Room3: 佐伯大地×荒木宏文 インタビュー2/6 【僕らの休憩室】
日本のエンターテインメントは、すごく愛されている
−5月にはミュージカル『刀剣乱舞』の公演で中国に行かれていたそうですが、日本との違いを感じることはありましたか?
そうですね。ここ3年毎年、何かしらで海外公演には行かせてもらっていて。中国のお客さんは舞台というよりショーを見てる感じがより強いかもしれないですね。だから、盛り上がると「フー」とか「オー」とか、そういう言葉が入ってきたり。
笑いのツボも違いますからね。字幕表示だとオチがセリフよりも先に出てきてたりもするので先に笑われてしまったり。そういうところで、いつも通り芝居をするっていうのがなかなか難しい環境ではあるかもしれない。
ただ、今回の刀剣乱舞は違うんですけど、中国で2.5次元の作品の公演をするってなると、大半の方が原作をちゃんと見てくれている。日本のアニメもちゃんと目を通してくれてるので、すごく愛されてるんだなっていう感覚はあります。
それくらい日本のエンターテインメントが世界的に注目されていて、たくさんの方が日本文化を楽しんでくださっているっていうのは、ありがたいことですね。
ただ2時間客席にいるって、結構しんどいと思う
−お芝居をされる上で、ご自身が大事にしているのはどんなことですか?
今は、お芝居がわかりやすくなってると思うんです。
もう答えを全て提示するというか。台本的にも、親切に心情の部分を全部語っていることが多いですよね。「僕はこう思ってる」っていうセリフがたくさん入ってたり、「あいつはこう思ってるんだよ」っていうのを、誰かが言ってくれてたり。
テレビやDVD、ブルーレイだったりで、家にいてくつろいだ状態で芝居を見るっていう環境がすごく整っている時代なので、お客さんが集中して見ること自体に慣れていなかったりするのかもしれません。
でも、お客さんが、表情や立ち振る舞いから「あー、きっとこんなふうに思ってるんだろうな」って登場人物の心情を探らなくても済むと、集中力を持たせられないと思うんですよね。
僕自身それはつまらないなって思ってるところで、お客さんが想像したり、見入って探ろうとしたりせずに、2時間客席にいるって結構しんどいと思うんです。
だから、お客さんから見て「今この人どんな気持ちでいるんだろう」とか、役者が何もしてない時にも、後ろ姿を見たときに、「きっとこの人はこんな表情をしてるんだな」とか。そういうものをくみ取ってくれるような見せ方をしていきたいなっていうのは、僕自身こだわるというか、意識してるところかもしれないですね。
ただ、このこだわりって多分自分のわがままなんですよ。だからそのこだわりを持とうと思ってはいるんですけど、稽古場に入って演出がついたことは最優先にやるようにしています。やっぱり、作品はみんなが同じ方向に進んでないと進まないと思うので。
役者は、自分が体験できることの量が違う
−お芝居や舞台について冷静に分析されてるんですね
分析というか、これはたくさん現場に行かせてもらって感じたことだと思います。
あとは、僕は音楽活動もやってるので、そこで見出したものかもしれないですね。ライブをやると、自分の中を一回空にできるんですよ。自分の中に溜まっている自分っていう存在をさらけ出しちゃえるので、その瞬間までつくり上げた自分が、全部空になるというか。
逆に芝居は新しい価値観であったり、世界観に触れられるので、また自分を構築してってくれるって感覚はあります。普通に生活してるのと、役者をしてるのとで、自分が体験できることの量が違いますね。新しい職業につけたり、人種になれたりするのは役者にしかできない。
音楽活動だけやってたらすごく地味な生活になっちゃってたし、自分の世界に凝り固まって、小さなものになってたと思うんです。役者をやってるからこそ、いろんな現場に入って、いろんな役になって、いろんな世界を見れている。とても充実したものになってるんじゃないかな。
全部吐き出してまた新しく取り入れるっていうのを、音楽とお芝居を交互にやることで、僕は効率よく仕事ができているのかなって思います。
ペーペーだということを味わうには、すごく贅沢な現場
−今までの中で、特にご自身に影響を与えたという役柄はありますか?
