海(vistlip)インタビュー『興味をもって物事に目を向けたらなんでも得られると思う』【俺達の仕事論vol.12】
ハードロックやポップスなどジャンルにとらわれない幅広い音楽性が魅力のvistlip(ヴィストリップ)。コーラスやラップ、衣装やジャケットの監修なども担当するギターの海(うみ)にインタビュー。様々なジャンルのアーティストとも交流のある彼の社交性や人柄、音楽のルーツまで感じられるバイト体験談をお届けします。
店でペンを借りてその場で履歴書を書いた初バイト
——初めてのバイトは、いつどんなお仕事でしたか?
高校に入ってすぐ地元のCDショップで働きました。もともと興味がないことに時間を費やすくらいなら、お金なんかいらないって思うタイプだから、興味のある中で何かないかなって思っていたら、たまたまたCDショップがあって。
バイト募集に“希望の方は電話してください”って書いてあったけど、当時はケータイ電話を持っていなかったから、直接行って“何が必要ですか?”って聞いて。店の前のコンビニで履歴書を買って、ペンは店で借りてその場で渡したら採用になりました(笑)。
——どんな内容でしたか?
そんなに大きなお店ではなかったから基本はレジでした。その週に発売するCDがお店に届くのが火曜日だったから、(発売が開始する翌日の)水曜日の夕方が一番混むというのもあって、水曜と土曜の2日間働いていました。
——初めての社会経験になるわけですけど、学校生活との違いを感じたりは?
特にはなくて部活みたいだなって。当時はUSENにヴィジュアル系のチャンネルがあったから、お店にいる間はそれをかけたり、手がすけば本を読んでいても良かったし、音楽をやっている同僚と延々と音楽の話をしていたりとか。引越のバイトも少ししたけど……それも部活みたいだった(笑)。当時は、地元のバスケチームに入っていたけど、その時のトレーニングに比べたら楽だなって。
——逆に仕事だからこそ守られる部分みたいな(笑)。ちなみに高校生の頃からバンドは始めていたんですか?
いや、中学の時にギターをやろうとして挫折しました。高校の頃は本格的なバンドはやっていなくて、文化祭にバンドで出る程度。今思えば、その頃から諦めずにギターの練習をしておけば良かったなって本当に思うんだけど(苦笑)。その文化祭バンドはヴォーカルだったから、楽器のお金もいらなくて、当時はCDと服と靴がほしくてバイトしていました。
CDショップで働いたことで、好きな音楽のジャンルが広がった
——ヴィジュアル系の音楽に目覚めたのはいつ頃ですか?
ジャンル自体は小学校の頃から好きで、CDショップで働いていた頃は、むしろ好きな音楽のジャンルの幅が広がった時期。CDショップだから、新譜情報が入ってきたり、視聴用のサンプルが送られてくるから、知らないアーティストも含めて、店に来たCDは全部聴いていました。聴いているうちに、これも好きだなとか発見もたくさんあったし。
あとは、CDの発注もしてたな。オーナーが“若い子の好きなものは分からないから、人気のあるアーティストをチェックしておいて”って任せてくれて、人気のアーティスト以外にも、タイアップ情報とかCM曲になっているとか、そういうのも意識しながら発注していました。
それがあるから、今vistlipをやっていても、ほかのバンドより店側のシステムが分かるんですよね。たとえば、CDを置いてくれていない店だったら挨拶にいこうとか。CDの入荷枚数とかは気になりますね(笑)。
店長代理だった焼肉屋で学んだ人間関係の大切さ
——戦略としても効果的ですね。ちなみに、一番長く続いたバイトは、そのCDショップですか?
友達に誘われて始めた焼肉屋ですね。高校の卒業式にバイクで行きたかったから、単車を買うためのお金がほしくて始めました。高校3年から、3〜4年はやってたかな。しかもバイト歴が一番長いっていう理由で、店長代理もやっていました。
そこで学んだのは人間関係。当時は19才くらいだったけど、店長代理だったから、年下の面倒もみないといけなかったし、年上の人に気を使いつつ指導したり……。でも昔は、気持ちが非常に子供だったので、気に入らない大人とか年上の人がいると、攻撃的な態度をとっていたような気がします(苦笑)。
基本は変わってないけど今だったら、もうちょっと上手く言葉を選んで言えると思うんですけどね(笑)。
——代理とはいえ、店長という気負いはありませんでしたか?
