「できない」をビジネスではどう言い換える? 「できない」の敬語、丁寧なお断りの言い換え例など
ビジネスではどうしてもお断りしなければならない場面があります。その際は会社間の関係継続を考慮する必要があるため、相手を尊重した丁寧な断り方が求められます。これは、重要なビジネススキルのひとつです。
断りの言葉である「できない」をどのように表現すれば、信頼関係を損なうことなく維持できるのか、言い換え表現やポイントを解説します。
ビジネスシーンで「できません」を言い換えるには
「できません」は「できない」の語尾を丁寧にした言葉で、不適切とまではいえませんが、ストレートな表現のためビジネスシーンでは避けたほうが無難です。より丁寧なお断りの言い換え表現を解説します。
「いたしかねます」がおすすめ
「いたしかねます」は、「する」の謙譲語「いたす」に、「難しい」「できない」という意味の「かねる」を組み合わせた敬語表現です。
相手に対して自分の立場を低くし、敬意を示す「いたしかねます」は、やむを得ず断るニュアンスを含み、ビジネスシーンのほかフォーマルな場面でも使えるおすすめの表現です。
「恐れ入りますが、〇時の対応はいたしかねますのでご了承願います」
お断りの表現として「しかねます」も同じ状況で使うことができますが、「いたしかねます」の方がより丁寧な表現なので、まずはこちらを覚えておくといいでしょう。
そのほか言い換え表現として、「ご要望にそえません」「お役に立てず申し訳ございません」などがあり、その場面に合わせた適切な表現は、誠意ある印象になります。
「できません」で良いケースもある
社内の身近な上司や先輩に、自分の力量不足やリソースの制約を率直に伝える場面では「できません」でも不自然ではありません。「いたしかねます」や「できかねます」などの敬語表現は堅苦しくよそよそしい印象になります。ただし、立場が離れている上司など相手によっては避けたほうがよく、失礼にならないよう関係性には十分注意して使いましょう。
「すでに別のアポイントが入っているため、その日は同行できません」
「できません」に続けて「次回はぜひ同行させてください」など前向きな姿勢をみせることも大切です。
「できませんでした」は言い換えずに使える
「できませんでした」は、何かを達成できなかった場合に使う表現です。ビジネスシーンでは、お客さまや上司からの期待や要求を満たせなかった際、「努力はしたが望む結果に至らなかった」という過去の行動を示しています。
「ご希望の商品を見つけることができませんでした」
「交通渋滞のためミーティングに参加することができませんでした」
「できませんでした」を使うときは、ご要望に沿えなかったわけですから、謙虚な姿勢で、しっかりと理由を伝え、反省と今後の行動につなげることが大切です。
「できませんでした」を言い換える場合の表現例
「できませんでした」はそのまま使えますが、ほかの表現に言い換えることもできます。その場の状況に合わせて使うことでより丁寧な印象になります。
・「目標達成に至りませんでした」:目標を達成できなかったことを謙虚に認める
・「未達に終わりました」:計画が実現できず未達成だったことを伝える
・「成果を得られませんでした」:努力をしたが、期待した成果を得ることができなかった
・「失敗に終わりました」:目標には到達せず、失敗したことを素直に認める
「できない」の敬語表現
ビジネスシーンでは、相手が不快感をもたないような言葉で「できない」を伝える必要があります。目上の方、お客様、取引先に対して使える「敬語表現」や「配慮ある言葉」について解説します。
いたしかねます
「いたしかねます」は、「する」の謙譲語「いたす」に、「難しい」「できない」という意味の「かねる」を組み合わせた表現で、「◯◯をすることができません」という意味になります。
「ご希望に沿えず申し訳ございませんが、その点につきましては補償いたしかねます」
「恐れ入りますが、その件につきましてはお答えいたしかねます」
○○しかねます
「◯◯しかねます」は「◯◯いたしかねます」と同様に「◯◯することが難しい」「無理です」の意味合いで使われますが、「適切ではない」というニュアンスも含まれます。
