カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」ピッキングバイト編
無職になってから1年半、当然家族以外と全く接しないため、すっかり人間が怖くなってしまった。
しかし先日、我が家は近所で「住人を見かけない謎の家」と言われている可能性があると判明した。「脅威はこちら側だった」というサイコホラーみたいなオチである。
こんな生活が出来るのも「通販」のおかげだ。これがなかったら今頃、餓死で発見されていてもおかしくはない。
最近は通販で買えないものはないのではないか。こちらに買う金がないという例外を除き、大体の物は買える。そして届くのも早い。私の住んでいる僻地にすら翌日届いたりする。
もしかして、某熱帯雨林通販サイトの倉庫は町内にあるのでは、と思ったが、そんな気配もない。さらに梱包もしっかりしている。
たまに「こんな巨大なものを頼んだ覚えはない」、と箱をあけてみたら修正テープが1個登場するという過剰包装な時もあるが、商品より箱の方が小さいという事態は一度もなかった。
どうやってこんなに早く商品をピックアップして梱包して配送しているのだろう、と思っていたが、どうやら未だ多くの現場で「手作業」のようである。
その作業のうちの一つが、今回紹介する「ピッキングアルバイト」だ。
突然違法アルバイトの紹介がはじまった、と驚かれた方もいらっしゃるかもしれないが、空き巣がカギを開けたりする方の「ピッキング」ではないので安心してほしい。
ピッキングとは「毛皮とホットパンツ」など、暑いのか寒いのかロックミュージシャンなのかよくわからん受注に合わせ、倉庫から毛皮とホットパンツをピックアップし梱包担当に渡す、商品を集める係である。
こういう仕事があるということは、私が月一回通販サイトで頼んでいる、「風邪薬と浣腸」という組み合わせも誰かにピックアップされているということである。
ピッキングバイトの人は、受注に対し特に何の感情も抱かず作業していると信じたい。
そんなピッキングのアルバイトだが、当然倉庫の中を歩き回ったり、商品を持ったりする。
よって、肉体労働とは言わないまでも、私のように運動は自室と冷蔵庫の往復、コーラより重いものは持たないという生活をしている者にとって、最初は辛いかもしれない。
最近では、人間が商品棚に行くのではなく、棚の方が移動してくるという「商品の方が来い」型の倉庫もあるようだが、大体の現場は人間が倉庫を回ってピックアップするようだ。
シフトは比較的自由に組めるので、自分の都合でシフトを多く入れて短期間でがっつり稼ぐことも可能だ。また、深夜に入れば深夜手当が発生するのでさらに稼げる。
ピッキングに必要な技術は特にない。作業は主に「慣れ」だそうだ。
だが、当然商品を触るので、手が焦げてんのかというレベルで汚れているなど、清潔感がないようではダメだ。そして、ほとんど人ではなく物と接する仕事とはいえ、挨拶も出来ないようでは問題がある。逆に言えば、そのぐらい出来ていれば大丈夫、とも言える。
ピッキング作業で一番重要なのは、やはり商品を間違えないことだ。
私は今まで商品を誤配送されたことはないが、ネットで「立派なドラクエのキラーマシーンフィギュアが誤配送されてきた」という噂は聞いたことがある。
その規模の間違いなら逆に許す気になりそうだが、私に浣腸と間違えて鼻うがいを送ってこられ、気づかず浣腸として使ってしまったら一大事である。
鼻に浣腸するよりはマシかもしれないが、返送などの手間やコストを考えると、やはり誤配送は避けなければいけない。
よって、技術はいらなくても集中力と注意力は必要である。
だが、最近はバーコードと商品を照らし合わせる手持ちの機械を使って作業をする倉庫も多いようなので、誤配送リスクはかなり減っているようである。
バイト先によっては「この時間内にこのぐらいピッキングしてくれ」というノルマを課せられることもあるようだ。慣れて来たらスピードアップすることも考えなければいけない。
しかし、急ぎすぎてキラーマシンを送ってしまったら無意味なので、正確かつスピーディに動く必要がある。
また、倉庫は広いので空調の効きが行き届かない場合があるらしく、夏は暑く、冬は寒いということもあるようだ。
暑いのは良いが寒いのは耐えられない、という場合は「お中元シーズンだけスポットで働く」など、地味すぎるリゾートバイトのような働き方をしてもよいかもしれない。
ピッキングアルバイトの良いところは、割とどこでも募集しているという点である。
バイトの職種が少ないことに定評がある我が地元でもピッキングの求人はある。
私もバイトするなら、コンビニなどの接客業ではなく、ピッキングなどの作業系な気がする。
歩き回らなければいけない、というのも「ウォーキングになる」と、ポジティブに考えられないこともない。
しかし、気をつけないといけないのは、商品の重さだ。
飲料系などのピッキングになると、それなりの重さのものを頻繁に運ぶことになる。
ポジティブに考えると「体が鍛えられる」だが、気を付けないと「腰にくる」可能性がある。
よって、何をピッキングするかは少し気にした方が良い。
求人によっては「2キロ程度の部品のピッキング」や「重いものを運ぶ時は専用の機械がある」など、親切に書いてくれているところもある。
とりあえず、私も家にある1キロのダンベルを2つ持ってみたが「厳しい」と判断したため、「まずは家で2キロの物を持ち運びできるようになってから」、再挑戦を考えたいと思う。
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「試験監督」。これが今回の紹介するバイトである。試験というのは様々あるが、NARUTOに出てくる忍者の中忍試験とかでないかぎり、カンニングなどの不正はあってならない。よって試験会場には、受験者を監視する人間がいる、それが「試験監督」だ。

無職になったことにより、他者をリスペクトする心が格段に高まった。他人に対して寛大になれない、と感じている人は、一度無職になってみると良い。しかし、私のように、平日昼間からファミレスでアルコール類を飲んでいる、一見して「ノージョブかな?」と思うような人間でも、実は今まさに「ジョブ中」かもしれないのである。それが「覆面調査員(ミステリーショッパー)」である。
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