俳優・アーティスト/佐藤流司さんインタビュー「俳優を続ける理由は“背水の陣”――ネガティブな意味ではなく、継続してきた誇りと今後への覚悟」
30歳のメモリアル作品となる4th写真集『Reason』(講談社刊)が発売中の佐藤流司さんにインタビュー。故郷・仙台で敢行した撮影の思い出や、30代に突入したことで変化したものを聞いたほか、俳優・アーティストとして精力的に活動する原動力、強くいられる秘訣について聞きました。
“THE 写真集”というような笑顔のカットを表紙に
――メモリアル写真集の出版を希望したのは佐藤さん本人だそうですね。
今年1月に30歳になり、20代の最後に形として残しておきたいという思いがあったんです。次にいつ(写真集を)出せるかわかりませんし、記念に出してみようという感覚でした。
――完成した作品を手にして、どのようなことを感じましたか?
掲載するカットのセレクトなどをある程度、任せてもらったことで、いろいろな表情をしている新たな自分を発見できましたし、写真集を1冊作るってすごく大変なんだなと感じました。全体的にいい出来になったと思います。
――表紙のやわらかな笑顔が印象的ですが、佐藤さんにとって珍しいことなのでは?
いつも通りのキメ顔など、いろいろな案があったんですけど、今回は素に近いものにしたくてこのカットを表紙にもってきました。“THE 写真集”という感じがしますよね。
――羽織袴や制服など、さまざまなシチュエーションでの姿を披露していますが、特に思い出に残っているエピソードを聞かせてください。
これは勝手な偏見なのですが(笑)、海にいる人たちがどこか浮かれているような感じがして、海へ行くことをずっと避けていたんです。だけど、今回、撮影で入ってみたら思いのほか心地よくて、意外と嫌いじゃないんだなと気づきました。
――写真集を見返しながら、新たな表情の自身に気づいたという発言がありましたが、心境の変化などあったのでしょうか?
ここ何年か、まわりから丸くなったと言われるんです。若い頃は何かを目にするたびにいろいろな刺激を受けていたけれども、年齢を重ねるにつれて見慣れた景色が増えてきて、苛立つことや、人に対してネガティブな感情を抱く体力がなくなってきた。大人になるというのは、あらゆるものにだんだん興味をなくしていくことなんだなと実感している最中です。
父親から届いた帯のコメントに、さすが俺の父親だなって(笑)
――帯には「多くの悲しみの中、希望を背負って生まれた君。少しは誰かの希望になれているのかな?--父」「こんな素晴らしい子を育てた親の顔が見てみたい――母」とご両親の言葉が並んでいますね。
20代で最後の撮影、30代で最初の作品ということもありましたし、節目の年齢でもあったので、この写真集にどんな形でもいいので、両親に携わってほしかったんです。『Reason』というタイトルにもなっているように、自分が今まで生きてきた理由と俳優を続けることの理由をこの1冊で表現するというコンセプトのもとに制作した写真集なので、そういった意味からも自分の人生を語るうえで両親は不可欠な存在と、コメントを依頼しました。
――コメントが実際に届いた時はどのように感じましたか?
母親のほうは一発OKでしたが、父親が書いてきたコメントがあまりにもブラックユーモアすぎて、さすがに俺の父親だなと(笑)。これはさすがに使えないというのを何度か繰り返して、最終的にこの言葉にたどり着きました。
――“今まで生きてきた理由”について詳しく聞かせてください。
かつてはイヤな経験もしたけれど、なんだかんだ死ぬのもイヤだったから、ここまで生きてこられたという。バンドに熱中していた頃や、弁護士に憧れていた時期があったことなど、これまでの自分自身を構築してきたもの、過ごしてきた時間をこの1冊に凝縮しました。
――“俳優を続けていくことの理由”についてはどうですか?
根が卑屈な人間なので表現が難しいのですが、俳優以外をやってこなかった、もうこれしか残されていないという背水の陣なんです。写真集の最後のほうで衣装に埋もれているカットがあるのですが、これまで多くの役を演じてきて、自分でも佐藤流司がどういう人間なのかちょっとわからなくなってきまして、もう俳優を続けていくしか道はないのかなって。決してネガティブな意味ではなく、今までやってきたという誇り、そして、これからも続けていくしかないという覚悟ですね。
30歳という年齢を迎えたのは想定外の出来事
――今年1月に30歳の誕生日を迎えた時の心境を聞かせてください。
ロックな生き方が好きなので、ここまで来るとは正直、思っていなかったです。俺の人生は27歳で終わると真剣に思っていて、気がついたら30歳になっていました。だから、自分が思う生粋のロッカーじゃなかったのかなって。
――10代や20代の頃と比べて、仕事に向き合うスタンスの変化はありましたか?
