カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」図書館バイト編
今でも「最近の若者は本を読まない」という老の繰り言を良く聞くが、最近の中年である私も本はそんなに読まない。
何故ならXとソシャゲ、アマプラで永遠に時間が潰せてしまうからだ。
読書というのは趣味の一つである、娯楽が多様化するにつれ読書人口が減るのは当然だ。
よって私も人生に「インターネット」という破壊神が降臨するまでは他にやることがなかったので割と本を読んでいた。
特に本は友人がいない陰キャ学生にとっては欠かすことのできないアイテムであった。
休み時間、一人で机に座って虚空を見つめていたら、いかにも友達がいない奴だが、本を開き読書をしている体をとれば「そういうタイプだから友達がいない奴」に見せることができた。
自分が「バカ騒ぎするクラスメートをよそに読書に興じる孤高」と思っているだけで、周囲からのイメージは何も変わらないのだが、1人で何もしないで過ごすには「10分」は長すぎたのだ。
ずっと水飲み場で水を飲み続けるストロングタイプや、学校内に他に誰もいない安全領域を見つけて虚空を見つめ続けるフィールドサーチに長けた奴もいたが、そんな能力に恵まれなかった私は本を読みがちだったのだ。
最近の若者は、本を読まないから知識に乏しく、言葉を知らないと言われるが、本を読んでいた若者から言わせると、結局自分が好きそうな本を選んで読んでいるだけなので「恐ろしく知識が偏った中年」が生まれがちだし、覚えた語彙も自分のHNを「東雲十六夜(しののめいざよい)」にするなど、黒歴史製造に使われるケースが多い。
ちなみに私が読んでいた本は漫画ではない。
私が当時漫画より文字を愛する文学少女だったというわけではない。そうだとしたらみんな大好き文学少女がずっと水を飲み続けていた奴と紙一重の存在になってしまう。
もちろん当時から本より漫画の方が好きだったし、娯楽がなかったと言ってもゲーム機などもあり、たまごっちをいち早く手に入れていればクラスのヒーローになれた時代である。
できればそれらで永遠に時間をつぶしたかったが、そうもいかなかったのだ。
学校で堂々と漫画やゲームで時間をつぶすことはできなかったし、それを手に入れる金もなかった、大して本は金がかからなかったのである。
学校には「図書室」があり、村にも「図書館」という施設がある、そこで読んだり借りたりできる本は実質タダである。
おそらく今でも図書室や図書館を拠り所としている人間はいるだろう。
今回紹介するのは、そんななくてはならない施設の「図書館バイト」である。
図書館とひとくちに言っても公立、私立、大学や学校に付随するものなどさまざまあるが、図書館にいる人といえば「司書」であり、司書資格が必要と思われがちだが、アルバイトやパートの場合は資格は不要である。
図書館の仕事と言えば座り仕事で楽そう、というイメージを持たれがちだが、仕事内容は、資料整理、貸出、返却、配架、予約引当作業、電話対応など多岐にわたる。
それ以前に「本」を扱っている時点で楽とは言えないだろう。
私は自分の本が発売するたびに100冊程度サイン本を制作するが、正直サインよりも100冊もの本を箱から出したり入れたり移動させる作業の方が疲れるのだ。
図書館バイトは毎回本を出したり入れたり移動したりするだろうし、時には「京極夏彦棚の整理」など、重量のある本を扱うこともある。座っているだけの仕事というイメージで応募するのはやめておいた方が良いだろう。
また、人より本に向かうのが好きな人が向いている仕事と思われるかもしれないが、前に図書館の取材をした時「どんな人がこの仕事に向いているか」と聞いたところ、「人と話すのが好きな人」という意外過ぎる答えが返ってきた。
利用者の質問や要望に答える「レファレンス」も図書館バイトの重要な仕事なので、接客業的一面もあると思った方が良いだろう。
一番多い質問は「この本はあるか」という本の探し物だそうだ。
最近は検索システムを導入している図書館も多いので、それを使えばすぐ見つかると思うかもしれないが「昨日テレビで紹介されていた本、番組名は忘れた」など、どこにも検索ワードがない実質ノーヒントでやってくる利用者の方もいるので、根気よく本の特徴を聞き出すコミュニケーション能力が必要な時もあるのだ。
また検索システムの精度を上げるためには、まず人力で細かいデータ入力をする必要があるし、バーコード管理するにもバーコードを本に貼る作業があったりと、仕事には事欠かないと思われる。
だがもちろん、人と話すのが好き以上に「本が好き」な人も向いている仕事である。
いくらコミュ力があっても「メロスが走る本ありますか?」という質問に「初めて聞いたけど、メロスの走りにマジで興味あります」と言って永遠に雑談が続いてしまうようでは仕事に差しさわりがあるので、本が好きで本の知識があるにこしたことはない。
私の本もごく稀に図書館にはおいてあるらしいが、探す際に「カレー沢」という言葉を図書館の人に言いたくなさすぎて、なかなか見つからないという事案も発生してしまっているのかもしれない。
このPNはエゴサが非常にしやすいのだが「声に出して言いたくない度」はかなり高いと思われる。
こういう、自分に甘く、読者に辛い姿勢が、常に図書館や本屋に本を置いてもらえる作家になれない理由のひとつかもしれない。
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