桜井玲香インタビュー「根拠がなくても自分を肯定して自信を持つことは大事だと思います」
乃木坂46を卒業後、数々のミュージカルで活躍してきた桜井玲香さん。映画では初主演となる『シノノメ色の週末』が公開されます。女子高を卒業して10年が経ち、思い通りにいかない日々を送る女性たちの物語に、共感するところは多かったそう。桜井さん自身の10年を踏まえつつ、この作品への取り組みをうかがいました。
小さい頃からの夢は揺るぎませんでした
――小さい頃から女優が夢だったそうですね。
テレビっ子で、幼稚園の頃から『踊る大捜査線』や『ナースのお仕事』を親と一緒に観ていて、内容はあまりわかっていなかったかもしれない中で、漠然と憧れていました。
――小学校、中学校、高校とその想いは大きくなって?
そうですね。親にも友だちにも言えなかったんですけど、仲の良かった子が子役モデルをやっていたので、夢のまた夢という感じはしなくて。影響されていたと思います。
――乃木坂46に入ってからも、女優志向は変わらず?
そこは揺るぎませんでした。乃木坂46のメンバーとしてドラマや映画に出させていただいて、完成した作品を観ると胸が熱くなりました。アイドルをやりながらも自分の夢は追い掛けたくて、「何でお芝居ができないんだろう?」と葛藤していた時期もあります。
そんな中で、個人PVなどで若いクリエイターの方とご一緒して、今や有名な監督さんになって、ご縁が繋がったこともあります。グループに9年在籍して、良い時間を過ごさせていただけたと思っています。
ミュージカルの楽しさがクセになって
――乃木坂46を卒業する前から、ミュージカルへの出演が続いていますが、自分の希望でそうなったんですか?
ずっと映像のお仕事をやりたいと思っていたので、最初はミュージカルなんて頭の片隅にもなかったです。やらせていただくようになってからも戸惑いが大きくて、「やりたいわけでないからヘタでも仕方ない」みたいな言い訳を、自分にしていたりもしました。でも、何作も出させていただくうちに、ミュージカルの楽しさを知って、もっとできるように頑張りたいと思うようになりました。
――ミュージカルのどんなところが楽しいと?
出ている方たちがすごすぎる! 歌えて、踊れて、お芝居もできて、見栄えも良い。舞台を突き詰めている方たちの姿が勉強になります。あとは、目の前にいるお客さんから、リアルタイムで反応が返ってくる瞬間に幸せを感じて、クセになります。外国人やお姫様や子どもを演じても、ミュージカルだと違和感がなくて、そういうのも楽しいです。
――とはいえ、舞台に立つ過程では高い壁に悩むこともありませんでした?
いつも悩んでいます(笑)。『レベッカ』は初めてのグランドミュージカルで、歌もまったく練習してない状態で「レッスンから一緒にやってオーディションを受けませんか?」とお声掛けいただきました。海外の本作を作っている方たちのOKが出ないと、出演できない作品だったんです。
難しい課題曲を歌ったテープを送って、何とか出させていただくことになって、稽古で初めて本格的なミュージカルに触れると、カルチャーショックを受けました。ベテランの方たちの中で右も左もわからなくて、お芝居でも歌でも私のせいで稽古が止まるんです。
申し訳ない気持ちになって落ち込んで、たくさん泣いて、「本番に間に合うのか?」と不安でいっぱいでした。でも、周りの方たちに支えられながら、振り返ると良い経験になっていて、思い入れが強い作品です。
――今は女優として大事にしていることはありますか?
自分の感情に沿うことは大事だと思います。お芝居として「こうしてください」と言われても、その動機がわからなかったり、納得できないときもあって。それをわからないままにせず、ちゃんと自分の中に落とし込むことは絶対的に大切だし、時には周りを振り切っても、自分の感情を優先してお芝居をします。そこを押し殺すと、ウソのお芝居になってしまうので。
言われたくないことを言われる場面は苦しくて
――『シノノメ色の週末』は初の主演映画となりますが、自分で好きな映画はありますか?
めちゃくちゃベタですけど『タイタニック』です! もう何度も観ているのに、もはや冒頭からどこを観ても泣けます(笑)。
――今回演じた美玲は、高校を卒業してから10年、モデルを続けているもののパッとしない役。ずっと芸能界で活躍している桜井さんとは、境遇が違いますね。
私も活躍できているのかわかりませんし、共感する部分はたくさんありました。美玲のように悩んだり、どうにか自分を奮い立たせようとした経験もあります。私自身が言われたくないようなことを言われるシーンもあって、痛い、苦しいと思いながら、自分と重ねて向き合いました。
――「言われたくないこと」が出たのは、美玲がオーディションを受けた辺りとか?