20代の頃は「芝居の世界で俺が切り拓いてやる」とか、ちょっと納得がいかなかったり、不満に感じたりすることがあると「すべて変えてやる」など生意気なことを思っていました。しかし、俺ひとりではどうにもならないことに気づき、そこを受け入れていくことも大事なんだと考えるようになりました。
――以前の強気な発言にあるように、佐藤さんといえば強さをもった俳優というイメージがあります。強くいられる理由を聞かせてください。
日本男児なので、侍の心を持っているのだと思います。これまで出会った中で一番カッコいいと思った男性はやっぱり父親ですし、父がすごく男らしい人だから、そうなりたいと憧れている部分がありますね。
佐藤流司としての人生は一回限り! 晩年に後悔しない生き方を
――2021年の「タウンワークマガジン」のインタビューで、仕事をするうえで大事にしているのは「意見を曲げず、持論をしっかりもつこと」と発言していますが、今も同じ考えでしょうか?
よくわからないことを言っていますね(笑)。20代を全力で駆け抜けた影響で体にガタがきまして、今では刹那的な生き方をやめよう、そして、健康的に過ごすことが大事だという考えに至りました。
――佐藤さんの出演情報を目にするたび、いつ休んでいるのかと心配になります。
働いている自分の姿や、「働き過ぎだ」とか「いつ寝てるの?」などと聞かれる自分に誇りをもっていたのですが、体力的に20代が限界で、しっかり寿命を前借りしたんだなと感じています(苦笑)。もしかしたら、これでやっと人並みになれたのかもしれません。
――俳優業に加え、ソロアーティスト、The Brow Beat、ZIPANG OPERAと3形態で音楽活動を行っていることも、よりスケジュールを多忙にする要因の一つだと思いますが、自身ではどのように受けとめていますか?
輪廻転生はあるのかもしれませんが、佐藤流司としての人生は1回限りですし、晩年になって「あれを経験しておきたかった」と後悔したくないというだけの話です。今、やってみたいことでいうと、声優業への興味があります。経験はありますが、楽しさも難しさもやっと少しずつわかってきた時期なので、もっと挑戦を重ねたいと思っています。
――俳優とアーティストのスイッチの切り替えはどのように行っていますか?
表現するという意味ではまったく同じです。ただ、俳優は120%を出すと体を壊したり、翌日の公演に響いたりするので、体を壊さない範囲の限界を探る作業が大事。一方のアーティスト業は、仮に体が壊れたとしても120%の力を放出することが大きな違いでしょうか。
――煮詰まることはありませんか?そして、そんな時のリフレッシュ法は?
いっぱいいっぱいになることが通常といいますか、もうずっとその状態です。リフレッシュはゲーセンやサウナ、温泉に行くことが多いです。岩盤浴をしながら読書することも好きですし、静かな場所よりも、少し雑音が聞こえるくらいのところのほうが余計なことを考えずに済むので、そんな場所でインプットをしています。
「きっと成功する」と楽観的になることでいい方向に
――4年前のインタビューで、原動力は「愛猫にごはんを食べさせることと、自分を認めて、必要としてくれる人たちの存在」と話していましたが、現在はいかがですか?
今回の写真集も重版が決まったのは応援してくださる方がいて、その方たちが俺の存在を認め、この人の写真集がほしいと思ってくださったからのことだと思いますし、そこは以前とまったく変わりません。皆さんがいてくれなかったから、もうとっくの昔に疲弊して、辞めていたと思います。そして、猫の存在ももちろんです。
――夢や目標に向かって奮闘する若い世代にメッセージをお願いします。
自信がないとどうにもならないですから、根拠のない自信をもつことが大事だと思っています。俺自身も本来はすごくネガティブな性格ですが、「きっと成功する」と楽観的になることでいい方向に向かうような気がします。
――ちなみに4年前は「自分が子猫のような存在であっても、タテガミを作ってほしい」というメッセージをいただきました。
先日、リリースしたアルバムにまさしくそういう歌詞の曲が入っています(笑)。タテガミというワードも歌詞に盛り込みましたし、常に心の中にあるワードなんでしょうね。
■Profile
佐藤流司(さとう・りゅうじ)
1995年1月17日、宮城県生まれ。2011年に俳優デビュー。主な出演作にライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズ(うちはサスケ役)、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(加州清光役)、「笑ゥせぇるすまん」(喪黒福造役)、舞台「呪術𢌞戦」シリーズ(虎杖悠仁役)、舞台「応天の門」(菅原道真役)、ミュージカル『東京リベンジャーズ』(松野千冬役)、ドラマ「君とゆきて咲く~新選組青春録~」(坂本龍馬役)など。5月30日~東京、6月20日~大阪で上演される舞台「近松忠臣蔵」に大石内蔵助役で主演する。
◆Official Site:https://sato-ryuji.com/
◆Official X:@ryuji7177
◆Official Instagram:@ryuji_japan
■作品情報
佐藤流司 4th写真集『Reason』(講談社刊)発売中
撮影:大靏 円
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。