優(BugLug)インタビュー『よもぎ(愛犬)がいて生活が正されたことで、アーティストとしての自分とも向き合えた』〜俺達の出発点vol.4〜
今年結成10周年を迎えるBugLugのリーダーであり、作曲も手がけるギターの優さん。彼を支えたのが、バンド結成から約1年後に飼いはじめたという愛犬・フレンチブルドックの“よもぎちゃん”。支えであり、人としてやアーティストとして成長するうえでも必要な存在だったという、よもぎちゃんとの軌跡についてインタビュー!
選ぶことに違和感があった――犬を飼う時は最初に出会った子にすると決めてた
——アーティスト活動をするうえで、優さんを“支えてくれた存在”を紹介してください!
9歳のフレンチブルドックの“よもぎ”です。今年バンド(BugLug)が10周年なんですけど、結成して約1 年目に飼っているので、BugLugの優を語るうえでは欠かせない存在ですね。
——よもぎちゃんとの出会いは?
実家で犬を飼っていたし、昔からペットは身近な存在だったので上京してからも飼いたかったんですけど最初は難しくて。ハムスターとかは飼っていましたが、犬までは余裕がなかったんです。でも、BugLugを始めて1年経って“そろそろ飼ってもいいかな”と思いはじめた頃に、ちょうど3.11の東日本大震災が起きて……。
——そこにキッカケがあったんですね。
はい。世の中全体の空気が沈んだような状態のなかで、自分の気持ちも滅入りがちだったので犬を飼うことに決めました。のちのち“ツアー中はどうしよう?”とか問題は出てくるんですけど、その時はもう一直線でしたね(笑)。それと同時に、この時期に飼うことで震災の記憶が自分の中で薄れてしまわないようにという気持ちもありました。
——よもぎちゃん以外にも候補となる犬はいたんでしょうか?
一択でした。一択というより“犬を飼おう”と決めて、最初に見つけた子がよもぎなんです。どの動物も生まれてくる子どもを選べないのと一緒で、犬をルックスで選ぶのは根本が違う気がしていて……。犬種は選びましたけど、ネットで『3月生まれ フレンチブルドック』で探して最初に見つけた子を迎えようと決めていました。
一聖が大ケガを負った時に、よもぎが自分を日常に戻してくれた
——よもぎちゃんが支えになってくれた大きなエピソードがあれば教えて下さい。
2016年にヴォーカルの一聖が事故で大ケガを負った時ですね。連絡を受けて病院に行くと、一聖は意識もはっきりしない状態で……。かなり動揺もしたけれど、日常に戻らないといけない瞬間ってあるじゃないですか? 家に帰ると“あっ、よもぎの散歩行かなきゃ”とか。
——確かに、よもぎちゃんにも生活がありますからね。
こっちにどんな事情があっても、よもぎには関係ないわけですよ(笑)。散歩は必要だし、腹は減るだろうし。そうやって日常と同じように散歩に行ったことで、大変な時も“普通の生活をしなきゃいけないな”と思えたことが大きかったんです。もし、あの時によもぎがいなかったらパニックを起こしていただろうし、何も考えられない状態がしばらく続いたと思うと怖くなりますね。
——それだけ冷静になれたと。
そうですね。もちろん一聖のことは心配でしたが、ネガティブでいても事態は解決しない。辛い時こそしっかりしないといけないんだなと。その後も、あえてプロ野球の試合を観戦したり、“楽しんじゃいけない”という負の要素に縛られないようにしたことで気持ちを強く持てました。そのおかげで、一聖が戻ってくるまでと、それからのことも冷静に判断していけていた気がします。
自然体で生きているよもぎを見ているだけで心がフラットになる
——ちなみに、家では普段から話しかけていますか?
そこまでベッタリではないけど、話しかけますね。
——グチや悩みを聞いてもらったり?
それはないですけど、考え事とかをしている時に「お前はいいよねぇ」って話かけたりするくらい(笑)。だから依存はしていないかな。よく“宇宙規模で考えると悩みが小さなことに感じる”と言うけれど、そんな感じ。自然体で一生懸命に生きているよもぎを見ていると少し楽になれたり、フラットな状態になれます。
——生きているだけで愛おしいというか。
そうですね(笑)。1つ弊害があるなら、よもぎは俺がギターを弾くのが超嫌いで、止めるまで吠えてくること。たぶん俺の考察では、右手を上下させる動きが暴力的に見えて嫌なのかなと。よもぎはワンワン吠え、俺はそれに負けずにギターを弾く。お互いに耐えながら練習をしています(笑)。
——作曲において、よもぎちゃんがキッカケになることはありますか?
