執事喫茶で働いてみたい! 仕事内容や大変なこと、やりがいや向いている人などを聞いてみました
重厚な空間へ、一歩足を踏み入れると執事がお迎えしてくれる「執事喫茶」をご存じですか?今回は、池袋で多くのファンをもつ執事喫茶「スワロウテイル」のフットマン・伊織さんに、仕事内容や大変なこと、やりがい、お客様である「お嬢様」たちとの関わり方のほか、この仕事に向いている人についても聞いてみました。
※撮影時のみ、マスクを外しています。店内では、マスクを着けての接客となります
ワンランク上のサービスを経験したくて執事に
――お屋敷と呼ぶのにふさわしい内装ですね。そして、伊織さんの“執事感”が想像以上なのも驚いています! 執事のお仕事とは具体的に何をするのでしょうか?
伊織さん「私どもの屋敷では、執事と呼ばれる予約管理や屋敷の管理をする者と、お嬢様やお坊ちゃまの給仕をするフットマンと呼ばれる二つの役割がございます。フットマンである私の仕事は、来館されたお嬢様、お坊ちゃまへのお食事やお茶の提供、その他ご不便がないように身の回りのお世話を行います。具体的に申し上げますと、来館の際に鞄やコートを持ち、お席までエスコートして椅子を引き、ナプキンを膝にかけたり、カップは常にお茶を満たすなど、ご来館された方が快適に過ごせるように給仕をすることです」
――お嬢様、お坊ちゃま気分を味わってもらうための“お世話”なんですね。
伊織さん「来館されたお嬢様、お坊ちゃまに「何もしなくても、すべてが用意されている」という状態を作り出せるように、先廻りして動くことが重要です」
――お客様から声を掛けられる前に動くということなのですね。来館された方とお話をすることも仕事のひとつですか?
伊織さん「ティーサロンでは紅茶だけで40種類以上ありますから、お茶の種類をご説明したり、給仕の間にお話しすることはあります。ただ、私たちはあくまで使用人ですから、お話することがメインではありません。当館は予約制で、1回の滞在時間は80分となるのですが、その間、お話しているのは多くても10分程度ではないでしょうか」
――あくまで給仕がメインなのですね。伊織さんはもともと執事の仕事に興味があってこちらで働き始めたのですか?
伊織さん「いえ、最初は“執事喫茶って何?”という感じでした。それまでは“高級”と呼ばれる部類のレストランで接客業をしていましたが、自分が考えていたような深い接客ができず物足りなさがあり、ワンランク上の接客を学びたいと思っていたところ、こちらを見つけたのがきっかけです。コンセプト喫茶と呼ばれるカフェはたくさんありますが、コンセプトがしっかりしており、かつ、料理のクオリティが高く、隅々までこだわりが強い。そもそも、執事をコンセプトにしている着眼点も面白いと感じました。制服がタキシードから燕尾服に変わったのも面白いですし(笑)。執事の仕事というより、好奇心のほうが強かったです」
40種類以上の紅茶を飲み比べて、覚えるのは大変な作業
――確かに制服が燕尾服ってなかなかないです(笑)。伊織さんは執事に惹かれたというよりも、高い接客スキルを学びたくてこちらでお仕事を始めたんですね。それにしても、伊織さんの立ち姿や話し方、お茶の注ぎ方を見ているとキレイすぎて隙がありません! ここまでの立ち居振る舞いを身に付けるのは相当大変だったのでは…。
伊織さん「一番大変だったのは紅茶の種類を覚えることでした。当初は紅茶というとダージリンとアールグレイしか知りませんでしたから。説明文を読むと「心地良い渋味」や「爽快な渋味」と書いてあるけれど、「渋いのに心地良いとは?」という状態。1種類ずつ飲んで覚えることを繰り返していきました。そして、味わいを分かりやすく伝えるトーク術を考えるのも大変でしたね。現在は研修が1~2カ月あり、テストをクリアしてやっとお嬢様、お坊ちゃまの前に出られるという流れです。ただ、出られてもOJTを繰り返し、1人前になるまでは半年から1年ぐらいはかかるでしょうか」
――1人前になるまで1年とは、それはなかなか大変ですね。
伊織さん「簡単なものではないので、残念ながら研修中に諦めてしまう方もたくさんいますが、そこを乗り越えられれば、どこに出ても恥ずかしくない、高いレベルの接客スキルを身に付けることができると思います」
――一流の接客マナーを学ぶためには、それ相応の努力が必要ということですね。では、執事喫茶のお仕事のどんなところにやりがいを感じますか?