んー、多分、年齢と経験のタイミングで影響が大きかったのは、映画『20世紀少年 -第2章- 最後の希望』で、ブリトニーというオカマ役をやらせていただいたんですが、それはすごく衝撃が大きかったです。
堤幸彦監督というすごく人気のある監督もそうですし、前田健さんや、平愛梨さん、藤木直人さんと共演させてもらって、現場はすごくリラックスしてたんですが…自分としてはもう、追い詰められてました。
必死に食らいつかないとどうしようもない。これはもう、ただ迷惑をかけるだけだって思ってたくらい。若手の自分がまだペーペーだっていうことを味わうには、すごく贅沢な現場でしたし、学べることもたくさんありました。
この時に共演したマエケンさんの存在は、自分にとって大きかったですね。マエケンさんがゲイというのもあると思うんですけど、男性の方を愛してしまうっていう性格、性(さが)を持ってる方って、後ろめたさというか、そこを隠して生きてなきゃいけなかった時代ってどうしてもあったと思うんですよね。ずっと自分の中で葛藤していることもあったろうし。
そういう方ってやっぱり人の表情とかを見逃さないというか、何を考えてるかっていうのを、顔色ですぐに察知して悟ってあげるというか気回しがきくんだと思うんです。普通だったらコミュニケーションの取りづらい空間を、リラックスして過ごせたのもマエケンさんという気配りのすごい方がいてくれたからですね。
将来は、高校で進路を決めるときに初めて考えた
−芸能界に入ったのはどんなきっかけだったのでしょうか
芸能界に入る直接のきっかけになったのは、第1回D-BOYSオーディションです。自分で応募しました。そのオーディションを教えてくださった方はいたんですけど、書類は自分で送りましたね。
でも高校で進路を決めるときには、まだ何がしたいってはっきりわかってなかったんです。将来なんて考えたこともなかったので「社会人になるのか、俺」みたいなところですごく悩みました。将来のことは、進路を決めましょうってなったときに初めて考えた。
そのとき、たまたま妹がテレビ見てて、「おー、テレビの中も仕事じゃん」って思って。「これは学歴なくてもなんとかなるんじゃないか」っていうところから始めましたね(笑)。
ただ、兵庫県の田舎の工業高だったんで、「芸能人になりたい」って言ってもなり方を教えてくれる人は誰もいない。周りからは「そんな人ここから出たことねぇわ」って言われるし、進路指導部の先生も「お前バカか」って(笑)。
親にも「そんな保証のない仕事をすすめられない、賛成できない」って言われて、どう説得させようっていうところから探し当てたのが、芸能全般を育成してる専門学校だったんです。
カメラマンとか音響さんとか技術さん。あと、メイクさんもそうですし、漫画を描く人、アニメーションを描く人、声優を目指す人なんかを養成する学校でしたね。
親には、「カメラマン、技術さんとして手に職をつけて、仕事に就けるから、ここでその仕事を学ぼうと思う。で、学びながら表舞台の人間になれるチャンスがあったら、そっちに入ろうと思う」っていう説明に変えて説得しました。
それで、その学校のオープンキャンパスに参加したときに、「裏方さんの必須授業を受けながら、選択授業でタレントの授業を受けられないか」っていう相談をしたんですけど、先生から「逆はどうだ?」って言われて。「タレント科に入って、選択授業で裏方さんやらない?」って。それで、そっち側だったら色々免除できるっていうんで。まあ、学費安くなるんだったら結構もってこいじゃんって思って(笑)。
学校の先生も「タレントの方がいいんじゃない」って言ってくれたので、やっぱ自分は表側の人間だっていう、ちょっと自信になりましたね(笑)。
後ろ姿からでも何かをくみ取ってもらえる見せ方をしたいと語る荒木さん。最初は裏方の仕事を学ぶつもりだったとは意外でしたね!さて、次回の掲載からは、いよいよお二人の対談が始まります。偶然にも同じアルバイトを経験していたのだとか。お写真にも注目です!
荒木 宏文 Hirofumi Araki
俳優として活躍する一方でミュージシャンとしても活動中。主な出演作は、映画『20世紀少年-第2章-最後の希望』、ミュージカル『黒執事~地に燃えるリコリス~』、EX『獣拳戦隊ゲキレンジャー』など。今後の出演作として8月には舞台『幽劇』、9月からはOFFICE SHIKA PRODUCE VOL.M『不届者』への出演が控えている。
【荒木宏文OFFICIAL SITE】http://www.watanabepro.co.jp/mypage/10000022/
【公式ブログ】https://ameblo.jp/hirofumi-araki-we/
撮影:田形千紘 ヘアメイク:佐茂朱美 取材:恩田貴行、寺本涼馬