声優インタビュー：森久保祥太郎【先輩のオフレコ！】3

プロとして社会で活躍する「先輩」たちの成長の秘密に迫る『先輩のオフレコ！』。声優・森久保祥太郎さんのインタビュー最終回の今回は、森久保さんの実はやってみたい！と思っているアルバイトを体験してもらいながらお話しを伺います。森久保さんは先輩に言われたある一言で仕事への意識が変わったそうです。その言葉とはいったいどんなものだったのでしょう……？

 

バーを作って人をもてなしてみたい

―ガソリンスタンド以外にもアルバイトはされましたか？
いろいろやりましたね。コンビニでも働きましたし、床剥ぎする解体のバイトもしましたね。冬にスキー行きたいなとか、夏に海行きたいなって思ったときは、ガソリンスタンドと掛け持ちしていました。働くのはすごい好きなんです。

唯一苦労したのは荷物の仕分けです（笑）
宅配便のでっかい倉庫で、一晩中荷物を運ぶんですけど…。
ゼッケンつけさせられて、番号で呼ばれるんです。それで1万円ちょっともらえたんですけど、僕はお客さんがいる接客の方が楽しかったですね。

あとは、プロパンガス屋さんでも働きました。
田舎だったので、すごい広大な敷地の中に何千本ってプロパンガスが置いてあるんですよ。

その敷地内の宿直室で、金曜の夜から月曜の朝まで電話番をするんです。
この仕事がほんとうにすごくって、たまに電話に出たり、プロパンガスを運んだりするんですけど他は何もやることがないんですよ。
交代でご飯を食べに行ったりするためにも2人1組で待機するんですけど、僕はギター弾いたり車洗ったりしてましたし、他のみんなはずっとファミコンしていました（笑）

お金もすごく稼げたんです。週末だけで5万円もらえるんですよ。だから毎週入ればひと月20万ですね。

条件もいいのでみんなやりたいんですけど、人数も多く入れるバイトじゃないので、先輩から代々受け継がれていました。

僕も大学卒業して就職する先輩から「空きが出るから、お前やる？」って声を掛けてもらって、すぐに「やります！」って働きはじめましたよ（笑）

―体験したいバイトとしてバーを希望されていますが、バーでのアルバイトをしたい理由を教えてください。

自分でもお店持ちたいぐらいバーが好きで、今でもよく１人で飲み行くんです。行きつけの店がいくつかあるんですけど、そこのマスターと話したり、常連の人と話したりするのが好きなんです。

毎晩飲みに行ってる時期もあったんですけど、どうせ毎晩飲んでお金落とすなら、自分の店を作っちゃったほうがいいですよね（笑）

家でもそうなんですけど誰かに遊びに来てもらって、もてなすのが好きなんです。なので自分のバーを作って、知り合いの劇団の打上げとかで貸したりできる場になったらいいなあって思います。

男って、自分の店とかガレージとかほしいじゃないですか？自分の基地みたいな。僕はアメリカナイズされた人間なので、アメ車とかハーレーとかすごい好きなんですよ。
アメリカンロックバーみたいな感じのお店を持ちたいですね。ギターやサーフボードとか飾ったりして、カルフォルニアっぽいお店をやってみたいです。

最近、一緒にラジオやってた構成作家さんと「甲子園バー」があったら盛り上がるんじゃないかって話してたんですよ。
今までの甲子園の試合を見て飲みながら泣くっていう。多分40歳以上の人は食いつくよねって（笑）

でも今やると本業をおろそかにしそうなので、もうちょっと待とうかなと思います（笑）

 

「芝居つまんないね」の一言で、変わった声優としての意識

―アルバイトや声優をする中でたくさんの人にお会いしたと思いますが、その中で印象に残っている言葉はありますか？

前の声優事務所にいた頃、玉川砂記子さんに言われた言葉をすごく覚えています。

僕が24～5歳ぐらいで『魔術士オーフェン』で主役をやらせていただいたときに、大先輩の玉川さんが途中で合流してきて共演することになったんですよ。

その頃は、3つくらい主役がポンポンポンって決まった時期で、主役もやらせてもらえるようになったし、収録もスムーズにいったし、NGもだしてないし、成長した自分を見せられたかなぁなんて思っていたんです。

