女優・横山由依インタビュー「乗り越えないといけない壁があるほど燃えて、見えてくるものがあります」
AKB48グループで2代目の総監督を務め、昨年12月に卒業した横山由依さん。アイドル時代から舞台出演を続け、初のミュージカル『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でヒロインを演じます。努力家ぶりを物語るエピソードには事欠きませんが、横山さん自身は「夢を叶えるために頑張るのは楽しいこと」と言います。
バイトをしながら京都から東京へレッスンに通って
――AKB48の研究生だった高校生の頃、バイトをいろいろしていたそうですね。
3つやってました! ファミレスとマクドナルドとパン工場。親が「携帯は自分で基本料金を払えなければ持ったらダメ」と厳しめだったので、高1になって、すぐファミレスで始めました。姉がバイトしていたマクドナルドと掛け持ちしていた時期があって、クリスマスの時期だけ、パン工場で働きました。全部楽しかったですね。
――学んだこともありました?
ファミレスで店長の奥さんも働いていて、「水回りはピカピカ輝くように磨きなさい」と言われていたのは心に残っています。あと、大学生の先輩が多かったので、勉強も教えてもらいました。
――研究生の週末のレッスンに京都から通う交通費や宿泊代も、バイト代から出していたとか。
3ヵ月、京都と東京を行き来しないといけなくて。最初の2回の新幹線代は自分で出しましたけど、貯めていたとはいえ、高校生のバイト代ですからね。ちょっと安い高速バスに変えて、親も新聞配達を増やしてサポートしてくれました。だからこそ、「成功しないと」という気持ちはすごくありました。
アイドル志望でなかったけどAKB48は自分に合ってました
――もともと小学生の頃にCHEMISTRYのコンサートを観て、芸能界を志したんですよね。
大阪城ホールで初めてコンサートを観た帰り道で、親に「私もステージに立つ人になりたい」と言ったのが始まりです。オーディションはレコード会社とか音楽関係をよく受けていました。
アイドルになりたかったわけではなくて、親の「高校生のうちに上京できなければ芸能界でやっていけない」という謎の教えから(笑)、探したらAKB48の募集があったんです。でも、活動を始めたら、AKB48は自分にすごく合っていました。
――どんなところが?
目の前にどんどん壁が現れて、越えたら、また次の壁が……というのが楽しかったんです。ひとつ乗り越えるたびに見えてくるものがあって。あと、団体で何かするのも好きでした。
――それにしても、総監督までやるとは思わなかったのでは?
私、中学時代にバスケ部で、キャプテンに立候補した3人のうちの1人だったんですけど、投票で私以外の2人がキャプテンと副キャプテンになりました。私は人望ゼロ(笑)。その時点で、自分はリーダーになる人間ではないと思っていて。まさかAKB48で総監督までやらせてもらうとは。地元の同級生も「何で?」と思ったでしょうね(笑)。
できない自分をできるように見せるのが苦しくて
――総監督時代に心掛けていたのは、「時間を守る。着替えを一番早く。掃除用具を最初に取りにいく」といったことだったと話されてました。
めちゃくちゃ基本ですけど、自分で意識さえしていればできること。初心を忘れないこだわりはあって、卒業まで12年続けました。自分が誰よりも早く行動して、メンバーにも有無を言わせず時間を守ってもらう。他のことも注意しやすくなりました。
――当時はAKB48の転換期で、ピンチもあったのでは?
そうですね。落ち込んで1日中ベッドから動けない日もありました。部屋を真っ暗にして、カーテンも閉めて(笑)。人の言葉で傷つくことも多かったし、できない自分をできるように見せるのが苦しかったです。
たかみなさん(高橋みなみ=初代総監督)がしていたことは、全部できないといけないと思い込みすぎていて。得意でないMCの回しも、うまくやらないといけない。叱ったメンバーと後でごはんに行かないとか、謎に頭の固い考えもしていて(笑)。お互い救われる場を自ら遠ざけて、当時はめっちゃ泣いていました。
――そこから、どう立ち直ったんですか?
個人でお仕事をさせていただく機会が増えて、「もっとラフでいいんだ」と思うようになりました。私はAKB48としての視野は広がっても、人間としての視野が狭かったんです。役者さんや舞台のスタッフさんとお話しする中で、そこがちょっとずつ広がって。
できないことはできないと言って、他のメンバーに頼る。自分の得意なことは活かす。そういうふうに気持ちが変わったのは、大きかったと思います。
――座右の銘ができたりも?
昔からですけど、中学の先生が教えてくれた「他人と過去は変えられないけど、自分と未来は変えられる」という言葉はすごく印象的です。今の自分がイヤなら変えればいい。ポジティブになれますね。
稽古をして丁寧に作る舞台がしっくりきました
――女優になる夢が明確になって卒業したそうですが、音楽志向からどう変わったんですか?