伊織さん「自分のたちのやっていることが唯一無二であることです。このクオリティの高い空間とサービスを15年に渡って保ち、毎日のように顔を見せてくださるお嬢様やお坊ちゃまがいらっしゃることです。私たちがしていることに自信が持てますし、やりがいも感じられます。また、自己研鑽できるのもやりがいですね。紅茶に関しても、こちらで働くうちに興味がより湧いて、ティーインストラクターの資格も取得しました。知識やサービスのレベルを上げるために、とことん自分と向き合えるのは楽しいです。また、「執事喫茶」というコンセプトの中で、自分がいかに執事になりきって遊べる点も面白さですね」
あくまで執事を演じるのが仕事。お嬢様とは最低限の距離感を保つ
――「執事になりきる」とおっしゃっていましたが、執事らしく振る舞うために、外見にもこだわる部分はあるのでしょうか?
伊織さん「私たちはサービスマンですから、見苦しくないよう清潔感を保つことは大切にしています。持って生まれた造形は変えられませんから、清潔感と好感を持っていただけるような笑顔を忘れないというぐらいでしょうか」
「“お嬢様と執事”というコンセプトで、一枚壁を挟んでいるからこそ、楽しめる空間ですので」
――そこは、お客様も理解されているのですね。では、執事として会話をする際に気を付けていることはありますか?
伊織さん「例えば、アニメや漫画などのポップカルチャーの話はしないようにして、執事としてイメージが崩れるような話題は避けています。そのような話題が出た際は、私の場合ですと「勉強不足で恐縮です」や「お好きなのですか?」と、教えていただくというスタンスで会話をするようにしています。アニメや漫画の話で盛り上がることよりも、この空間を演出する者として振る舞うことが大切かと思いますので」
――トークスキルが高度すぎます! もう、伊織さんが執事にしか見えないのですが、自宅でも執事感のある生活なのでしょうか…?
伊織さん「いえいえ、私は公私をしっかり分けるタイプなので、燕尾服を脱げば、猫背ですし姿勢も悪いですよ(笑)。お屋敷でお嬢様、お坊ちゃまの目に触れる間は意地を張って、猫背を直して360°隙を作らないように意識しているだけです」
――つまりプロ意識ですね。燕尾服を脱いだ伊織さんが見てみたい…(小声)。では最後に、この仕事に向いているのはどんな人だと思いますか?
伊織さん「3つあります。1つは明確な執事像を持っている方。実際に執事と接した方は少ないと思いますが、漫画や映画などを参考にして「こういう執事になりたい」という理想があると、それに近づこうと言葉遣いや姿勢も自然と美しくなります。2つ目はお芝居が好きな方。理想とする執事を真剣に演じられることです。3つ目はお話するのが好きな方。執事のイメージを崩すことなく、会話を上手に返したり、振ったりできる方は向いていると思いますよ」
まとめ
知られざる執事喫茶の仕事内容ややりがい、心掛けていることなどがわかったでしょうか。プロ意識が必要とされる執事のお仕事、興味がある方はぜひ挑戦してみてください。
執事喫茶 Swallowtail(スワロウテイル)
住所:東京都豊島区東池袋3-12-12 正和ビル地下1階
営業時間:【ティータイム】10:30~18: 30 【ディナータイム】18: 50~21: 15
(状況により営業時間が変更になる場合があります。詳しくは公式HPで確認)
※公式HPによる予約制
休み:不定休
HP:https://www.butlers-cafe.jp/
取材・文 中屋麻依子/撮影 八木虎造