Room3: 佐伯大地×荒木宏文 インタビュー1/6 【僕らの休憩室】
俺がデビューするためのオーディションでしょ?みたいに思ってた
−この世界に入ったキッカケを教えていただけますか?
僕、映画館が好きで、ちっちゃい頃よくおばあちゃんと映画館に行っていたんです。だから初めは映画館で働きたいなって思っていたのですが、物心がついてくると、映画館で働くというよりもスクリーンの中で活躍している人をかっこいいなと思い始めたんです。中学生、高校生ぐらいからはもう俳優さんになりたいって騒ぎ出していました。
とにかく映画に出たいって思っていたんです。大学に入って、監督志望の先輩には「映画に出たいんだったら、もう事務所に入んなきゃダメだよ」って言われたので劇団を探していたのですが、ちょうどその時期に大学の広報の綺麗なお姉さんにミスコンに出ないかって話しかけられたんです。
僕、高校は男子校だったんですが、大学には同じ高校出身の友達がいっぱいいてミスコンに出ると知られたら恥ずかしいし、最初は断ってたんです。
でも、広報の人から「ホリプロが見にくるよ」って言われて。当時はまだ、どんな事務所があるのかあまり知らなかったんですけど、でもホリプロは有名じゃないですか。「え、ホリプロが来る。すごいね!じゃあ出る」って、二つ返事で出ることにしたんです(笑)。
それで結果ミスコンでは準グランプリをいただいて、それがきっかけでホリプロ系列のオーディションを受けることができて、今の事務所にも入れました。だから僕にとっては棚ぼたですよね。
ただ、そのホリプロのオーディションでは「絶対俺グランプリだ」て思い込んでいて。「いやもう絶対、俺しかいないでしょ?俺がデビューするためのオーディションでしょ?」みたいに思っていたぐらい、そのときは本当に考えの甘い子供だったんです。
でも、結局なにも賞取れなくて。そのときは、こんなに自分って泣くんだ、っていうくらい泣いちゃって。
−そういう経験があったからこそ今があると?
めちゃくちゃ思いますね。負けててよかった。やっぱり、一回そういう苦渋を舐めるような経験をするっていうのは、人間にとって絶対強みになると思うんです。
それで、19歳から演技の仕事を始めて、モデルとして雑誌のお仕事などもいただいたりしていました。
いろんな人の考え方を、自分の中にどれだけ吸収できるかが勝負
−最近では高校ラグビーを題材にした舞台『ALL OUT!! THE STAGE』を終えられたばかりですが、演じてみて大変なところはありましたか?
スポーツを題材にした舞台をやるのは初めてだったんですけど、ラグビーって、広大なグラウンドで相当な距離を走るスポーツじゃないですか。
それを小さな舞台上で表現するっていうことと、あとはボールですよね。ボールを投げる、ボールをパスすることを、演技でどう表現するのかっていう、ボール問題。
僕はアメフトの経験があったんですけど、ラグビー経験者が一人もいない現場だったので、「ボールはこういうふうに持たないですよ」とか気づいたことは先輩後輩関係なく言うようにしてましたね。
タックルの問題もありました。タックルっていうのは、やっぱりすごい衝撃なんですよ。体験しないとわからないと思うんですけど、本当に失神するんです。高校生の試合でも失神する人がいるくらい。すごく危ないし、お互いにちゃんと練習をやっているからこそできることなんです。そんな生半可にできるような感じじゃないんですが、でもだからこそラグビーを題材にした舞台の醍醐味にもなるんですよね。
僕は特にタックルをすることが多い役だったので、相手にもすごく練習してもらって本気でタックルしてました。でもまぁ、その辺をどう表現するかは、やっぱり大変でしたね。
幸運にも『ALL OUT!!』の共演者のみんなは考え方がすごく柔軟で、そういう意見を取り入れてくれる方が多かったんです。僕もはっきり言えたし、はっきり言ってもらったので、そういうのはすごく良かったと思います。
周りを見ることの大切さっていうのも改めて実感しましたね。お芝居も、リアクションが大事なんですよね。相手からなにかをもらって、なにかをするから面白いわけで、結局は、自分一人だけでやっているような演技なんて面白くないって言うことだと思うんです。
−周りの方との関わりを大切に思われているんですね
僕はまだまだお芝居が下手なんですけど、だからこそいろんな人の意見を聞いて、いろんな人の考え方を柔軟に受け入れて、自分の中にどれだけ吸収できるかが勝負だと思っているので。どの作品に出ても学ぶことばかりですよね、もう本当に。
舞台をやっていると、お互いに人間だからクセが強かったり嫌だなって感じることってあると思うんです。でも、その時にそのクセとか嫌な部分ではなく、その人の良い部分だけを見られるかどうかが大事なのかなと思うんです。
その嫌な部分とか大変な部分ばかりを言ってしまう人もいると思うんですけど、僕はそういうことは言わないようにしたいと思っています。…言いたくなるときもあるんですけどね、もちろん。
これは、自分が成長していく上ですごく大事なんじゃないかなと思っていて。一緒に共演した人なら、その人のいいところを伝えるようにしてるんです。人に伝えることで自分の確認にもなるんですよね。
例えば、ちょっと違う話ですけど、人になにか物事を教えようとする人って、すごく伸びるらしいんです。兄弟の場合、長男のほうが頭が良くなりやすいっていうのは、弟とか、下の子に物事を教えるから、学力が伸びるからってことらしくて。だからちゃんと人の良いところを伝えるとなんかね、いいのかなと思ってます。
日によって芝居を変えることが、楽しくなってきた
−アメフトの経験がおありとのことですが、ご自身への影響は大きかったですか?