最初の演技は(AKB48ドラマの)『マジすか学園』で、何もわからない状態でしたけど、普段の自分と違う人間になるのが楽しい感覚はありました。それから舞台を何本かやらせていただく中で、お芝居はすごく難しいけど面白いと思うようになって。女優になりたい気持ちが強くなりました。
――舞台が大きかったんですね。
私は不器用で覚えるのが遅いので、稽古をして丁寧に作っていく舞台のやり方がしっくりきたんです。皆さんとのコミュニケーションも密に取って、学びがあって。映像作品には別の面白さがあると思いますけど、生の演劇が今の自分に必要な気がします。
――本格的なミュージカルは今回の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』が初めてですね。
そうなんです。AKB48時代はやりたいことがあっても、自信がなくて恥ずかしかったり、否定されるのが怖くて、言えない時期があったんですね。ミュージカルもずっと「やりたい」と口に出せませんでした。
でも、総監督を退任してから気持ちが変わって、マネージャーさんに「ミュージカルをやってみたい」と言い始めました。言うだけではダメだからレッスンにも通って、「今日はこういうことをしました」とか。目標を人に言うことで自分に責任を持つ。そしたら、このミュージカルが決まったので、絶対に成功させたいです。
――ミュージカルは何かを観て、やりたいと?
『アナザースカイ』でロンドンに行ったとき、『マンマ・ミーア!』を観て、すごいと思いました。英語で言葉がわからなくても、音楽と演技の力でグッと引き込まれて、劇場が一体になっていて。その後、日本でもミュージカルを観させていただくうちに、自分でもやりたくなりました。
歌の練習で「悔しい」「嬉しい」と感じられるのが幸せ
――今回の稽古はまず歌からでしたか?
はい。私はずっと歌が大好きでしたけど、ミュージカルの歌は違うというのが発見でした。歌って深いんです! このコメントが浅いんですけど(笑)。
――(笑)。ミュージカルの歌は台詞でもあって。
そうなんです。役として発する言葉が歌で表現されていて。そういう感覚はこれまでなくて、今めちゃめちゃ高い壁が目の前にあります。
――技術的にもミュージカルならではのものがありませんか?
そもそも私は声が小さいところから、課題になっています。海外の『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のブレンダ役の人の歌を聴くと、迫力がすごいし、それでいてやさしさもあって。私は昔から、「淡々としている」と言われることが多いんです。だから、ああいう大らかさを手に入れたいと、すごく思います。
――この取材日時点では、歌に苦戦している感じですか?
私の楽譜の1音1音、メモがないところがないくらいです。先生に細かく教えていたいだていて。毎日「できなくて悔しい」「こう歌えるようになりたい」という想いは抱きながらも、私はできないことに取り組むほうが燃えます(笑)。
――「AKB48が合っていた」という話と通じますね。
やったことがなかったり、乗り越えないといけないものがあると「やるぞ!」となるタイプだと思います。今は「悔しい」とか、少しできるようになって「嬉しい」とか、1コ1コ感じられるのが幸せです。AKB48時代は忙しい流れの中で、ワーッと通り過ぎてしまった部分があるので。
――ブレンダは真面目なナースで、役としては入りやすそうですか?
どうですかね。そう言えば、私、小学生のときに自転車に乗っていたら空中で1回転しちゃって(笑)、ケガをしたことがあって。病院に行ったら看護婦さんがすごくやさしくて、「私も看護婦になりたい」と思ったのを、今思い出しました。夢がまた役で叶いますね。
目の前のことに必死で取り組むのは無駄になりません
――12月で30歳を迎えますが、長いスパンで将来的なことも考えていますか?
長く女優はやっていきたくて、ミュージカルも続けて出ていきたいです。『オペラ座の怪人』の曲が大好きで、いつかあの超ハイトーンを歌えるようになるのが、目標としてあります。
あと、発言に説得力がある人になりたくて。世の中の問題を作品を通して表現するのはもちろん、自分自身の言葉で発信していけたら。作品との出会いで成長して、いろいろな感情を持って、より伝えたいことが出てくるのは楽しいですね。応援してくださる方々に夢や希望を持ってもらえる活動をしたいというのは、ずっと思っています。
――高校時代の横山さんのように、バイトをしながら夢を追っている読者も多いと思います。横山さんの経験から、夢を叶える秘訣だと思うことはありますか?
目の前のことに必死で取り組むのは、何を目指すにしても必要だと思います。私のAKB48時代だと、時間を守るとか小さなことが、実は大きな夢に繋がっていた気がします。バイトでやっていたことも、ひとつも無駄になってなくて。
パン工場では、立ちっぱなしでケーキにイチゴを乗せたりしていて、足腰が疲れましたけど、集中力や我慢強さが身に付きました。いつかパン工場で働く役が来たら、絶対リアルに演じられます(笑)。目標とかけ離れて見えることも、ひとつひとつクリアする。私はこれからも、そうやっていきたいと思います。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月8日生まれ。京都府出身。
2009年にAKB48の9期生オーディションに合格。2015年12月より、AKB48グループの2代目総監督を3年4ヵ月に渡って務める。2021年12月に卒業。女優としての主な出演作は舞台『美しく青く』、『Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー~日米爆笑保障条約~』、『演技の代償』、『三十郎大活劇』、ドラマ『HANARE RARENAI』(YouTube)など。8月11日から上演のミュージカル『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に出演。
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企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河野英喜 取材・文:斉藤貴志
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