よしあつ(DADAROMA)インタビュー『バイトは向き不向きを知れる場所。やりたいことに向き合った結果が“働く”ことに繋がればいい』【俺達の仕事論vol.23】
メタルテイストの激しく重い楽曲と、キャッチーなサビが印象的なDADAROMA(ダダロマ)。ヴォーカルのよしあつに学生時代のバイト経験などを聞きました。感性を根こそぎ揺さぶられたという上京後の夜のバイトなど、現在の歌詞のルーツにも触れるインタビューをお届けします。
コンビニのお菓子コーナーは自分の家だと思って居た
——これまでのバイト経験を教えてください。
普通ですよ。地元で学生時代にやっていたのはコンビニやスーパー、工場などですね。
——初めてのバイトはコンビニですか?
はい。高校1年生の時に、当時の彼女に誕生日プレゼントを買いたくて、誕生日の3ヵ月前からバイトを始めました。その後も続けたんですけど、1年弱くらいですね。バイト自体は、お金が貰えればなんでもよかったので、実家の近くでバイトを募集していたコンビニにしました。
——コンビニのバイトはどんな業務でしたか?
レジとか商品の陳列とかだったんですけど、お菓子コーナーが好きでしたね(笑)。
——好きというのは?(笑)
几帳面なところがあるので、勝手にこだわってキレイに並べていたんです。しかも、田舎は都会と違ってそんなにお客さんの回転が早いわけじゃないので、1つ商品がなくなるたびに、お客さんがいなくなったらすぐにそこに飛んで行って補充してベストの状態を保つっていう(笑)。スペースが空いているのが、もう気になっちゃって……。家でも、リモコンの位置とかが決まっていてズレると嫌なんです。お菓子コーナーに関しては、もう自分の家かのようなテリトリー意識でしたね(笑)。
——こだわったのはお菓子コーナーだけですか?
そうですね。でも、雑誌コーナーも“こっちのほうがキレイに見えるじゃないかな?”とか、レイアウトには凝っていました、勝手に(笑)。なんでもそうなんですけど“こっちのほうがいい”っていうのを勝手にやっちゃうタイプなのかも。
——その当時から、クリエイティブ精神があったと。
そう言ってもらえるとカッコよく聞こえますけどね(笑)。
同じことを繰り返す仕事は向いてないと思った
——逆に、苦手なことはありましたか?
飽き性なので、作業の内容というよりは、同じことを繰り返すことが苦手で“ルーティンワークに向いてないな”っていうのをその時から感じ始めるんです。
——当時、バンドはやっていたんですか?
両親も音楽をやっていたので、おのずと興味はもっていました。もう高校生でバンドはやっていたんですけど、その時はまだ将来音楽の仕事をしようとは思っていなかったですね。後に、友達に誘われて時給がよかった工場で働きました。作業着を着て朝早くから夕方までずーっと流れ作業で、その時にはっきりと“あっ、ルーティンワークは向かない”って気づくんです。
——コンビニで、ふわっと感じていたことが確定したと。
はい。僕は思考が0か100しかないので、“同じことを繰り返すのが無理=僕は働くことに向かない”って思ってしまったんです(笑)。大げさにいうと、もうノイローゼみたいになっちゃって“僕はなんで生きてるんだろう、何をしてるんだろう”って。時間ってすごく大事だし“僕がやりたいのはこれじゃない!”って一丁前に思っちゃって。
——そこで“働く”ということを意識するんですね。
はい。だから僕は、働くということに対しての概念がちょっとズレているのかもしれないです。したいことを真剣に続けた結果が働いていることにつながればいいなと思うし、それが僕にとってはバンドでした。もちろん、それって誰もが望むことだし、簡単なことではないと思うんですけど、そうじゃないと僕は特にダメみたいで。だから、僕は今も“仕事をしている”っていう感覚で音楽やバンドをしていないんです。
美容学校への入学を蹴って上京した大きな決断
——ちなみに高校卒業を迎え、働くことに向かない青年はどうするんでしょうか?
本当は美容師になる予定で、美容学校にも合格していたんです。でも入学式の前夜に、布団の中で“明日から俺は美容師への道を進むのか?”って考えた時に“あっ、違う!”って……。無茶苦茶かもしれないけど“僕は音楽をやりたいから東京に行こう”って心が決まったんです。人生で一番の親不孝なんですけど、翌日東京に出てきました。
——でも、美容師は、自分で志望していたんですよね?
昔から自分の髪とか友達の髪を切っていたし、好きなことの一つではあったんですけど、決定打はなくて流れの中で決めちゃっていたんですよね。
——当日は、どんな状況だったんですか?
親から電話で“入学式お前の席だけ空席だぞ”って言われて“ごめん俺、美容師にはならない”ってやりとりをしました。その時は“もう帰ってくるところはないからな”って言われて“分かった”って。でも、そこまでやったら引けないし、覚悟は決めていました。東京に出てきても、音楽をやっている知り合いがいるわけではなく、なんのアテもなかったけど、とりあえずやりたいことに素直になって正面から突っ込むのが、当時の僕にとって正解でした。
根こそぎ感性を揺さぶられた歌舞伎町での夜のバイト
——上京してからのバイト経験も教えてもらえますか?
