俳優・鈴木拡樹さんインタビュー 「自分の世界を広げてくれた演劇界に貢献したいという思いで舞台に立っています」
2025年劇団☆新感線 45周年興行・初夏公演 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』に出演する鈴木拡樹さん。平安時代を舞台に、ある日突然、鬼と思しき者に妻子をさらわれた貴族・源蒼(みなもとのあお)に扮する心境や、作品の見どころについてインタビュー。さらに、俳優業において大事にしているもの、どのような心境で仕事に向き合っているのか尋ねました。
劇団☆新感線未経験の方にも来ていただいて、50周年につなげたい
――『紅鬼物語』は劇団☆新感線の劇団員の皆さんをはじめ、宝塚歌劇団出身の柚香光さんなど、いろいろなところでエンタメを学んだ方たちが結集する注目作ですね。
僕自身もストレートプレイ、ミュージカル、2.5次元作品と演劇の中でいろいろなジャンルに出演させていただく中、毎回、何かしらの挑戦があって、7年前に『髑髏城の七人 Season月《下弦の月》』(月髑髏)に出演したときは、Wキャストを通して劇団☆新感線の魅力を知ることができました。今回はシングルキャストなので自ずと役に向き合う時間が増えますし、演出のいのうえ(ひでのり)さんが、どのような思考でシーンを組み立てていきたいのかを意識して芝居に臨もうと考えています。
――今回の出演ではどのような挑戦が待っていると思いますか?
45周年興行という大きなトピックがありますので、参加させていただく身としては、劇団☆新感線を知ってはいたものの、チケットをとって観劇するという一歩踏み出す勇気が出せなかった方にも来ていただいて、次に迎える50周年につながったら最高に嬉しいです。
――『紅鬼物語』の台本を読んだ感想を聞かせてください。
今回は鬼をあつかった物語ですが、調べたところ、妖怪にまつわるお話などは平安時代に生まれたものが結構多くて、それだけ文学が盛んだった時代なので、この『紅鬼物語』もしっくりくるなぁという印象でした。鬼の存在が架空ではなく、実際にいるという設定であるのも時代背景と合っていますよね。僕が演じる源蒼や村人だけでなく、鬼にも家族が存在していて、そのつながりを主軸に描いていることが面白いと感じました。
“月髑髏”から7年、守りたいという気持ちがさらに強いものに
――劇団☆新感線といえばダイナミックな殺陣も魅力の一つですが、立ち回りではどのようなことを意識していますか?
ひと口に“殺陣”といっても、いかにも時代劇というふうに生っぽく見せる殺陣もありますし、エンターテインメントに特化した殺陣もあって、そのどちらの美学も僕は好きです。共通しているのは、相手役にケガをさせてはいけない、かといって安全な位置でやっていると嘘っぽくなってしまう。格闘技などもそうだと思いますが、対峙する相手との足場の取り合い、「今、ここなら入れる」というかけひきのピリピリした空気感が好きです。
――前作の出演から7年間、鈴木さんにとってどのような期間でしたか?
“舞台をやっていく”というスキルを学んだ7年だったかもしれません。一つの形を作って届けるには何が必要なのかと考えさせられましたし、途中、感染症の影響があって、中止になった作品も多くありました。コロナで届けられなかった経験や、お客様が入っているにも関わらず、機構トラブルで中止した作品もあって、悲しそうに帰っていくお客様の姿を僕たちはモニターで見ていたのですが、その光景を痛烈に覚えていて、こういうことがあってはいけないと強く思ったんです。そんな時期を経て、一公演がもつ重みは7年前と大きく変わり、守りたいものに対する気持ちがより強くなりました。
役者に不向きだと思ったからこそ、もっと奥が知りたくなった
――これまでの活動において転機になった出来事について聞かせてください。
かつて観劇をしたことがきっかけで、のちに出る側になったので、僕にとっての転機はあの観劇のタイミングだったと思います。しかも、こちら(演じる)側に入ってはみたものの、自分は役者に不向きだという感情からスタートして。不向きだと思ったのなら「やめればいいじゃん」と普通はなりますが、役者に向いているか、向いていないかと、諦める、諦めないは別物だったんです。向いていないからこそもっと奥を知りたいと思ったし、怖いもの知らずなのか、だからこそ役者という職業に愛着がわいた。自分の世界を広げてくれた演劇に感謝していますし、今も一役者に過ぎませんが、舞台界隈にお礼を伝えるためにも、今後の発展に貢献したいと思いながら仕事をしている側面があります。
――「不向き」と感じた世界で活動を続けてこられたのはどうしてですか?