あのシーンはしんどかったです。現場でも、本物のきれいなモデルさんたちの中でウォーキングをしたのは本気でキツくて、これは空気に飲まれるよなと。あと、カタログ撮影のシーンで、若いモデルの女の子がきれいな振袖で、美玲は「何色なの?」というような渋い色の着物を着せられて。私はまだ現場で下っ端なことが多いですけど、若い子がどんどん出てきているのをリアルに感じました。
変わるために何ができるかは一生のテーマ
――美玲が「このままでいいなんて思ってないし!」と叫ぶシーンもありました。
それもわかります。美玲が言っていたように、周りで結婚したり子どもを産んだ人が増えて、私はこういう仕事をしているから納得していても、将来を考えると不安にもなります。いつ何が起こるかなんて、わかりませんから。コロナ禍もあって、日々ビクビクしているところはあります。
現状に満足していたらいけない。どうにかして変わりたい。そういう気持ちはあっても、変わるために何ができるのかがわかからない。それはたぶん一生のテーマで、共感できる方も多いと思います。
――「月曜からまた、じたばた生きるための週末」というのが映画のキャッチコピーですが、桜井さんもじたばたすることも?
以前はありました。自分のやりたいことがわからなくなって、若かったから、それを伝える術も見つけられない。どうしようもなくて、周りにワーッと感情をぶつけてしまいました。でも、それだと何の解決にもならなくて。
今は落ち込んだときは、ただ落ち込んだままでいます。親や友だちにああだこうだと話して、ちょっとスッキリしたら、あとは時間が解決するのを待ちます。
――美玲はキャラクターとしては、イケイケ感がありますね。
最初に脚本を読んだとき、我が強くてギャルだった設定もあって、観る方に嫌われるような役にはしたくないと思いました。そこは監督とも話し合って、強さは残しながら、柔らかさや憎めない要素もほしいなと。そのさじ加減には気を使いました。
それで、台詞の言い回しやちょっとした仕草もいろいろ考えました。ハッキリとモノを言いながら、強くなりすぎないように語尾を意識したり。あと、よく「引いて、引いて」と言われました。お芝居に圧が出ないように「もっとフラットに」と。でも、体育館に滑り込んだりするシーンでは、「いきましょう」ということでした(笑)。
映像と舞台の二刀流でいくのが目標です
――『シノノメ色の週末』は高校を卒業して10年後の物語。10年経ったら「もう別人」という台詞もありました。桜井さんの10年前というと、ちょうど乃木坂46の1期生になった頃。当時と変わったところは多いですか?
どこでも素を出せるようになったのは大きいですね。以前はもっと周りの目を気にして、カッコつけたり、猫をかぶることが多かったので(笑)。
――アイドルをやっていたから?
逆にアイドルを始めてから、これではダメだと思いました。「アイドルだから、こうしないと」というのをやめたら、楽になって。どこに行っても、いつでもナチュラルな状態でいられるようになりました。
――目指す女優像に変化はありました?
映像一本でいきたいと思っていた時期もありました。今は映像と舞台の二刀流でお仕事をいただけるようになることが、一番の目標です。お芝居へのアプローチの仕方がまったく違うので、そこをうまく使い分けられるようになったら、めちゃくちゃ強いだろうなと思います。
――映像と舞台で、そこまで違いは大きいですか?
私は真逆くらいに感じています。舞台は一番後ろの席まで、いかにダイナミックにインパクトを残すかが大事。映像は息を吸うワンアクションすら表現になるくらい、繊細なところまで意識しないといけない。最大の違いはそこかなと思います。
「私はダメだ」と思っていたら対峙できません
――美玲が言っていた「私だって売れたいんだよ!」というのは、桜井さんもあります?
生活ができる程度に続けられればいいかな。でも、「こういう監督の作品に出たい」とかはいっぱいあるので、そのためには有名にならないと……みたいな気持ちはあります。
――目標を現実にするための秘訣だと思うことは何ですか?
自分を肯定すること! 今はSNSも普及しているし、いろいろなところから、いろいろな意見が入ってくるじゃないですか。自分を否定する言葉もいっぱい目にします。周りを見渡せばすごい人が多いし、比べたら自分のダメなところばかり見えてきて、落ち込んで悩むこともよくあります。でも、何が正解とかはないので、誰も肯定してくれなくても、自分で自分を認めてあげるのは大事なことだと思います。
――人と比べるということだと、ミュージカルでは直に高名な女優さんとのWキャストもありました。
相手の人にしかできないことはあるけど、その人はまた別のことで悩んでいるし、自分は自分。「私はダメだ」と言っていたら、本当に対峙できなくなってしまう。
私はどうしても「自分なんて……」となってしまうタイプです。だからこそ、根拠のない自信は本当に必要だと思っていて。自分をちゃんと肯定してあげようと、いつも自身に言い聞かせています。
桜井玲香(さくらい・れいか)
1994年5月16日生まれ。神奈川県出身。2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。グループのキャプテンを務め、2019年に卒業。主な出演作はミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』、『フラッシュダンス』、『ゴースト』、ドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)、『東京放置食堂』(テレビ東京)など。11月5日公開の『シノノメ色の週末』で映画初主演。舞台『スラップスティックス』(2022年2月3日~17日/シアタークリエ)に出演。『CLASSY.』(光文社)でレギュラーモデル。
OFFICIAL SITE:https://reikasakurai.com/
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企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:松下茜 取材・文:斉藤貴志