千吊-chizuru-(ペンタゴン)インタビュー 『接客業のバイトを通して人見知りが克服できた』 【俺達の仕事論vol.26】
“ダークファンタジー”をコンセプトに、幅広い音楽性が魅力のペンタゴン。今回はヴォーカリスト・千吊-chizuru-さんに“人としても成長させてもらった”という焼肉屋でのバイト談や、接客業で気づいたことなどを聞きました。
初めてのバイトは3年弱働いた焼肉屋
――過去のバイト歴から聞かせてください。
全国チェーンの焼肉屋、カラオケ屋、携帯電話の下請け営業みたいなバイトをしました。一番長かったのは焼肉屋で、それが初めてのバイトだったんですけど3年近く働きましたね。
――初バイトはどうして飲食店を選んだんですか?
高校1年の時だったんですけど、「アルバイト=飲食店」っていうイメージだったんですよ。近所の店が募集していたことや、当時僕は人見知りだったので、接客業でそこを克服できればと思って応募しました。
――バイトをしようと思ったキッカケは何だったんですか?
中学生くらいだと、お金がなくてできないことが多いじゃないですか。なので、高校生になってバイトができる環境になってすぐにバイトを探したんです。遊ぶためにはお金がいるし、お金がほしいからバイトをするという。働き始めたら小中学生の時には持てなかったようなお金が入ってきて嬉しかったですね。
――そのお給料はどのように使いましたか?
今もそうなんですけど、僕は物欲があまりないんですよ。だから、友達と何か食べに行ったり、カラオケやボウリングに行ったりが多かったですね。
バイト仲間とは仲がよかったし、いまだに付き合いもあります!
――職場はどんな雰囲気でしたか?
僕が働いた焼肉屋は、学生の文化祭の打ち上げなどに使われることが多くて、お客さんともワイワイできるような雰囲気のお店だったんです。店のスタッフさんとも仲が良かったし、その時に知り合った皆さんとは今でもつき合いがあります。
――バイト初日のことは覚えていますか?
メニューの略称と正式名称が書かれた2枚の紙を渡されて、約1週間後に行われるテストで〇点以上をとらないと正式に採用されないみたいなことを通達された覚えがあります。かなり頑張って覚えたんですけど、1回目はダメだったんじゃないかな。2回目で合格できたような気がします。
――先輩や上司の方とのコミュニケーションはスムーズにとれてましたか?
その店は高校生のバイトがほぼいなくて、僕以外は大学生や社員さんだったから“こんなに仲良くなれるんだ”っていうぐらい皆さんが可愛がってくれました。新人が入ってきたら歓迎会もしてみたいな温かい職場だったので、なじむのに時間はかからなかったですね。その後もいくつかバイトをしたんですけど、最初の焼肉屋くらい働きやすい環境は稀だったんだということに後で気づきました。
――接客をする時に気をつけていたことはありましたか?
相手の目を見て話すこと。それと、今はちょっとマシになったんですけど、僕はしゃべるテンポがめっちゃ速いんですよ。いくら一方的に話しても伝わらないと意味がないわけで……。それに気づいてからは、お客さんに商品の説明をする時にも、ある程度の間(ま)をとるように意識するようになりました。
炭を燃やすタイミングには自信があります(笑)
――焼肉屋さんだからこそ習得した技術や知識みたいなものはありましたか?
店の中でもポジション分けみたいなものがあって、それぞれ担当があるんですよ。僕は炭場の担当だったんですけど、そこで学んだのは、めっちゃ忙しい時にどうやったら最短時間で一定量の炭を燃やせるかという知識(笑)。本来なら絶対に混まない時間帯にいきなり20人とか30人の予約が入ってきて「あと10分で何個分の炭を燃やさなきゃいけない!」とか、時間との勝負で。炭って積み方や風の通し方で燃え具合がまったく変わってくるから、今でもキャンプに行ったら、上手に火加減はできると思います!
――逆に苦手な作業はありましたか?