丁寧さでは、「いたしかねます」のほうが、「する」→「いたす」の謙譲語をつかっているため、より敬意を示している印象があります。また、「できません」といったストレートな表現よりは丁寧です。
「その件につきましては、こちらでは対応しかねますので、担当部署に連絡いたします」
「その意見には賛同しかねます」
できかねます
「できかねます」は、「できる」に「難しい」という意味の「かねる」を合わせた言葉です。敬語とはいえませんが、不可能であることを明確に伝えたいときに使える表現です。「できません」のように語尾が否定形になっていないため、少しやわらかい印象になります。
ただし、ストレートな表現であることと、音としての響きも強いため目上の人に使うのは避けたほうがよいでしょう。「で」は濁音、「き」は破裂音で、やや耳障りな音の部類に入ります。後に紹介するクッション言葉や理由を添えて、誠意を示すことが大切です。
「申し訳ございませんが、その件については対応できかねます。」
「誠に恐れ入りますが、今回のご要望にはお応えできかねます。」
できません
「できません」は「できない」の丁寧語ですが、お客さまや取引先では避けた方がいいでしょう。主語が曖昧だと誤解を招く恐れがあり、「申し込みはできません」では相手ができない印象を与えます。より丁寧に「申し込みはできかねます」としても同様です。
そのため、敬語表現としては「申し込みの対応はできかねます」「私共では対応いたしかねます」とすると、自分ができないことを伝える丁寧な謙譲表現になります。
「いたしかねる」と「できかねる」の違い
「いたしかねる」と「できかねる」はどちらも「できない」ことを丁寧に伝える表現であることは同じです。似ている言葉ですが、ニュアンスは違うのであらためて確認しておきましょう。
要望に応えたいが、理由があってできない。「する」「しない」の問題
「できかねる」
物理的にできない。「可能」「不可能」の問題
丁寧な「お断り」表現の言い換え例
お断りの言葉として、直接的ではなく、その状況に合わせた丁寧な言い換え表現があります。敬意を示し、配慮ある断り方になりますのでぜひ覚えておきましょう。
遠慮させていただきます
「遠慮させていただきます」は、相手からの依頼や提案を控えたいときに使います。相手に敬意を示し、自分側の事情もやわらかい印象で伝えるフレーズです。話始めに「クッション言葉」や「控える理由」「今後についての言葉」があると、さらに気持ちが伝わる表現になります。
なお、「ご遠慮させていただきます」のように「ご」をつけるのは「自分の行動を丁寧にしている」表現のため、間違いといえます。
「せっかくのお申し出ですが、今回は遠慮させていただきます。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。」
辞退させていただきます
「辞退させていただきます」は、「遠慮させていただきます」と同様に、相手の申し出をお断りするときに使いますが、より明確に伝える場合に適しています。フォーマルな場面や文書でも使われ、丁寧で誠実な印象になります。前後の言葉遣いもフォーマルさを保つように気をつけましょう。
「誠に残念ではございますが、今回の案件は諸事情により辞退させていただきます。貴重なご提案に感謝申し上げます。」
差し控えさせていただきます
「差し控える」とは「行動や発言などを控える」「遠慮してやめておく」などを意味します。これに「させていただく」という謙譲語を組み合わせることで、依頼に応じられない場合や、遠慮することを丁寧に伝えたいシーンで使われる表現となります。
「申し訳ありませんが、詳細な情報については差し控えさせていただきます。」
見送らせていただきます
「見送る」には「やりすごす」「差し控える」「行わない」などの意味があり、「差し控えさせていただきます」と意味は同じですが、今後の可能性を残しているニュアンスがあります。そのため、「見送る」理由と今後についての説明があると誠実さが伝わります。
「大変心苦しいのですが、今回は時間的な余裕がないため見送らせていただきます。またお声かけいただければ幸いです」
「できない」ことを伝える際のポイント
「できない」ことを伝える際は、今後の関係性にも配慮する必要があります。感謝と謝罪、そして、断る理由を明確に伝え敬意と誠実さを表しましょう。