仕入れとかもしていたけど、特別な気負いはなかった。一緒に働いていた人たちも仲が良かったし、好きなようにやればいいと思っていたから楽しかったですね(笑)。世代が近い人が多かったけど、でも高校生から50歳くらいのおじさんまでいて……。福島さんっていうおじさんとはめっちゃ仲が良くて、未だに連絡とれるからね(笑)。
バイトは嫌な仕事をいかに楽しくできるかが大事だと思ってた
——仲間の存在が大きかったんですね。
バイトって仕事なわけだから、やりたくないこととか、面倒くさい作業っていくらでもあるでしょ? たとえば焼肉屋だったら、食べ物を扱うから生ゴミを捨てるところなんて、けっこう臭いがするんだよね。そこの掃除ってみんなやりたがらないんだけど、それをいかに楽しくできるかだと思っていました。
でも、バイト先の仲間たちとは一緒に仕事しているだけで楽しかった。一生懸命、掃除はするんだけど、キレイになってくるとおもむろに誰かが後ろから人をこづいたりとか、本当にくだらないことばっかりしていました。
仕事に支障がでるようなことはしなかったけど、そういう人間関係はある意味、今のウチのバンド(vistlip)と変わらないかもしれない(笑)。
——ON/OFFのメリハリがしっかりしているんでしょうね。
そういえば、焼肉屋の頃は髪が長かったから髪を結んで、三角巾を深く被っていたんだけど、ある日、一番仲良かった人が、更衣室から俺と同じ被り方をして出てきたことがあって、変だなとは思っていたんだけど、バイトが落ち着いてきて、ソイツが三角巾をずらしたら眉毛がなくて驚くっていう(笑)。“どうしたの? さっきまで眉毛あったよね?”って聞いたら、“面白いかなと思って剃ったけど、いま後悔してる!”って(笑)。
俺、もともと眉毛が薄いから真似したらしいんだよね。もう“バカじゃないの!?”って。俺とソイツともう一人で“3バカ”って言われてて。地元のやつとはほとんど連絡が取れなくなっているけど、そこのバイト仲間とはまだ繋がっていますね。
工事現場では先輩に可愛がってもらった
——まさに青春という言葉が当てはまりますね(笑)。本格的にバンドを始めるようになってからは、どんなバイトをしていましたか?
高校を出て焼肉屋を辞めたあとは、コンビニと工事現場と清掃。長かったのは前のバンドの時にやっていたコンビニですね。
バンドをやりながら、美術の専門学校にも行っていたから、飯にお金をかけていられなかった。でもコンビニは当時、廃棄の食べ物をもらえたらからすごく助かりました。夜中の2時をすぎて検品とか棚だしの仕事が全部終わると、住宅街だったから、ほとんどお客さんが来なくて。その間は、店内を気にしつつバックヤードで美術の課題をやったり、ライヴ前は、お客さんがいない間だけレジでギターを弾いたりしていました。
あとは工事現場で1年くらいかな。その頃はもうvistlipとして活動していたけど、始めた当初は機材も揃っていなかったから、とにかくお金が欲しかった。知り合いに紹介してもらって、山手通りを作っていました(笑)。
——ハードそうですね。
それがめっちゃ優遇されていたんですよ。基本40代の人がメインで、30代の人が若造って呼ばれている現場だったんですけど、その中で、俺だけ20代前半だったから大人たちからすると、俺なんて子供なわけ(笑)。
“うちきついぞ、なんで金ほしいんだ!”って言われてバンドのことを話したら、その人たちがすごく気に入ってくれて。ライヴ終わりにギターを背負って行くと“お前今日ライヴったのか? 疲れてんだろ、飯食いにいくか”って。すっごく良くしてもらっていました。
しかも、1回ライヴを観に来てくれたこともあって。それも普通にチケットを買ってきてくれて、俺は後日それを知るっていう。
——なんだか胸が熱くなりますね。海さんにとってのバイトは、人との出会いが大きそうですね。では、改めてバイトで得たものはなんでしょうか?
人間関係と、責任の取り方と、世の中の物事の仕組み。どこでお金が派生して自分のバイト代になっているのかとか、店の仕組みとか。見ようと思えばなんでも見えるから。
全部を知る必要はないけど、なにかしらに興味をもっていれば、なんでも得られると思うんです。ただ重苦しく考えないで、先ずはやってみたらいいんじゃないかな。
海(vistlip)
2007年に、智(Vo)、Yuh(Gt)、海(Gt)、瑠伊(Ba)、Tohya(Dr)の5人で結成したvistlip(ヴィストリップ)のギター。メンバーチェンジをすることなく、今年10周年をむかえ、7月7日の結成日には、毎年恒例となる会場(Zepp Tokyo)でライヴを行なった。Vo智が作詞をおこない、以外のメンバー全員が作曲をおこなう。海はギターほか、コーラスや衣装&ジャケットの監修なども担当している。
◆vistlip OFFICIAL SITE:http://www.vistlip.com/
◆海 Official Twitter:@umitwt
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:原千夏 撮影:河井彩美