道だけでなく、高速道路で作業することもあると思います。
高速道路の作業は基本2人体制。二次事故が起こらないように、後方を警戒する人と作業する人のセットで行いますね。

(JAFより提供)
高速道路は、一般道よりも緊張感はずっと高いです。極端な話、転んだだけで事故にあう可能性がありますし、場所によっては立っているだけでも危ないですから。
──高速で事故を起こした人は、動揺してしまいそう。
落ち込んでいることが多いので、声のかけ方には気を遣います。まず、「もう私たちが来たからもう安全ですよ。後は任せてください」などと言って、安心していただきます。大事なのは、お客様の気持ちに寄り添うことだと思っています。
やり遂げたときの「達成感」がたまらない
――お話をうかがっていると、なかなか大変そうな仕事に思えます。
ラクではないですね(笑)。でも無事に仕事を終えたときは、たまらない達成感があるんですよ。
――特にどんなときに達成感がありますか?
「ひとりでやり遂げたとき」ですね。仕事で、ちょっと難しい状況になると、他の隊員へ応援を呼ぶことになります。ただ、私がけっこう負けず嫌いな性格なので(笑)。そんな状況であっても、できれば仕事はひとりで最後までやりたいと思ってしまいます。
――ひとりで行う方が大変そうに思えますが……?
応援を呼ぶと、それだけ事故の処理の時間が延びることになります。他の予定した仕事への到着が遅れることになったり、お客様を不安なまま待たせることになってしまったりします。ひとりで処理するのがベストではあります。
ただ、私の個人的な気持ちとしては、なにより「ひとりでやったぞ!」と思えるのが一番です(笑)。自己満足なのかもしれませんが。
――失敗が許されない現場だと思います。先輩達の指導も厳しいのではないでしょうか?
新人の頃は先輩が指導員についてくれていました。想像の通り指導はちょっと厳しいです。ひとり立ちをしてからも、元指導員だった先輩と同じチームになると、緊張してしまうこともありました。
──そういう気持ち、わかる気がします。
でも厳しいだけじゃなくて、次第にいろいろな表情を見せてくれるようになってきました。夜勤の合間などに事例を話しているようなときに、ふと「よくやったね」と言ってもらえたんです。ときには愚痴を話してくれたり、仕事の内容について相談を受けたりすることもあります。
――少しずつ、対等な関係に変わっていったんですね。
まだ対等とまで言えるかどうかはわかりませんが(笑)。そんな中、指導員だった先輩から応援の要請をされたことがありました。あれは一番うれしかったですね。先輩を助けられたということが。
やりたかったのは「人助け」になる仕事
──そもそも、髙山さんがこの仕事に就こうとしたきっかけはなんだったんでしょうか。
「人助けになる仕事がしたい」ってずっと前から思っていました。そんな中、学生時代に車を走らせていたら、バッテリーが上がってしまったことがあって。JAFのお世話になりました。
そこでバッテリー上がりをサッと直していった隊員がかっこよくて。もう一発で惚れましたね(笑)。「これが人助けだ!」って思いました。実際に入社しても、そのイメージは変わりませんでした。やりたかったことが、できているという感じです。
――確かにJAFのお世話になると「助けてもらった」という思いが強く残りますよね。仕事に就いた後も、救援を受けた方から感謝されることはあるんじゃないでしょうか。
私が事故を処理したお客様から、お礼の電話が支部宛にかかってくることもあります。ときには手描きのお手紙をもらうことも。そういったことをしていただけると、本当に心に残ります。もっとお客様のために頑張ろう、って思えてくるんです。
――現在、髙山さんが頑張っていることはなんですか?
JAFには「ロードサービス技能検定」という社内検定があります。5級から1級まであって、級ごとに許可されている仕事があります。社内検定に受かって上の級に行けば、もっといろいろな業務ができます。
私はいま4級なんですが、実は、明後日に3級の試験があるんです。いままさに試験に向けて勉強をしているところです。
――明後日ですか!
3級は、一通りの業務がひとりできるようになる級です。JAFのロードサービス隊員の中でも、完全に一人前と見なされます。そうすれば、お客様はもちろん、先輩や同僚をもっと「助ける」ことができますからね。楽しみです。
髙山真樹
2016年に日本自動車連盟に入社。東京支部ロードサービス隊中央基地に所属。ロードサービス隊員として、自動車を利用する人々の安全を守っている。取材後にロードサービス技能検定3級に合格。
(取材・文/辰井 裕紀、撮影/安藤”アン”誠起、編集/斎藤充博(プレスラボ))
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