クッション言葉を使う
相手の意向に沿えない場合や、お断りする場面では、できるだけ丁寧な話し方を心がけましょう。そのためには「クッション言葉」が有効です。話始めに気持ちを込めて「クッション言葉」を添えることで、相手の気持ちがやわらぎ、続く言葉を受け入れてもらいやすくなります。同じクッション言葉ばかり使うのではなく、シーンによって使い分けられるよう3つ程度覚えておくことをお勧めします。
・恐れ入りますが
・恐縮ですが
・申し訳ございませんが
・あいにくではございますが
・せっかくのご提案ではございますが
・大変残念ですが
断る理由を明確にする
なぜできないのか、その理由を明確に伝えることも大切です。相手が納得できる説明で誠実さを感じることができるでしょう。ただし、詳細な情報を伝える必要はありません。あまりにも長い説明は言い訳のように聞こえることがあります。「現状では難しいため」「スケジュールが合わないため」など簡潔に伝えます。
代替案を提示する
断るだけではなく、可能なかぎり代替案を提示することで、相手との関係性を継続したいという意思が伝わり、良好なコミュニケーションがとれるでしょう。たとえば「〇日でしたらいかがでしょうか」「◯案でしたら対応が可能です」といった、ほかの選択肢の提案です。このような提示で前向きな姿勢が伝わります。
フォローを忘れない
代替案の提示が難しいようであれば、「また次の機会によろしくお願いいたします」といったフレーズも関係維持の表現として誠意が伝わります。
また、その後のフォローとして、相手との関係をどうしていくのかを考え、相手に合わせた情報提供や、問い合わせに対する適切な対応などで良好な関係を継続させましょう。断り方だけではなく、断った後のフォローもビジネスシーンでは大切なスキルです。
「できない」の言い換え・類語表現
ここからは「できない」と同じ意味合いで、口語体の少しやわらかい印象の言い換えや類語を解説します。
難しい、厳しい
お断りする場面で、「◯◯することが難しい」あるいは「…厳しい」という伝え方があります。「現状では困難」「実行は厳しい」というニュアンスですが、現実には「不可能に近い」「できない」という意味で使われます。
注意点は、断定的に断っているわけではないので、曖昧にするのではなく「例えば◯でしたらいかがでしょうか」と調整することを前提として使うことをおすすめします。
「◯の件は、調整が難しい状況です」
「専門外のため、ひとりでの実行は厳しいと考えます」
いただけない、なれない
「いただけない」「なれない」は、「受け入れられない」「引き受けられない」といったことに対して直接的に「できない」と言うのではなく、丁寧に断る際に使われる表現です。
「システムの都合により、しばらくの間ご注文いただけません」
「当社ではお答えしかねます。お力になれず申し訳ございません」
お受けできない
「お受けできない」は、直接的に「受けることができない」という意思を伝える表現です。「お受けできません」と語尾を丁寧にしても明確な拒否になりますので、ビジネスシーンでは避けたほうがいいでしょう。「お受けできかねます」や「見送らせていただきます」のほうがやわらかい表現です。
使う場面としては「NO」をしっかり伝えるときで、代替案を入れることが大切です。
「申し訳ありませんが、多忙のため今回はお受けできかねます。〇日以降でご検討いただけませんか?」
お役に立てない
「お役に立てない」は相手の要望や期待に応えることができない状態を伝えています。これは自分のスキルの問題にもかかわってくるため、期待してもらった感謝と、応えられなかった謝罪の言葉を伝える必要があります。
「せっかくのお話ですが、お役に立つことができず申し訳ございません」
株式会社ヒューマンディスカバリー 代表取締役
人材育成パートナー・講師/キャリアカウンセラー
航空会社、外資系化粧品会社の接遇・人事部門を経て、2004年に会社を設立。「ビジネスマナー」「言葉力」の専門家として、研修・セミナーを展開。著書は30冊以上。9月18日に「新版 一生使える電話のマナー」(大和出版)を発売。テレビ出演や雑誌・Webサイトへの寄稿も多数。
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