声優インタビュー:野島健児【先輩のオフレコ!】3
プロとして社会で活躍する「先輩」たちの成長の秘密に迫る『先輩のオフレコ!』。声優・野島健児さんのインタビュー最終回の今回は、憧れのアルバイトや声優として大事にしていることについてお話してもらいます。野島さんのやってみたいアルバイトとは…?
おいしいパンを食べたら、みんないい人になるんじゃないかな(笑)
―大分で自給自足の幼少時代を過ごした野島さんですが、アルバイトをしたいと思ったことはありますか?
結構ありました。
新人の多くは、声優をやりながらアルバイトをするものなんです。でも僕は、すごくラッキーなことにアルバイトを経験せず、今の仕事でご飯を食べていけてます。僕世代でもアルバイトをしてる人はいっぱいいるので、ほんとうにありがたいです。
でもその分、いろんな職種に触れる機会がなかったですね。
なにしろ田舎にいたので、いろんなことを知りたいし、やってみたいって思いはすごくあるんですよ。子どもの頃は、メイクさんや竹細工職人、家具を直す職人、物書き、漫画家っていろんなクリエイティブな職業に憧れを抱きましたしね。
今もですが、モノを作るのが好きで彫り物してみたりだとか、アクセサリー作ってみたりとか、時間さえあれば絵を描いたりしていますし、そういった仕事もいいなと思います。
趣味の範囲でいろいろやりながら、こういう仕事したらどういう気持ちなんだろうって想像して過ごしていた分、アルバイトをやっとけばよかったなって思いはあります。今となってはやりたくてもできないので…。
―やってみたいバイトとしてパン屋さんを希望された野島さんですが、パン屋さんはお好きなんですか?
もちろん、小さい頃から好きでした。
まだ東京にいた頃は、お金握りしめて6枚切り2斤の食パンを買いに行ったりしていました(笑)
その場でカットしてくれた食パンと、「余ったパンもどうぞ」っておまけのパンをくれるんですよ。僕が通ってたパン屋は、食パン1斤に、菓子パンをだいたい3、4個を付けてくれたんです。普通なら絶対赤字ですよね(笑)
その頃は、週に1回ほどおつかいに行っていたんですけど、やっぱりパン屋さんの香りだったり、おまけの菓子パンをもらえる楽しみだったりは、今でも覚えていますね。バカみたいですけど、きっとおいしいパンを食べたら、みんないい人になるんじゃないかなって思っています。ファンタジーですね(笑)
ただ、今日みたいにプロのお仕事の現場で貴重な体験させてもらうと、これまでファンタジーなイメージだったパン屋が一歩進んですごくリアルになりました。
知識にもなりましたし、これから家でパンを作る時の意識も変わりますよね。家でも、今までとは違うパンの焼き方ができると、これからの生活の豊かさにもつながると思うんです。
―もしパン屋さんになれるとしたら、どんなパン屋さんになりたいですか?
やっぱり、食べ物って究極の愛情表現だと思うんですね。
食べるものって栄養として吸収されて、直接その人の体になるって考えると、食べ物を作ることは、直接その人の体を作るのと同じなので、どうやったらその人の体に合うものができるだろうってすごく考えなければいけないと思うんです。
ほんとファンタジーな話ですけど、自分が食べ物を食べる時も「今僕の体が欲しているものはなんだろう?」って考えるんですよ。
今、僕の口はラーメンを食べたがっているけど、細胞はサラダを食べたいって言っている。だとしたら、僕はサラダを食べる。みたいな、自分の体と対話をして食べる物を決めてるんですね。
なので、そういった意味でお客さんの体にいいものは何だろうって考えながらパン屋さんで働きたいなって思います。
いつもの必ずある安定のアンパン、食パン、カレーパンの中で、“今日の体にいいパン”、“今日の気候に合ったパン”みたいなのを作って売ってみたいですね。
特に僕は子どもの頃からモノを作るのが大好きですからね。
ちょっと奇抜なパンも作ってみたいです。おいしいかわからないですけど子供が喜びそうなニンテンドースイッチパンとかいいですね(笑)
誰もが一度は働きたいと思うであろう不動の人気のパン屋さんには、やっぱり憧れます。
声優として第二の生き方が生まれた瞬間
―野島さんが働くうえで重要だと思っていることはありますか?
仕事を楽しむことですね。
声優になったばかりの頃は、とにかくもらった役を全うしようって必死になって仕事をし続けていたんです。
でもあるとき、同じ事務所の先輩、龍田直樹さんに「野島くんの技量やカラーは十分わかったから、これからは仕事を楽しみな」ってアドバイスをいただいたんです。
それまでも、まったく楽しんでなかったわけではないのですが、どんなに辛くてもこの仕事を終えた後はステップアップした自分と出会えるっていう、人間としての成長のみを楽しみにしていたんですね。純粋に仕事を楽しむ、演技を楽しむって発想はなかったので、とても貴重なお言葉をいただきました。
二世声優ってことがあって、きっとどこかで父の顔を汚してはいけないって思っていたんでしょうね。どんなに辛いことがあってもここでへこたれたら、親父が悲しむだろうなって、ずっと頑張って仕事をし続けてたんです。でも、瀧田さんに言われてはじめて「あっ、楽しむって方法があるんだ!」ってことを知りました。
それからはどうやったら楽しめるかなって、楽しさを基準にモノを考えれるようになったんです。それが、僕の中で声優として第二の生き方が産まれた瞬間でした。
人とのつながりが夢を後押ししてくれる
―最後に、今これを読んでいる10代、20代の読者の方に一言メッセージをお願いします。
僕は人間が大好きで人と関わるのも好きなんですけど、やっぱり苦手意識がある人もたくさんいると思うんですよね。でも、自分なりのコミュニケーションをとってお仕事をしていくと、そのコミュニケーションが自分自身の豊かさにつながっていくんです。
今僕は声優という仕事をやっていて、人と人とのつながりってすごい財産だなって思うんです。自分の叶えたい夢を手助けしてくれる人にもつながることもありますからね。
やっぱり自分の未来や夢のためにはコミュニケーションが必要なので、仕事をしながら、そういったコミュニケーション力をアルバイトで養っていくのが大事だなと思うんです。
なので、ぜひぜひ人とのコミュニケーションをこわがらずにお仕事を楽しんでもらえたらうれしいですね。
野島健児 Nojima Kenji
東京都出身。主な出演アニメ作品は『PSYCHO-PASS サイコパス』(宜野座伸元役)など。最近の出演作品に『干物妹!うまるちゃん』(土間タイヘイ役)、『クズの本懐』(鐘井鳴海役)などがある。2017年10月からは、『干物妹!うまるちゃんR』が放送予定。
撮影: 佐藤航嗣 ヘアメイク:佐茂朱美 取材:舟崎泉美
撮影地: Peche