続けられたのは先輩やベテランのスタッフさんが支えてくださったことが大きいです。皆さんのサポートがなければ、演じる楽しさを知る前に終わっていた可能性もありました。さらに、お芝居を届ける相手がいることが僕のやりがいで、お客様の存在が間違いなく僕という役者を作ってくださった。作品ごとに多くの意見をいただけるのはきちんとリリースできたということなので、舞台界隈のために一つ貢献できたと毎回嬉しくなります。
――鈴木さんをはじめとした俳優陣の尽力で、2.5次元作品が一つのジャンルとして世に浸透したと思いますが、今後の可能性について聞かせてください。
役者に限らず、2.5次元作品と他の作品の垣根をなくしていこうという考え方の人もいるかもしれませんが、僕は2.5次元作品がもつ良さを失ってほしくないと思っていて。この界隈は現在、新人の登竜門的な立ち位置にいますが、ここでフレッシュな役者を見つけて成長していく過程を一緒に楽しみたいというお客様がいて、その方たちがご友人を誘い、観劇する人の母数を増やしてくださっている。粗削りな役者のまわりを経験のある人たちが固め、作品をつくり上げるスタンスは残したほうがいいと個人的には考えています。そこから始まるキャストもいれば、お客様もいらっしゃるので、僕にとっても大事なジャンルです。
作る過程や芝居のことを考える時間がすごく幸せ
――仕事をするうえで大事にしているのはどのようなことですか?
役者は一つのものを作り上げるという点である意味、職人ともいえますが、作品って一人で完成するわけではなく、多くの方たちと関わり合って作るものなので、自分の意思を持つことももちろん大切だけれど、まわりの方が何を考えているのか、どんな思いで接しているのかを広い視野で見るようにしています。こちらが見るから相手も見てくれるということもありますし、仕事=人とつながっているものと捉えています。
――舞台界隈は特にお客様とのつながりが大事ですね。
「お客様が入って初めて完成するもの」と言われる演劇ですが、本当にそうなんですよ。稽古場で僕たち演者やスタッフさんがこだわって芝居を作り上げる。そして、作品が“商品”となり、お客様のもとに届く。さらに、商品を楽しんでくださったお客様が次も観たいと発信してくださることで、続編や再演へとつながる。どんな作品でも、その先で受け取ってくださる方のことを考えて臨んでいます。
――現在の原動力は何ですか?
芝居が楽しいと思えていることです。どんな職業であっても感情の波はあると思いますが、役者稼業って、一度ハマってしまうと抜け出せないんです。作る過程も楽しいし、芝居について考えている時間がとても幸せ。この先、何年続けていけるかわかりませんが、長く続けるためにも今を楽しみつつ、勉強していきたいという感覚です。
――夢や目標に向かって奮闘する若者世代の皆さんにメッセージをお願いします。
中には目標が見つからず、周りから急かされる人も多くいると思います。夢を見つけるほうが職に就くより難しい可能性だってありますから、まずは自分が憧れる人、尊敬できる人を見つけてみるのはどうでしょうか。憧れの人だって一見、華やかに見えるけれど、いろいろな角度から見ると、実は見えない努力をしているかもしれない。舞台界隈は特にそうですが、華やかに見える職業ほど、裏では地道な作業をしているんです。物事を平面で見るのではなく多面で見る。まわりの人の夢を聞いて、参考にしてみるのも一つの方法かもしれません。
■Profile
鈴木拡樹(すずき・ひろき)
1985年6月4日、大阪府生まれ。2007年、ドラマ「風魔の小次郎」(TOKYO MXほか)でデビュー。主な出演作に『最遊記歌劇伝』(玄奘三蔵役)シリーズ、舞台『刀剣乱舞』(三日月宗近役)シリーズ、ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(シーモア役)、ミュージカル『SPY×FAMILY』(ロイド・フォージャー役)など。主人公・久坂幻士郎を演じた東映ムビ×ステ『死神遣いの事件帖 終(ファイナル)』が6月13日~公開、舞台版が8、9月に東京・福岡・大阪・石川・京都で上演される。
◆Official Site:https://suzuki-hiroki.jp/
◆Official X:@hiroki_0604
■作品情報
2025年劇団☆新感線 45周年興行・初夏公演
いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼物語』
【大阪公演】5月13日(火)~6月1日(日)SkyシアターMBS
【東京公演】6月24日(火)~7月17日(木)シアターH
昔々、そのまた昔。都には鬼が現れ、人々を襲っていた。
貴族である源蒼(鈴木拡樹)の家臣・坂上金之助(喜矢武豊)も鬼に襲われるが、反撃して片腕を斬り落とすと、鬼は捨て台詞を吐いて飛び去った。
これを蒼に報せると、それを聞いた家臣の碓井四万(千葉哲也)は、蒼の奥方が神隠しに遭ったのも、鬼の仕業ではないかと言い出した。
10年前のある朝、奥方の紅子(柚香光)と娘の藤(樋口日奈)は忽然と姿を消した。庭には鬼らしき足跡が一対、残されていたという。それから紅子たちの行方は杳として知れない。
「紅子と藤は生きている」と信じる蒼は、鬼の根城を探し出し、二人を取り戻そうと心に決めて、金之助、四万、そして、桃千代(一ノ瀬颯)らと陰陽師の阿部辺丁迷のもとへ。
そこに、金之助を襲った鬼の栃ノ木(早乙女友貴)が現れ、桃千代を連れ去ってしまう。
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:井野友樹
ヘアメイク:AKI
スタイリング:中村美保
取材・文:荒垣信子
衣装協力:ジャケット+シャツ+パンツ/ANTOK(アントック)
カーディガン/Kiryuyrik(キリュウキリュウ)、靴/スタイリスト私物
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。