そしたら、「あのさ芝居つまんないね」って、まさかのダメ出しをされました。

「えっ？」と思って聞き直したら、「NG出さないように芝居してない？NGが出ないのは、いいことじゃないんだよ。みんなを主役として引っ張っていかなきゃいけないんだから、今からそんな芝居してちゃダメ。もっと尖った芝居をすれば、ディレクターがもうちょい右、もうちょい左って演出してくれるんだから。今はまあいっか、でOKもらってるだけだよ」って言われたんです。

そのときに、やっと芽生えた自信がガーンッと全て崩れ落ちました。ああ、そういうことですか…と。
当時は、アニメのラジオ番組がはじまったり、雑誌のグラビアに載ったりして、先輩たちがやってきたことを俺もやれるようになったって思いはじめていたので、いいときにきゅって締めていただけたと思います。ほんとうにありがたいですね。そこからは「NGを出さないから良い芝居ができた」とは思うことなく、玉川さんの言葉を、肝に銘じるようになりました。

またご一緒したいですよね。そっからなかなか共演がないんで。また、「お芝居つまんない」って言われちゃうかもしれないですけど（笑）

どの仕事もそうですが、もちろん失敗をしないようにやるのも大事ですけど、失敗を恐れないのも大事ですよね。

バイトも同じで、やってダメなら調整すればいいだけです。多分、人生で失敗できる数って決まってるんですよ。だから早いうちにいろいろ失敗して、あとは繰り返さなきゃいい。一回失敗すると学ぶことはたくさんありますからね。仕事ってそういうものなんだなって思います。

 

同じ時間働くなら、時給以上のものを得る

―アルバイト経験の中で、声優にも活きているなって感じることはあります？

芝居って一つのセリフに対して、正解が一つじゃないんですよ。こんな言い方もあるし、あんな言い方もあるんです。

あるがままをそのままやるんじゃなくて、もう一手間もう二手間、もう一工夫もう二工夫できないかなっていうのが大事なんです。
だから、アルバイトは自分でなにか考えるトレーニングになっていたんじゃないかなと思いますね。

芸事って「教わるんじゃない盗むものだ！」ってよく言うじゃないですか？
声優でも、見よう見まねでいろんなことを覚えたのは大事なことだったと思います。

今は養成所もあるので技術を学ぶ場も多いと思うんですけど、基本は現場で、いろんな先輩の芝居を見て盗むことが大事だと思うんですよ。今思えば、バイトはその予行演習だったのかなって。

わりと貧乏性なんです。ただバイトの時間だけを過ごすのはもったいないなと思うんです。
ただバイト代を稼ぐだけじゃなく、この時間で、他にも何か出来る事・得られる事がないかって考えるのは今の仕事にもつながるような気がします。

―最後に、今これを読んでいる10代、20代の読者の方に一言メッセージをお願いします。

僕は働くのが楽しかったんですね。今でもバイトしたいと思うんです。
それはやっぱり人とのつながりができたり、違う形で評価されたり、時給以上の喜びを得ていたからだと思います。
もちろん時給を稼ぐのは大事なんですけど、それ以上の楽しみやそこからつながるチャンスや経験がバイトにもあるって思って働いたほうがいいと思うんですよ。

ウチの事務所のまだ食えてなくてバイトしてる若い子にも「ただのバイトで終わらせたらもったいないよ」って話していて、やっぱりバイトの仕事以上に何かを学べばそれが自分の実になって芝居にも役立つと思うんです。早く終わらないかなって思いながら働くよりも、同じ3時間なら3時間、全部が芝居に繋がると思って積極的に前に出て働けって言ってます。

そうすると時間もあっという間に過ぎるし、お給料以上に得るものがあると思いますね。それってすごく楽しいと思うんですよ。

撮影：田形千紘
ヘアメイク：佐茂朱美
取材：舟崎泉美
撮影地：Shooting Bar EA