東京の友達が夜の仕事をしていて“一緒にやってみない?”って誘ってくれました。その時はバンドの宛てもないし、かといって何もしないと生活も出来ない状態だったので、とりあえずこれも、やってみるかと。
——本当に何もなかったんですね。
なんにもなかったですね。それでも、音楽がやりたかったし、そのフィールドに突っ込まないと始まらないと思って東京に来ました。上京してすぐに夜のバイト生活が始まるんですけど、根こそぎ感性が変わるような日々だったんです。新宿の歌舞伎町だったんですけど、本当に色んな人に毎日出会うし、あまりいい言い方ではないですけど、心に何か抱えてるんだろうなっていう人ばかりに感じて。ど田舎の大自然で育った僕からすると、けっこうなディープな体験なわけですよ。でも“こういう世界もあるんだぁ”って日々を送りながら、またもや“あっ、向いてねぇな”と気づいてしまうんです(笑)。接客業なのに、嘘とかお世辞が上手に言えるタイプではなかったんですよね(笑)。
でも、そのバイトを辞めた後も歌舞伎町でバーテンダーをしてみたり、いろんな人間を見て、そこで歌いたいことが固まってきたというか。すごくかっこつけた言い方をすると、世の中は寂しそうな人ばかりだと思ったから“寂しくて悲しい思いをしている人をちょっとだけ助けられないのかな。そういう人に響く歌が歌いたいな”と思ったんです。それが、今DADAROMAで歌っていることの原点というか、むしろ今はそればっかりになっているくらいですね。
ヴィジュアル系はクリエイティブの固まりだと思う
——たとえば、音楽に行き着くまでに、ほかのクリエイティブに出会っていたら、違うことをやっていた可能性はありますか?
どうだろう……。可能性はあったかもしれないですけど、でもバンドのラッキーなところっていろんなクリエイティブ要素が全部詰まっているんですよ。絵が描きたかったら自分のCDのジャケットにすればいいし、服やデザインが好きだったら衣装やグッズにしちゃえばいい。メイクすることによっていろんな自分を表現できる。ヴィジュアル系って、やりたいことが全部できるクリエイティブの固まりだったんです。
——行き着くべくして今があるわけですね。たとえば、これからバイトを始める方にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいですか?
まずはなんでもやってみることだと思います。そこで向き不向きを知るのもいいと思うんです。でも、なんで自分が向いてないと思うのか、その理由も考えたうえで判断したほうがいいかもしれないですね。“なんとなく嫌”だけだと損しちゃうんで。たとえば僕の場合は、単純作業が苦手だったのと、もう1つ、人に指示されるのが苦手で(笑)指図されること自体が嫌いなわけじゃなくて“あれ?これはこうのほうがいいじゃないのかな”って思いながら我慢するのが向いていないなと感じたんです。その中で、自分発信で向き合えるものが音楽活動だったというのも大きいと思います。自分が決めて行動したことで失敗しても納得いくじゃないですか。
店長に向けて絶叫した“バンドだよ!!”の真意とは(笑)!?
——では最後に、バイト経験を通して忘れられないエピソードがあれば教えてください!
スーパーで働いていた時なんですけど、その頃は高校生バンドながら活動はしていたのでそれなりの資金が必要だったんです。でも、顔はピアスだらけだったので、ある日スーパーの事務所に呼ばれて店長に“お前は仕事とバンドどっちが大事なんだ”って思いっきり怒鳴られたんです。僕は、店長の声の倍の怒鳴り声で“バンドだよ!!”って返したんですけど……。俺の中では大正解を言ってるんですよ(笑)。でも、雇い主側からすると“何を言ってるんだコイツ”ってなるわけで(笑)当然ですよね、 “だったら辞めろよ”ってなるのも今なら分かるんですけどね(笑)。
——叫けび返した結果……。
もちろんその日が最後です(笑)。家からすごく近かったから、その後めっちゃ気まずかったですね。でも、今はあの店長に、また会いたいかもしれない。“あの時はごめんなさい、僕、まだバンド続けてるんですよ”って伝えたいですね。
よしあつ(DADAROMA)
2014年に結成したDADAROMA(ダダロマ)のヴォーカリスト。メタルテイストの激しく重い楽曲と、キャッチーなサビが印象的なヴィジュアル系バンド。作詞を手がけるよしあつの世論や現代の若者に訴えかける意志が強く込められた独特な表現も話題となる。来年は3周年のワンマンツアーを行なう。
◆DADAROMA OFFICIAL SITE:http://www.dadaroma.com/
◆よしあつ Official Twitter :@DDRM_yoshiatsu
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:原千夏 撮影:河井彩美