ドリンクを作るのが苦手でした。当時は高校生で、お酒のことがまったくわからないから、いきなり「レモンサワー」って言われても何と何を足せばレモンサワーができるのかもわからなくて。やっと慣れてきたと思ったら、一気にドリンク10杯とか20杯の注文が入ってパニックになったり(苦笑)。しかも、ドリンクのところでデザートも作らなきゃいけなくて、ギリギリまで頑張って、“もう無理!”っていう時は、お客さんに迷惑をかける前に、先輩に頼んで助けてもらっていました。
――バイト中の楽しみはありましたか?
バイト仲間もそうですけど、お客さんもフレンドリーな方が多くて、常連さんとの会話が楽しかったんです。忙しくてテンパってしまった時も、お客さんから「おい、力抜けよ」ってアドバイスされたり(笑)。本当に環境には感謝ですね。
――今だから明かせる失敗談があれば聞かせてください。
炭が入った器に蓋をはめて持っていくんですけど、その蓋がきちんと閉まってなかったらしくて、お客さんも大勢いる通路の真ん中で盛大に大きな音を立てて落としてしまったんです。“やってもうた!”って、本当に焦りましたね。ただ、誰にもケガがなかったのは救いでした。
“接客がうまい人”を演じるところから始めました
――焼肉屋さんでのバイトを長く続けたのは、やはり人間関係が大きく影響していますか?
そうですね。飲食店より時給が高いバイトもたくさんあると思うんです。最初はお金がほしくてバイトを始めたんですけど、後半は、店の人たちと会ったり、話したり、バイトの後にどこかへ遊びに行ったりする、その時間が楽しくて。もちろん、時給やシフトも大事だけど、僕の場合は一緒に働く人たちとの関係が一番でした。しんどくても「しんどい」って言い合える人がいる環境と、そうじゃないのとでは大きく違うと思います。
――最初に「人見知りを克服したくてバイトを始めた」と話していましたけど、会話の中から千吊さんの変化を感じますね。
これは焼肉屋の店長さんが最初に言ってくれたことなんですけど、「お前が人見知りだとしても、初めて会ったお客さんはお前がどんなヤツかも知らんし、人見知りってわかるはずもない。だったら、人見知りじゃない自分を演じるところから始めてみれば、相手とも違う人間関係ができていく。自分なりの『接客がうまい人、好かれる人』を思い描いてやっていくのが一番手っ取り早いんじゃないか」と。確かにそうだと思って、行動にうつしてからはいつの間にか人見知りじゃなくなっていました。
バイトは、それぞれ違ったバックボーンをもった人たちと話せる場所
――これからバイトをしてみようという人にアドバイスを送るとしたら?
バイトをすること自体が、自分自身の経験値を高めることにつながると思うんです。楽しいことも辛かったことも経験としては自分の中に残る。そこで1つ達成感を感じられれば、この先に、もしまたしんどい状況に直面したとしても、その場を超えていけると思う。アルバイトでお金を稼ぐ、そこで出会った人たちといろんな時間を共有していく。一つずつクリアすることが先につながると思うので、人生勉強も兼ねて、楽しみながら自分自身のためにチャレンジしてほしいです。
――では、改めて聞きます。アルバイトをしたことで千吊さんが得たものとは?
人見知りを克服してからは、自分自身も人と話すのが好きになりました。それに、ペンタゴンとしてステージにあがるときも、お客さんに対して投げかける言葉や、曲中での想いを“伝える”というのは、それまで学んできたコミュニケーションが役に立っていると思います。バイトは、それぞれ違ったバックボーンをもった人たちと話せる機会でもあると思うので、楽しみながら色々な経験をしてもらえたらと思います!
千吊-chizuru-(ちづる)
うさぎの人形“ペンタゴン”が目覚めた時に、メンバー千吊-chizuru-(Vo)、ゆとり(Gt)、拓(Gt)、眠花-minpha-(Ba)、篤輝(Dr)が集まっていたところから2015年1月バンドがスタート。“ダークファンタジー”をコンセプトに、多彩なビジュアルと音楽性で作品ごとに様々な表情を見せる。2月7日にシングル「反抗声明」をリリース。現在4月まで続く、3周年記念ワンマンツアーを実施中。
♦ペンタゴン OFFICIAL SITE:http://pentagon-official.com/
♦千吊-chizuru- OFFICIAL Twitter:@pentagon_chizur
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:荒垣信子 撮影:河井彩美