カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」隙間バイト編
私の夫は突然即興で掃除機をかけ出すことがある。
私が掃除機を使うのは、米袋から米びつへの米大移動を盛大にミスった時だけなので、床に何もぶちまけていないのに、午前6時や午後10時に見えないものを吸おうとして掃除機をかつぎだす夫は恐怖であり、午前2時にやりだしたらお祓いに行こうと思っていた。
しかし、どうやら夫はそういう発作ではなく「すきま時間」が発生した時に掃除をするようにしているようだ。
一応断っておくが、私は夫を掃除機しかない部屋に軟禁しているわけではない、部屋にはテレビやゲーム機もあるし、何よりスマホも所持している。
これだけの選択肢がありながら「三角コーナー裏のぬめり取り」を選択するのはマニアックすぎないかと思うのだが、そうでなければ我が家は今頃床もぬめってると思う。
私のすきま時間の使い方はもちろんスマホ、と言いたいが、アイフォーンの週報によると平均一日16時間ほどスマホを使っているらしいので、逆にスマホを触っていないすきま時間を見つけるのが困難である。
そもそも時間が空いたならその分寝たり虚空を見つめたりすればよいのではないか、それを「時間を無駄にしている」と感じ、タイトなすきまに家事や労働をねじ込もうとするのはボディを戦わせすぎではないだろうか。
そう思っていたのだが、現在世間では夫のようにすきま時間を有益に使いたいと考える人間が増えているようだ、そして一番わかりやすい益と言えばやはり「金」である。
そんなわけで今回のテーマは「隙間バイト」だ。
最近「隙間バイト」という言葉を頻繁に聞くし、隙間バイトアプリのCMもよく見かけるので、すきまで時間で働くのが流行っているという認識はあった。
私はXを開いただけですきま時間どころか本時間まで溶かせるタイプなのであえて働こうと思ったことはないが、どうせやるなら、家の掃除より賃金が発生するバイトをやりたい気がする。
ただ、こういう発想の人間は家事を軽んじ、タダで掃除などをしてくれる家族に対するリスペクトが欠けているため、雇用の前に婚姻を切られないか心配した方がよい。
しかし、フードデリバリーアプリを入れたところで、配達可能飲食店ゼロだった我が村である、どうせ隙間バイトも都会特有の働き方であり、アプリを入れても該当求人なし、もしくは一番近い求人が県外に決まっている。
だが「検索結果ゼロ件でした!」という使い古されたネタで1行稼ぐためにも一応、有名隙間バイトアプリをダウンロードしてみた。
まず求められたのは携帯番号だ、誰も笑わないギャグのために携帯番号を渡していいものかと迷ったが、これは必須である、そして氏名と生年月日、さらに所属と資格があるか尋ねられた。
「40代、所属なし、資格なし」という己のプロフィールの強さに改めて戦慄するが、そんな奴に紹介する仕事はねえ、と言われることもなく仕事探しページに進むことができた。
後から他にも細かい情報を入力するのだろうが、履歴書不要、面接不要で即働けるというのが隙間バイトのメリットだ。
そして、どうせ近隣に求人はないだろうと予想していたが、驚くべきことにかなりの件数がある、どうやら隙間バイトは都会だけの働き方ではないようだ。
現在「火曜日の午前3時」という、普通の会社員であれば絶対に起きていない時間なのだが、直近の募集は6時から9時までのコンビニバイトだ。つまり3時間後にはもう近所のコンビニのレジに立って働けるということである。
それが喜ばしいことかは置いておいて「思い立ったがすぐ労働」ができるのが隙間バイトの利点である。
ただし相手が求めるのは当然「即戦力」なので、6時から9時までの内2時間半をポスレジの説明に使うわけにはいかないし、私が行くと飲み込みが悪すぎて10時になっている恐れすらある。
よってコンビニやスーパーのレジなどは「経験者限定」が多く、介護施設や美容室などは資格所持が条件になっていたりもする。
だが、イベントスタッフや軽作業、清掃など未経験者OKの求人も多い。
さらに、すぐ働けるだけでなく、すぐ給与がもらえる場合が多いのも隙間バイトの特徴だ。明日までにガソリンを3000円分でも入れなければ車がしばらく鉄塊と化すなど猶予がない時に「凌ぐ」手段となるだろう。
また「隙間バイト」と聞くと、昼勤と夜勤のすきまにも働けと言われているような気がしてしまうが、夜寝と昼寝のすきま3時間だけ働いてもいいのだ。
すきまを有効活用したいというストイックな理由で使うのも良いが、定時起床が無理で定時勤務も無理な人が、自分が起きた時間に合わせて仕事が選べるというのは画期的だ。
ただ、仕事を自由に選ぶことはできるが、ドタキャンも自由というわけではない。
私がダウンロードしたアプリには「ペナルティ」という制度があり、キャンセルなどでペナルティが一定数貯まると一時アプリが使用停止になるらしい。
すきまからもはじき出されたらいよいよという感じがするので、応募は慎重に、そして応募したからにはキャンセルすることがないようにしなければならない。
隙間バイトのデメリットとしては、何せ1日数時間しか働かないため、特定のスキルが身につくことはあまりない、むしろ今までのバイト経験や資格を生かせるのが隙間バイトという感じだ。
また隙間バイトだけで食っていくというのも難しい、隙間バイトをすきまなく入れれば可能かもしれないが、それができるなら長期バイトをやった方が安定する。
あくまで他のバイトの補助、または自分の気が向いた時だけ働ければいいという人向けである。
我が村でも意外と隙間バイト求人はあったのだが、残念ながらこっちにあまり経験がないため、今のところ私ができそうなのは食品加工工場勤務だけだった。
ただ食品工場ゆえに未経験OKだが「検便必須」という条件がついている。
それは難易度が高すぎないかと思ったが、どうやら検便は事前送付なようで安心した。
さすがに「7時~11時」の勤務時間中に必ず出せる自信はないし「出せなかった」という理由でペナルティをつけられても困る。
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