カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」工場の検品バイト編
「通販」は便利なものだ。
特に田舎だと「こ、このアイペェッドとかいう便利な板が欲しいべ」と思っても「近隣に売っている店舗がない」というのがデフォルトである。
ちなみに筆者の最寄りのアップルストアは「県外」だ。
よって今まで田舎の民は、様々な品を「最初から存在しない物」として諦めて来たが、それが通販の発達により手に入れられるようになった。
また田舎は交通の便が悪いため、車を運転しないと食料品の確保すらままならず、高齢になり免許を返納したくてもなかなか出来ないという現実があり、このまま行くと田舎の道路はリアル怒りのデスロードと化してしまうだろう。
その問題を解決する鍵もやはり「通販」にあると思う。
そんな便利な通販だが、何せ実物を見て購入するわけではないので、家具などを買うと予想の二倍ぐらいでかく、玄関に置かれた時点で詰んでしまったり、到着してはじめて「組み立て式」であることが判明しテンションが下がり、箱から出すこともなく2年ぐらい経過してしまうというデメリットもある。
サイズも組み立て式であることも商品ページに書かれているだろうと思うかもしれないが、そんなに慎重な性格だったら今ごろ、漫画家兼ライターなどという迂闊な仕事には就いていない。
先日椅子を通販で購入したが、見事に予想よりデカく、そして組み立て式であったので、もう「ダンボールに座る」ということにしてしまおうかと思ったが家族の助けを借りなんとか組み立てることに成功した。
だが、こういう組み立て式商品の場合「部品が足りていない」という可能性がゼロではない。
慎重な人間ならネジが1本足りない時点でクレームを入れ、ネジの到着を待つと思うが、迂闊な人間は「誤差の範囲」としてそのまま組み立ててしまう場合がある。
その結果、ネジの足りない椅子に勢いよく座って、大事故ということもなくはない。
そうなったら、迂闊な方も悪いが、部品を入れ忘れたメーカーも責任を問われてしまう。
このように、製品に不足や不良がないかというのは非常に重要なことである、今回紹介するのはそんな重要な仕事だ。
「工場の検品」
これが今回紹介するアルバイトである。
検品とは、商品に不具合などがないか確かめる仕事だが、工場内で行われるものと倉庫内で行われるものの主に二種類があるそうだ。
工場内なら、製造過程の一つとして、ベルトコンベアで流れて来る商品に汚れや異物混入がないか目視で確認、もしくは商品を実際使用して問題がないか調べたりと、不良品の確認が主な仕事になる。
倉庫では、発送前の完成商品に再度汚れや破損などがないか確認し、さらに数量に間違いがないかを確認する業務が主となる。
つまり、商品というのは我々の手元に届く前に少なくとも二重チェックはされているということだ。それでも全く頼んでいないドラクエのキラーマシンの模型が届いてしまうということがあるのだから、人間のすることに過信は禁物である。
検品バイトをするのに資格やスキルは特に必要なく、立ちっぱなしという場合はあるが、力仕事というわけでもない。
数あるアルバイトの中でも、難易度はかなり低く、未経験でもはじめやすくそれでいて時給も悪くはない、とメリットの多いバイトではあるが、仕事が簡単で単調ゆえに集中力が途切れやすくもあるようだ。
この「集中力」が途切れるというのは、検品作業にとって最も危険なことである。
集中力が途切れ、不良品を見逃してしまったら、ネジの足りてない椅子に何のためらいもなく座る奴が出てくるなど事故が起こってしまう可能性がある。
このように仕事自体は軽作業だが、責任はなかなか重いのが検品なので、検品の仕事をする際は、集中力やモチベが途切れないように工夫をすることが重要だという。
漫画「刑務所の中」で主人公が独居房で薬袋を作る作業をさせられた時「今日中に300枚作るぞ」と特に定められたわけでもないノルマを決めて集中力を保ったように、工場が指定したノルマがなくても己の中で「何時までに何個検品」と言った「マイノルマ」を課すことが、検品バイトをダレずに行うコツだという。
こうすることにより集中力不足によるミスが減り、仕事も早くなり評価も上がるという一石二鳥状態になる。
そして、休憩をしっかりとることも重要である。
現代人はいつの間にか「休憩=スマホをいじる時間」という認識になってしまっているが、検品は目を酷使する仕事なので、休憩時間にもスマホをガン見するというのはミスの元なのだ。
ソシャゲの体力が溢れちゃうという危惧があるかもしれないが、体にも悪いので休憩時間は目を休めることに専念しよう。
また「興味がある商品を扱うところに応募する」というトリッキーな技もある。
私は車類が全部同じに見えるのだが、魔法少女シリーズのキャラの顔が全部同じに見える、という人もいるだろう。
人間は興味がないものに対しては感覚が雑になってしまうので、見落としが起こる危険性も高まるし、疲れもたまりやすくなる。
その点好きな物なら見飽きないし「注文は二期の魔法少女なのに三期が入っていやがる」と間違いにも気づきやすくなる。
確認作業というのは非常に大事なもので、この原稿なんかも書き上げて4秒で送っているわけではなく、一応1回は読み返すようにしているのだが、それでも誤字はあるし、二重チェック先の編集者さえ気づかない、ということもある。
その結果「何をするんだ」が「何をするだ」と、キャラが突然訛りだす後世に残る大誤植になってしまったりするのだ。
つまり歴史を揺るがしかねない、大事故を水際で食い止める重大な仕事が検品などの確認業務なのである。
スキルや資格なしで「でかい仕事をしたい」という時はうってつけのバイトではないだろうか。
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