柩(NIGHTMARE、GREMLINS)インタビュー『一生懸命何かをやるのは「未来の自分が後悔しないようにするため」』【俺達の仕事論vol.4】
NIGHTMAREのギタリスト柩(ひつぎ)。NIGHTMARE活動休止中の現在は、2016年から活動中のソロプロジェクトGREMLINS(グレムリン)のヴォーカル&ギター・Hits(ヒッツ)として活動中。機材が欲しくて始めたというアルバイト。工場内作業が多かったという、現場でのエピソードを中心にお話を伺いました。
初めてのバイトでひとつの仕事に関わる人の多さを知った
ーー初めてアルバイトを体験した時期と、それがどんなお仕事だったかを教えてください。
16歳くらいのときに、ギターのエフェクター(音を加工する機材)が欲しくてやった、短期の工場内作業が最初かな。お歳暮の時期に、ビールのセットがいっぱい入っている段ボールからそれをひとつずつ取り出して、次の作業をやる人に受け渡していく、っていう流れ作業の仕事だったんだけど、日によってやることが違うんだよね。
たとえば流れてきた箱に、熨斗(のし)をつけてテープで止めるっていう作業をすることもあったよ。ひとつのお歳暮を送るのに、いろいろな段階があって、たくさんの人が関わっているものなんだ!って初めて知った(笑)。
ーーその仕事は、どうやって見つけたんですか?
友達に紹介してもらったの。朝8時から夕方6時くらいまでで、大体10日前後の短期でやったら10万円近くのお金をもらえたから、ずっと欲しかった定価78000円のエフェクター(BOSSのGT-5)は無事に買えました。
初めての“雇われる”感覚って、なんか不思議だったな。いきなり知らない人に、それまでやったことのないことをいろいろ指示されるわけじゃない? 最初は慣れないことも多かったけど、とにかく“目的”はハッキリしていたから、「エフェクターの為なんだし……!」って、なるべく言われたことは言われた通りにやるようにしていた記憶がある。
普段なら出会うことのない人たちと仲良くなれる楽しさ
ーーちなみに、お友だちの紹介とはいえ最初は面接などもあったわけですよね?
あったね、そういえば。当時から俺は口にもピアスをつけていたから、最初は「大丈夫なのかな?」って思ったけど、工場内作業で人目につく仕事ではなかったから、ピアスについては何も言われなかったし、わりとすんなり決まった感じだった気がする。
あとね、そのバイトでは2コ上か3つ上の男の人と友だちになったよ。お昼の休憩時間なんかは、ひとりでいるよりもそういう人といた方がやっぱり楽しかったな。
ーーそのほかのバイト経験というと?
今度はお中元の時期に、キャビネット(ギターアンプのスピーカーの部分)が欲しかったから、おんなじ工場での短期バイトを“経験者”としてやりました。これからバンドを始める後輩を誘ったんだけど、いろいろと勝手が分かっていた分、このときは前回よりもかなりすんなり出来たよね。
生クリームを混ぜる機械を見るだけの“謎”バイトも体験
ーーずっとそこでバイトを続けていたんですか?
いや、他にもありますよ。たとえば、とあるパン工場で働いたことがあります。そこも、いろんな部署があって行くたびにその日の仕事が違ってたの。勤務時間的には、夕方から翌朝までの長時間なんだけど、出勤すると受付で札を渡されて、自分がどこの部署に行くかが決まる感じ。
俺がやったのはね、まずバナナの皮むきでしょ。別の日には、生クリームを混ぜる機械をずって見てる仕事とかもあったよ(笑)
ーー見ているだけですか!?
なんかね、生クリームってずっと混ぜていると、機械の根元にどんどん固まりがくっついていっちゃうんですよ。それを監視しながら、頃合いをみて定期的に落とすっていうのがその部署の仕事だった。
ーー固まりを落とすのは力がいりそうですね?