そうですね。残ってますね。過酷でしたよ、やっぱり。
高校時代に、アメフト部に行きながらバイトもしていたんですよ。アメフトの防具って高くて一式で20万円くらいするので。あと、お金が欲しい時期だったっていう理由もありました。ファミレスのキッチン担当だったんですけど、朝4時半ぐらいに行って、野菜切って、スープ仕込んでから学校行ってましたね。
週2回の朝と、アメフトが休みの金曜日はバイトしてました。どっちかっていうと部活よりもバイトの方が楽しかったです(笑)。いや、アメフトも試合は楽しいですよ。練習はもう全然、地獄だったけど。
今の仕事でもやりがいを感じるのは、やっぱりお客さんを目の前にしたとき。いわゆる初日ですね。稽古場で毎日必死に作ってきたものを発表する日です。
それから最近楽しくなってきたと思うのは、特にその、お笑い要素の強いパートですね。笑いとか、その日によって違うことっていうのは、やっぱりお客さんが入らないとわからない。最近ようやく僕もできる…って言ったらいろんな人に「お前はできてねぇよ」って言われると思うけど…、日によってアドリブを変えるっていうこととかが、楽しくなってきたところです。
そう感じるようになったきっかけは、それこそ荒木さんと共演した『瞑(つむ)るおおかみ黒き鴨』という舞台で、もう僕以外の役の人はみんなかっこいいんですよ。演出は、殺陣の演出がすごくかっこいいなって思っていた西田大輔さんでしたし、いっぱい殺陣できるんだろうなって思っていたら、僕だけ全然殺陣も少なくて、ふざけなきゃいけない役柄で…。
しかも、一番大御所である元光GENJIの内海光司さんをイジる役柄だったんですよ。光GENJIさんの代表曲を、ひたすら芝居の中で挟んでいくっていう。千秋楽には光GENJIさんの曲、全部セリフに入れ込みましょうとなり…。だから、僕の芝居、最終的にもうセリフより曲名の方が多いみたいな(笑)。
それで、前日に曲名を全部覚えましたね。この舞台で、アドリブというか、その場その場での芝居っていうのをすごく経験させてもらいました。セリフ通りのことをやらないといけないことが多い中、若手でそういうことやらせてもらえることはなかなかないと思うので、ありがたかったですね。おかげですごく度胸がついたというか。こういうことをもっとやっていかなきゃダメなんだなって覚悟にもなりましたし、それが僕の強みになるとも思ってます。
−これからもそれは売りにしてこうと?
そうですね、売りにしていきたいと思ってます!
自分の経験もフルに活かしながらパワフルに、そして前向きにお芝居に向き合う佐伯さん。その姿勢は、泣いてしまったという最初のオーディションでの挫折があってこそ、生まれたのかもしれませんね。次回は、荒木さんにお話を伺います。役者だけではなく、ミュージシャンとしての顔も持つ荒木さんの仕事論。どうぞお楽しみに!
佐伯 大地 Daichi Saeki
映画やテレビドラマ、舞台など幅広いフィールドで活躍中。主な出演作は、ミュージカル『刀剣乱舞』、舞台『ALL OUT!! THE STAGE』、映画『少女椿』、テレビ『街活ABC』(NTV系毎週木曜21:54~放送)、SMART USEN“俳優日和”「佐伯大地のわりと元気の出るラジオ!」(毎週金曜正午更新)など。今後の出演作として7月16日より放送予定のテレビドラマ『愛してたって、秘密はある。』(NTV系)井上大吾役、10月7日より公開予定の映画『アヤメくんののんびり肉食日誌』鈴木仁英役などがある。
【佐伯大地OFFICIAL SITE】https://saeki-daichi.com
【公式twiiter】@AND_swgD
撮影:田形千紘 ヘアメイク:佐茂朱美 取材:恩田貴行、寺本涼馬