2016年にリリースした「ブレーメン」(シングル「V.S」通常盤に収録)という曲は、よもぎの散歩中にイントロを思いついて生まれた曲です。夏の暑い時期は涼しくなった夕方ごろに散歩に行くんですけど、すごく夕陽がキレイだったんです。そもそも、よもぎがいないと散歩なんてしないですからね。散歩どころか、基本的には移動はタクシーが大好きで、外を歩いていなかったので(笑)。よもぎのおかげでゆっくり景色が見られたり、運動にもなっています。
生き物の命に触れて考えた自分なりの「一匹の命ルール」
——生き物を飼うという点で、気付きや学びはありましたか?
命については考えるようになりました。本当に個人的な決め事ですけど、ご飯を食べる時には「一匹の命ルール」を作ったり。
——どんなルールなんですか?
どうしてもご飯を残してしまう場合ってあるじゃないですか。でも、しらすや小さいエビとかだと、丸ごと1匹の命だから、それはどんなに小さくても残さないようにしています。
——強要ではなく、自分の中のルールなんですね。さきほどの散歩もそうですが、動物がそばにいることで、生活も規則正しくなりそうですね。
そうですね。生活はめちゃめちゃしっかりしました。朝まで飲みにいかなくなったし、昼過ぎに起きることもなくなりました。退廃的なイメージのある“バンドマンとしてはどうなんだろう?”とは思いますけど(笑)。でも、普通に考えて生活がすさんでいると、気持ちもささくれやすいですからね。ちなみに、うちの一樹(BugLugのギター)はもともとしっかりした生活を好むタイプなんですけど……。
——ある意味、優さん+よもぎちゃん=一樹さんみたいな(笑)?
あははは、そうですね。あいつ(一樹)は一人できちんとした生活を成し遂げたけど、俺はよもぎがいてくれることで成立するっていう。
バンドは楽しいだけじゃ出来ない。生活を正すことで、アーティストとしても良い表現者でいられる
——もし、犬を飼っていなかったらどんな優さんだったと思いますか?
もう想像が出来ない。誤解を恐れずに言うとバンドを続けていないかもしれない。バンドって自由気ままにやっているだけじゃダメな瞬間って絶対にあるんですよ。人として最低限のことを守ったり、大きな決断をするとか、なにかしら自分を律して進んでいかないといけない時がある。でも、よもぎがいなかったら、俺は現状に流されたり、楽なほうに逃げたりして、それが出来ないままだったと思いますね。
——現状に流されるというと?
たとえば朝まで飲んでリハに行かないとか。やっぱり楽しいですからね、夜遊びは。もちろん破天荒なカッコ良さもあるけれど、その内側には、アーティストとして表現したい本質的な軸を持っていないとダメだということに気が付きました。正しい生活をすることで、アーティストとして何を大事にしたいのかっていう事を考えられるようになったり、周囲を冷静に見られるようになったことが大きいんです。もし、よもぎがいなかったら、そんなことを“考えること”さえしていなかったと思うし、もっと怠惰な人間になっていたかも(笑)。人として・アーティストとしての成長がなければ、当然バンドも続けていけなかったと思います。
——では最後に、改めてよもぎちゃんはどんな存在ですか? 読者へのメッセージと合わせてお願いします!
BugLug優と、素の自分のつなぎ目みたいな感じですね。基本的には、BugLugの優っていう人格でいたいんですけど、家に帰ってよもぎがいることで、ちょっと力が抜ける感じというか。読んでくれている人の中には、家に帰っても仕事や勉強に追われていたり、気持ちが張り詰めたままの人もいると思うんです。でも力を抜いてフラットになることで気付くこともあると思うので、ゲームでもいいし、音楽を聴くことでもいい。素に戻れる自分なりのオンオフを見つけてみてください!
優(BugLug)
2010年に始動したBugLug(バグラグ)のギタリスト。個性豊かなメンバーをまとめながら、持ち前の分析力を発揮し、バンドが進むべき方向性の舵を取るBugLugのリーダー。2016年5月に、ヴォーカルの一聖が不慮の事故によりステージ復帰をも危ぶまれる重傷を負いバンドを一時離脱するも、2017年5月日本武道館ワンマンライブ「5+君=∞」で完全復活を遂げた。始動10周年イヤーとなる今年は、1月に「絶交」、2月に「ストレス発散・人間解放GIG」と題した2本の主催イベントを行なったほか、現在は、始動10周年ツアー『Que Sera Sera』を開催中。
◆BugLug Official Site: http://buglug.jp
◆優 Official Twitter: @you_stg
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河井彩美 取材・文:原千夏