カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」交通誘導バイト編
無職の利点とは、問われたら何と答えるべきだろうか。
そもそも無職に何か問おうとする迂闊な奴がなかなかいないのでベストアンサーを用意するだけ無駄だったりするのだが「お前は何が楽しくて生きているんだ」的な意味で問われる機会はあるかもしれない。
無職はとにかく自由だ、と言いたいところだが、厚生年金とか社会保障的な意味でも限りなくフリーなのでもはやプラマイゼロである。
その他になると、常に「将来に対する漠然とした不安」を抱えた明治の文豪気分になれること、そして「混雑を避けれる」「平日昼間にしか機能していない施設を利用しやすい」ぐらいのものだろう。
世の中には役所や銀行、病院など社会生活に必須なはずなのに、何故か基本的に「平日昼間」という社会人が極めて訪れにくい時間帯しか機能していない施設がある。
そういった施設にいつでも行けるのが無職の強みだが、無職ゆえに役所なる社会的な場所にはあまり用がなく、銀行からおろす金がそもそもないし、借りようにも社会的信用の問題で無理、というミスマッチが発生してしまっている。
幸い不摂生な生活をしているので病院には割と用があるのだが、老のおかげで平日昼間行っても混むのが日本の病院である。
しかもスタートダッシュ力は老の方が遥かに上である、気が付けば昼夜逆転している無職に勝ち目はない。
だが、週休7日ゆえに、土日に混む施設に平日に行ったり、連休バカ高くなる航空券を安い時期に利用して旅行できたりはする。
しかし、そんなアドバンテージを持っていながら、わざわざ混む時間帯に混む場所に行ってしまう時がある。
それが、俺たちのイオソ、そしてドラッグストアだ。
スーパー類は例え平日でも夕方は混むのである、仕事帰りで疲れている皆様に寝疲れした奴が紛れ込んでさらに列を長蛇にするのは嫌がらせでしかない。
そして私の行きつけのドラッグストアは「ポイント4倍デー」の時やたら混む。
私は4倍デーの日など把握していない、むしろ4倍デーを狙って買い物できるマメさがあったら今こんなことにはなっていない。
よって、たまたま訪れた時、4倍デーにかちあってしまうことがあるのだ。
しかし、店内がそこまで混むわけではない、元々人口が少ないので混むときの人出もたかが知れている。
しかし、田舎の民は集結するとき必ず「車」でやってくる、という問題がある。
地方民が全員族というわけではなく、徒歩圏内で行ける場所が限られすぎているせいなのだが、そのせいで「店内に余裕はあっても駐車場がいっぱい」という現象が頻発するのである。
そんなわけで、ドラッグストアにはポイント4倍デー時に駐車場に「交通誘導」が出現している場合が多い、これが今回紹介するアルバイトだ。
交通誘導とは、工事現場やイベント会場、施設の駐車場など混雑する場所で、人や車を安全に誘導する仕事である。
交通誘導の仕事は法律上警備の仕事にあたるそうで、初心者はまず4日程度の法定研修を受けるようになっているため、何の練習もなくオープン初日のイオソ駐車場をさばかされることはないので安心だ。
交通誘導のバイトをするには警備員バイトで探し、派遣会社に登録するタイプと、警備会社に登録し現場に派遣されるタイプがある。
イベント時など、短期や単発でできるアルバイトとしても人気のようだ。
また私がポイント4倍デーで観測しただけでも、女性から高齢者まで従事者は幅広いので、立ち仕事を厭わなければ誰でもできる仕事と言って良いだろう。
そして女性交通誘導の需要は意外と高いようだ。
確かにドライバー側の心理としても、男性に「こっち止めてくださいオーライ!」などとでかい声で言われると結構緊張が走るものである。
ハンドルを握っている奴に緊張を走らせても何も良いことはない。
実際、有事の際も「女性警備の方が声がかけやすい」と感じる人は多いようで、そういう意味で女性の応募者は歓迎されるようだ。
立ちっぱなし、場所によって天候に左右されるなどの大変さはあるが、あまり人と話すことがないので接客が苦手な人にはお勧めと言われている。
ただ、個人的に駐車場の整理は交通誘導の中でも難易度が高めなのではないか、と思う。
まず、駐車場の空きを見て誘導しなければいけないし、それを確認するために他の警備との連携も必要である。
それができずに「空いているかもしれない」というワンチャンで車を誘導してしまうと「進むことも戻ることもできない」というアゲハ蝶状態になりかねない。
人間であれば「肩の関節を外して脱出」など、ある程度柔軟な対応ができるのだが、車というのは想像以上に融通がきかないため本当に「詰み」の可能性があるため、コミュニケーションが苦手な場合は車ではなくまだ人の誘導にしておいた方が良い。
また、車が誘導に従ってくれず轢かれかけた、という体験談もある。
確かに車に生身で対応する仕事なので、気を付けないとそういうこともあるだろう。
しかし、運転している側からするとわざと無視しているわけではなく焦ってそうなっている場合もある。
もし交通誘導のバイトをすることがあるなら、自分の身を守るためにも「優しく誘導する」ことを心がけてほしい。
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