声優インタビュー:赤羽根健治【先輩のオフレコ!】3
プロとして社会で活躍する「先輩」たちの成長の秘密に迫る『先輩のオフレコ!』。声優・赤羽根健治さんのインタビュー最終回の今回は、声優とアルバイトを両立しながら働いたカメラ屋さんでの話を詳しく伺います。カメラ屋さんで赤羽根さんがやってしまった失敗談とは…?
人見知りの性格もプラスに変えて
―カメラ屋さんでは楽しくアルバイトをされていた赤羽根さんですが、大変だったことはありますか?
写真のネガを切るのが、ずっとこわかったですね(笑)
ネガってお客さんが受け取るときには切れてると思うんですけど、あれって裁断してるんですよね。切るところを間違っちゃうと、2度と写真を見れなくなっちゃいますから、慎重にしなきゃいけないんですよ…。
ネガとネガの間って最初から2、3ミリしか空いてないんですけど、たまに隙間がないものがあるんです。フィルムをきちんと巻かないで撮ったりすると、ネガ同士が繋がっちゃうんですよね。「これどこを切ればいい!?」ってこともありました(笑)
あれって、裁断のカッターでざくっと押して切るんですけど、思いきり力を入れないと切れないんですよ。ためらいがあるとネガが隙間に持っていかれちゃって。持っていかれるとそのままくいっとネガが入って、その分ずれちゃうんですよね。
毎回こわいと思うから、思いきりできないんです(笑)
そのせいで2回くらい失敗しました…。
そのときは、すぐに上司に電話をして、指示を仰いで、お客さんに謝り倒して、粗品をお渡しして許していただいたんですけど…。
今振り返ると、思い出の一部分をガッツリ切っちゃってるのに、許していただけたのは、ほんとうにありがたかったなと思います。
―人見知りの赤羽根さんにとって、人に謝ることってハードルが高くありませんでした?
なんかよく謝ってたので、謝るのは得意だった気がします。得意じゃいけないんですけどね…(笑)
でも人見知りって、人の顔をうかがってるから起こると思うんです。
僕も人の顔をうかがって生きてきたんですよね。今でも、調和を乱さないようにしたり、空気感を読んだりしているところはあるんですけど。
そういった意味だと、空気を読み取る能力はあったんで、それが謝るってことにも活きていたかもしれませんね。
あと僕は、わりとネガティブな考え方をしちゃうんですよ。
良くない事態を想定しながら、マイナス思考で生きているんです。
なので、いつもどこかに「失敗した場合、どうすればいいんだろ」って考えてるのかもしれません。その分、ほんとうに失敗したときの対応も少し早いんじゃないかなと思います。
おもしろいもので、お芝居もネガティブな役のほうがラクなんですよね。
親近感があるというか、この役ならこう考えるなって思考を理解しやすいんです。僕にとっては、プラスよりもマイナス思考の人間のほうがわかりやすいんです…(笑)
声優との両立のためにも、長く働いて信頼を得る
―声優とアルバイトを両立していた赤羽根さんですが、カメラ屋さんのアルバイトでお休みはいただけましたか?
結構もらっていました。
「急にオーディションが入ったんで、別の人に変わってもらえますか?」って聞いても、「なんとかするから大丈夫」って言ってもらえていました。それもあって、カメラ屋さんのバイトは辞めないようにしていましたね。
やっぱり、声優をやっているとバイトをクビなっちゃう人も多いんですよ。でも、クビになってから他のバイトを探すのってしんどいんですよね。
人見知りなので、いろんなところの面接に行きたくないですからね(笑)
面接ってこわいじゃないですか?なに聞かれるんだろうって思っちゃうんですよ。だから一つのところで長く働いて、なるべく信頼を得て、声優の仕事が急に入ったときにはシフトを融通してもらおうって思っていたんです。
でも、事務所に入って声優の仕事が増えても、なかなかバイトは辞められなかったです。上司に「こっちも何かあった時頼りたいし、籍残していいよ」って言ってもらえた、ということもありますが、いつ声優の仕事がなくなるかわからないですし、こわくって籍を抜けなかったんです。
当時はもし声優がダメだったら、カメラ屋さんで社員になろうと思ってたんです。
自分を追い込むためにバイトを辞めた
―それでも、バイトを辞めようと思ったキッカケはなんだったんですか?
自分を追い込もうと思ったんです。
まだ全然、食べてはいけなかった頃ですが、ある作品で主役を演じることになったんです。そのとき、ベテランの役者さんに「主役をとったってことはわかってるよな?お前はもう逃げられないからな。戦わなくちゃいけない人間になったって自覚しろ」って言われたんです。
その話を聞いて、僕なりにどうしたらいいんだろうって考えた結果、バイトを辞めようって思ったんです。声優で稼がなくちゃお金が作れないって状況に自分を追い込んで、覚悟を決めないといけないんだって思いました。
当時はまだ実家にいたんですが、その翌年ぐらいに家も出たんです。
芝居に没頭するためには地盤を作らないとダメなんだろうな、頑張らないといけない時期に入ったんだろうなって、バイトを辞めて実家を出て退路を断ちました。
もう帰れないようにしよう。声優でしか生きていけないようにするんだ。って、腹をくくりました。
―アルバイトを経験したことで、今の声優生活に活きていることってありますか?
昔の僕は誰にも出会わないで、閉鎖的な空間で生きてきたいって思っていたんです。その当時は出会いって言葉も使いませんでしたし(笑)
でも、振り返ってみると、いろんな人に会っていろんなことを話せるってとても大事なことだったと思うんですよね。いろんなアルバイトを体験しておくと、世の中にはいい人も悪い人も含めてこんな人がいるんだっていうのもわかります。
どうしても、この仕事って技術だけじゃなくて、人とのつながりが重要なんですよ。プロデューサー、監督、スタッフ含めいろんな人と話さないといけないんです。なので、役者という仕事をしている以上、アルバイトでたくさんの人に出会えた経験は今にも活かされてるんじゃないかなと思います。
人見知りだった僕が、いろんな方とコミュニケーションをとれているのもアルバイトのおかげですね。
―最後に、今これを読んでいる10代、20代の読者の方に一言メッセージをお願いします。
僕は人と関わることから逃げたつもりでカメラ屋さんに入ったんですけど、結局、カメラ屋さんに入ろうが、どこに入ろうがアルバイトをするってことは人と関わらざるを得ないんですよ。
人と関わると、絶対に人に謝るようなこともあると思うし、その反面絶対にうれしいこともあるんです。アルバイトって、いろんないい経験ができるんですよね。
なので、もっとたくさんアルバイトをしていろんな人に出会っておけばって後悔してるんです。せっかくならバイトのできる時期にいろんなバイトをしたほうが得だなって思います。なので、いろんなバイトをして、いろんな人に出会ってもらいたいですね。
赤羽根健治 Akabane Kenji
千葉県出身。主な出演作は『真マジンガー 衝撃!Z編 on television』(兜甲児役)、アニメ『THE IDOLM@STER』(プロデューサー役)など。最新作にアニメ『時間の支配者』(ブレイズ役)、アニメ『正解するカド』(浅野修平役)、『イケメン戦国』(猿飛佐助役)がある。