カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」マッサージバイト編
私の住んでいる場所は田舎だが、テレビ局が遠路はるばる「あなたは何を好きこのんでこんな場所に住んでいるんですか?」と聞きに来る系の田舎ではなく、イオソ国の統治下にあるタイプの田舎である。
当然、国民たちは生活の全てをイオソで賄いがちになるため、個人商店は減る一方であり、ロックダウン中か大型台風上陸に備えているようにしか見えない商店街も多々存在する。
またイオソ国は店舗数も少ないが、店の種類も少なく、都会で見かけるような尖った専門店はまず見かけない。
先日東京に行ったとき「りんご飴専門店」を見かけたが、まさに都会だからやっていける店と言える。
何せイオソ国は人口が少ないので「半年に1回ぐらい行きたくなる」程度の店では年間来客数3桁切りも夢ではなく、とてもではないがやっていけない。
だが一方で「人口に対して店舗数多くないか」と感じる専門店もある。
まず我が県にはサイゼが3店舗しかないのに「メダカ専門店」が10店舗もある。
確かに「うちの県ではメダカが主食です」と言っても違和感がない程度の田舎ではあるが、意外にも米を食っており、何故こんなに多いのかは未だに謎である。
だがそれ以上に多いと思うのは「美容院」であり、我が県だけでなく、その地域に存在する頭の数に対し、美容院の数が多いように感じるのは田舎あるあるなのではないだだろうか。
しかし至近距離に美容院が乱立している割にはどの店舗もすぐ潰れるというわけでもないのだ。
私が美容院キャンセル界隈の重鎮ゆえにピンと来ていないだけで、人々の毛刈り頻度は思った以上に高く、田舎でもこのぐらい店舗数がないとみんなロン毛になってしまうのかもしれない。
同様に多いと思うのが「マッサージ店」である、イオソなどの大型商業施設の隙間に必ず1店舗はあるのはもちろん、イオソ外にもチェーン店から個人経営のサロンまで意外なほど多い。
私の家から最寄りのサイゼまでは車で1時間ほどかかるが、マッサージ店に関しては3分圏内にあるし、おそらくサイゼに着くまでにも最低10店舗はあるだろう。
登録店舗数が少なすぎて、口コミサイトや予約サイトが機能していないのも田舎ではよくあることだが、美容院とマッサージ店だけはそれなりの数があるため、ホットペーパービューティーだけは都会ほど選択肢はないがちゃんと機能しているという奇跡が起きているぐらいだ。
そして店舗があるということは、求人もあるということである。
そんなわけで今回は「マッサージのアルバイト」だ。
マッサージの仕事をするためには資格が必要というイメージがあるかもしれないが、国家資格が必要なのは、病院や、接骨院、整体院など医療行為としてマッサージを行う施設であり、もみほぐしやリラクゼーション、足つぼ、エステサロンなどで行うマッサージは資格不要である。
だが、資格不要といっても採用初日に店に出て「じゃあとりあえず揉みながら覚えようか」となるわけではない。
資格は不要でもマッサージ技術は必要であり、未経験の場合、1か月から3か月の研修を受けてから入店という形になる場合が多いようだ。
ちなみに私の家の近くにあるもみほぐしチェーン店は60時間の研修を受けて、最後に試験もあるらしい。
研修自体はタダだが、未経験からのスタートだと稼ぐまでにかなり時間がかかることになる。つまり、短期間で稼ぐというよりは、文字通り手に職をつけ、長いスパンでやっていきたい人向けのバイトだろう。
マッサージバイトの利点だが、まず前述通りマッサージの技術が身につく。
りんご飴専門店で培った技術が我が村で生きる機会は祭の日ぐらいしかないと思うが、マッサージ技術は我が村でも大いに生きるし、我が村で生きるということはどこに行っても生きると言っても過言ではない。
また歩合制であれば揉めば揉むほど収入が増えるし、指名が入った分だけ給料を上乗せする給与システムな場合もあるのでやりがいがあるバイトともいえる。
ただし、完全歩合制になると当然お客がつかなければ収入が発生しないので、安定した収入を得たいなら、固定給のバイトを選んだ方が良いだろう。
また、大手チェーン店であれば働き方の自由度も高く、スマホで働きたい日を選んで入店できるシステムを導入している店もあるようだ。
ただ、揉まれる側でしかない私ですら「人体を1時間手で揉み続けるのは大変だろう」と感じるし、基本的にマッサージ店に来る人間は体が凝っており、肩に防弾プレートを入れているとしか思えないお客が来ることもあるだろう。
銃を想定している身体に素手で立ち向かうのだから、それなりに肉体労働感のある仕事なのではないかと思われる。
またマッサージ中に会話を希望するお客もいるので、世間話ができる程度のコミュ力はあった方が良いと思うが、私のように完全に寝を決め込みに来ている客も多いと思うので、先方が話したそうにしていない限り、積極的に話しかける必要はないと思われる。
だが寝に来た客でも「凝ってますね」と言われたら喜ぶし、オーバーであればあるほど気を良くするので、もしマッサージ店で働くとしたら「対戦車かと思うぐらい堅いですね」など、凝り具合を徹底的に褒めてあげて欲しい。
少なくとも、私は頑張った自分へのご褒美感覚で来ている、全く頑張った痕跡が感じられない肩だったとしても「お疲れですね」と労ってもらえれば来たかいがあるというものだ。
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