いや、力を使うとかよりもグルグル回っているミキサーをずっと眺めていなきゃいけないから、途中でクルマ酔いみたいになっちゃう方が大変だった(笑)。
ーーなるほど(笑)。
ライン作業の失敗で一度めちゃめちゃ怒られた
それと、よくコンビニのレジ横とかで売っているお団子があるじゃない? あれを作っている部署にも行ったことがあって、ベルトコンベアで流れてくるお団子に、焼き目をつける機械があるんだけど、そこから出てくる時点でたまにお団子同士がくっついちゃうことがあるのね。それを見つけたら、ひとつずつ離してもう一度ベルトコンベアに等間隔で置き直す、っていうのもやったことがあった。
これがけっこう大変なのよ。テンポ良く等間隔にちゃんと並べ直しが出来ないと、次に流れてくるお団子にくっつくから、1回失敗すると連鎖で、たくさんのお団子がぐしゃっとダマになっちゃうんだよね(苦笑)。「何やってるんだ!」って一回めちゃくちゃ怒られたこともあるし。
ーー単純作業でありながら、責任重大ですね。
しかも、夕方から朝までだから休憩時間が入るとはいえ、13時間労働とかでしょ。13時間、ずーっとお団子のベルトコンベアを眺め続けているとか、バナナの皮をむき続けるとか、ほんとにすごく大変。
コンビニとかに商品を納入するときに使う、パレットだっけ? あれに商品を延々と仕分けしながら並べ続けるとか、コンビニで売っているショートケーキのパッケージにフタをかぶせていくっていう仕事もあったなぁ。
同じ作業を繰り返すことの面白さ、そしてその先に見えたもの
ーー長時間おなじ仕事をこなしている間、どんなことを考えていましたか?
たとえば、バナナの皮むきだったら最初のうちは「どうやったらより上手く出来るのかな?」っていうことを考えるわけ。手順としては、前段階の作業で1本ずつバラバラにされて、なおかつそれぞれには切れ目が入って流れてくるのね。それを、2本ずつ両手に持ってギュッってポイントを押さえると4本ボロボロって同時にまるごとむけるの。
ーーそれはすごい!
そのやり方を、どれだけ早くキレイに出来るかっていうことを最初は試行錯誤するし、ちょっと慣れてくるとだんだんゲームみたいで面白くなってきて、それを過ぎると……バナナを見てること自体に飽きちゃって、最後はとにかく仕事だから頑張ってやんなきゃ、っていう感じになってたなぁ(苦笑)。
アルバイトを続けたのはバンドという目標があったから
ーーパン工場でのアルバイトをしていて、良かったことは何でした?
日払いで、ひと晩につき13000円前後はもらえていたことと、その工場で作っているほぼ全種類のパンが無料で食べ放題だったこと(笑)。まず、俺が十代の時に、仙台でそれだけの額を日払いでサッともらえる仕事って、そうはなかったもん。ただ、パンの食べ放題に関しては最初「やべぇこれ!」って片っ端から食べまくっていたんだけど、毎日となるとさすがに「もういいかな」ってなってたのも事実(笑)。
ーーNIGHTMAREを始めてからも、アルバイトをしたことはあったのでしょうか?
それはなかった。そう考えると、自分にとってのアルバイトっていうのは、本格的にバンドを始めるための準備期間を使って、お金を貯めておくものだったのかもしれない。いろいろと「しんどいな」って思うことがあったとしても、その向こうには“バンドをやる”っていう目標かあったからこそ、乗り越えられたんだと思う。
ーーアルバイトの時代にやっていたことも、全て仕事だったでしょうし、NIGHTMAREやGREMLINSでの音楽活動も、仕事といえば仕事になるわけですよね。ずばり、柩くんにとっての“仕事”とは?
難しい質問だけど……バイトをしていたあの頃にしても、今やっていることしても、自分がその時に一生懸命になって何かをやるのは、「未来の自分が後悔しないようにするため」なんじゃないかな。俺はそんな気がします。
柩(GREMLINS・NIGHTMARE)
NIGHTMAREのギタリスト。現在は、2016年にドラムのKNZと共に立ち上げたソロプロジェクトGREMLINS(グレムリン)のHitsとして本格始動。GREMLINSでは、ヴォーカル&ギターを担当する。3月1日には4枚目のシングル『牙を立て君に幸あれ』をリリースしたばかり。7月から8月にかけての夏ツアーも決定している。
◆GREMLINS OFFICIAL SITE:http://hitsuuu.me/
◆柩Official Twitter:@hitsu_nightmare
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:杉江由紀 撮影:青木早霞
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。