カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」モデルバイト編
めっきり服を買わなくなった。
そもそもほとんど外に出ないのだから「服」という存在自体不要になりつつあるのだが、一応衛生的なことを考えて、屋内でも服は身にはつけている。
もちろん衛生面を考慮しているのは私ではなく、全裸の私に座られる椅子などの家具類の方だ。
よって部屋着だけは買っているし、むしろ購入が追いつかないほどのスピードで消耗していくのだが、逆に外出着の方は全く入れ替わりがない。
何せ外出着は着る機会自体が少ないので消耗もあまりしないのだ。
よって「まだ物理的に着られる」という理由だけで、十数年以上前の服を着て外に出てしまうのである。
こうやって「中学生みたいな格好をした中年」は爆誕するのだ。
そんなとっちゃん坊やな我々の姿を見て、これから社会に出る皆様に、例え服に興味がなくても「定期的に今の自分にあった服を買う」というのは社会性の一種だということを学んでいただければ幸いである。
また年をとったことにより、物事に対する期待がなくなってしまったというのもある。
どんな素敵な服を見ても「どうせ着るのは自分だしな」と思うと購買意欲が雲散霧消してしまうのである。
だがこの「着るのは自分問題」は、絶望中年だけのものでない。
服の広告でその服を着ているのは、大体スタイル抜群のモデルである。
よって広告で見たときは素敵に見えたのに、購入して自分が着ると「見本と違いすぎる」ということになってしまうのだ。
見本と違うのは服ではなく中身であり、返品するとしたら自分なのだが、スタイルの良いモデルではリアルな使用感がイメージできない、というのは事実である。
よって昔から「もっと庶民的なモデルを起用すべき」という意見も多かったのだが「モデルの冴えなさに服が引きずられる」という問題もある。
あまりにもリアルを追求しすぎて商品自体が魅力的に見えなくなったら本末転倒だ。
よって現在でもファッション誌などのモデルを務めているのはスタイル抜群のモデルが多いのだが「多様化」の波はモデル業界にもやってきている。
過度なダイエットを助長させるとして「痩せすぎのモデルは起用しない」という国もあるし「年齢性別体型問わず、いろんなモデルを起用すべき」という動きは世界的に高まっており、海外では有名ファッション誌の表紙を、どちらかというと「俺たち寄り」なモデルが務めることも珍しくないようだ。
おそらく今後同じような流れが日本でも起こるのではないかと思われる。
つまり、我々にもファッションモデルデビューワンチャンあるということだ。
そんなわけで今回紹介するアルバイトは「モデル」のアルバイトだ。
現在でもモデルのバイトは容姿に自信ニキやネキだけのものではない。
シニア向けファッション誌にティーンモデルを起用しても意味がないし、むしろお互いの良さを殺し合う結果になる。
募集する側のニーズにさえあっていれば、どんな人間でもモデルのアルバイトは可能なのだ。
モデルとして一番身近なのは「カットモデル」ではないだろうか。
我が村でも募集を見たことがあるぐらいなので、おそらく全国的に募集していると思われる。
カットモデルとは、美容院で、美容師アシスタントの練習のためのモデルや、サロンのカタログやHPに載せる見本写真用のモデルである。
カットモデル代がもらえるということはあまりないようだが、無料や格安でカットやパーマ、カラーなどをしてもらえるのが大きな利点だ。
しかし、アシスタントのカットいうこともあり、想定よりも前衛的な髪型になる場合もある。
またカタログ掲載などは、髪だけでなく顔も載せられる場合があるので、そういうのが嫌な場合は事前に「顔出しNGなんですけど?」など、確認をとる必要がある。
カットモデルは公募されていることは少なく、サロンで直接声をかけられるか、ネットで情報を見つけて問い合わせるという方法が多い。
カットモデルをやりたい場合は行きつけのサロンでずっと「カットモデルやってみたいなー」と独り言を言ってみてもよいが、多分ネットで探す方が早い。
またアパレル業界が募集するモデルも、広告やショーに出るファッションモデルだけではない。
立ってる時は良くても、座ったらボタンが全部弾け飛ぶようでは困る、衣服としてちゃんと機能しているかなどをチェックするために試着をする「フィッティングモデル」の募集もあるのだ。
試着してほしい服により、サイズ規定があるが、服のサイズもそれぞれなので、どんな体型の人間にもフィッティングモデルになるチャンスはある。
またファッションモデルでも、着物を着る「着物モデル」というのもある。
広告撮影用モデルだけでなく、着付け教室の着付けモデルを募集している場合もある。
そしてモデルといえば写真だけではなく「絵」もある。
ヌードはちょっと、と思ったかもしれないが、絵画のモデルはヌードだけというわけではない。
ただじっとしているだけの楽なバイトのようにも思えるが、一瞬キャンバスに目を落とした次の瞬間、立っていたはずのモデルが完全に横になっていた、というのでは困る。
数十分、微動だにしないというのは意外に難しく、そして状況によっては睡魔との戦いらしい。
また「髪が美人」「手がイケメン」「鼻の穴が黄金比」など体の一部になら自信がある人もいるだろう。
そういうパーツが一芸秀でている人におすすめなのが「パーツモデル」である。
指輪の広告に全身の写真を使っても無意味だし、そもそも何の広告なのかがわからない。
当然、指輪をした手の写真を使うことになるが、手首に輪ゴムの跡が色濃く残りすぎているようではそちらに注目が行ってしまう。
指輪をより映えさせるような手のモデルが必要なのだ。
体の全パーツに自信がない、という人もモデルの道を諦めてはいけない。
外側だけではなく「中身」で勝負できるモデルもあるのだ。
もちろん「性格モデル」という意味ではない、それではますます応募が難しくなってしまう。
「赤外線モデル」と言って、赤外線で体の内部を撮影するモデルがあるのだ。
おそらく赤外線写真から個人を特定するのは余程のプロでなければ難しいと思うので、モデルバイトのネックである「身バレ問題」も安心だ。
このように、モデルと一言で言っても様々なモデルがある。
募集件数は多いとはいえず、報酬もまちまちだが、一生に一度ぐらい「今週はモデルのバイトが入っているから」と言っておくためにも、経験しておいて損はない。
ちなみに、モデルとは少し違うかもしれないが、コスプレカフェでキャラになりきり、接客をするアルバイトもあるそうだ。
オタクの立場から言うと、おそらくこのバイトが一番厳しい、なぜならオタクの目は異常に厳しいからだ。
アニメとか全然興味ないけど、ちょっと勉強してそのキャラっぽく振る舞っとけば良いぐらいのノリでやると客に大説教を喰らうなど大火傷の恐れがある。
「モデル」と聞くと、華やかなイメージだが、華やか故に、人の注目を集める苦労というものがある。
ただ「エキストラ」など、逆に注目を集めないのが仕事のモデルもある。
己の自意識と相談の上、あったモデルバイトを探すと良いだろう。
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