武瑠(sleepyhead)インタビュー『音楽で行き詰まった時、アパレルブランドの仕事が活路を開いてくれた』~俺達の出発点vol.3~
SuG解散後、ソロプロジェクトsleepyheadで活動中の武瑠さん。音楽と並行して立ち上げ、表現を続けるための支えになったという自身のアパレルブランド『million dollar orchestra』への思いや、表現を形にすることへの熱いこだわりを伺いました。
「オリジナルの衣装を作りたい」からスタートした新たな試み
——早速ですが、“自分を支えてくれた物”について教えて下さい。
今年で立ち上げて10年になるアパレルブランド『million dollar orchestra』の存在は大きかったです。音楽とも並行して続けていくなかで、1つの成功体験であり、ここでの成果がダイレクトに感じられたことで、人生の転機に自信を与えてもらいました。
——まずアパレルブランド立ち上げのいきさつから教えてもらえますか?
もともと洋服には興味があったのですが、バンドをやっている頃に“オリジナルの衣装を着てやりたい”と思ったのが最初ですね。売っている生地じゃなくて、当時はあまりなかった総柄の生地をプリントするところからこだわって衣装を作ったほうが曲のコンセプトにあった独自のものが作れると思ったんです。
それを当時のマネージャーに相談したら、オリジナルの生地だと、1反の単位で作るから生地が余って予算的にも厳しいと言われて。でも、そこで「お金がかかるから無理」で終わらせずに、ちゃんと理由を説明してもらえたことは、今思うと感謝ポイントですね(笑)。
——理由があれば対策も出来ると!
そうですね。なので、衣装を作って余った生地でパーカーや小物などのグッズを作ることを提案しました。その頃から、生地をイチから作るのであればいつか“アパレルブランド”にしたいという思いがあったんですけど、いきなり一人では出来ないので、最初は好きなアパレルブランドに相談して、コラボグッズからスタートしました。そこで、ノウハウも学べたし、そのアパレルブランドのネームバリューや力添えもあって反響も良かったですね。
――コラボしたアパレルブランドには、直談判に行ったんでしょうか?
そのアパレルブランドの展示会に楽曲のデモテープを持って行きました。話し合いより先に、まずはその場で「この曲の衣装をオリジナル柄で作りたいんです!」って演奏したら、デザイナーさんが面白がってくれて。そこから2年くらい、定期的にコラボでバンドの衣装やグッズを作らせてもらった後、オリジナルブランド『million dollar orchestra』を立ち上げました。
アパレルブランドはあくまで商品のクオリティで戦いたかった
——順調に進んでいったわけですね。
はい。でも、いざ独立するとコラボの時とは違って話題性ではなく、完全に商品のクオリティで勝負しないといけないわけで、立ち上げの頃は売り上げ的にも苦戦しました。次に売れなかったら先がないというギリギリの時期もありつつ、それでもめげずに作り続けて商品が評価されるようになっていったのが大きな支えになりました。
——評価されるようになるキッカケはあったんでしょうか?
実はアパレルブランドでは一貫して購入イベントや特典に頼るようなことはせず、あくまでアイテムだけで勝負しました。だけど、服を気に入ってくれたタレントさんが着てくれたり、口コミでドンドン広がっていって、安定したのはそこからですね。ある意味人生の分岐点になりました。
——分岐点というのは?
特典がないぶん、“商品そのもの”での評価になるんです。そこで、“クオリティを妥協しなかった自分の感性はちゃんと人に刺さるんだ”という自信を持つことができました。音楽にしろアパレルブランドにしろ、根底は“自分が作りたいものを創る”というところから始まっているので、こだわって必死に作ったものに相応の対価を払って評価してもらえたことは嬉しかったですね。
アパレルの仕事は音楽とは違う位置にあったからこそ、フラットに取り組めた
——商品がダイレクトに評価されたと感じられたわけですね。
それが最初に言った転機での自信に繋がるんです。バンドをしていた頃は、人生の中心がバンドであり音楽で、一番大切なものだからこそ真剣に向き合うほどに行き詰まったり、冷静に判断できなくなる瞬間もあって……。特に、解散前はメンタル的にもしんどかったんです。動員や売り上げも含めて、未来を探るなかで、無力さを感じたり孤独になっていったけど、純粋に感性だけでやっていたアパレルブランドが伸び続けていたことで、自分の感性を信じられた。さらにいうと、そこで自信を保てたことで、ソロになっても歌い続けることが出来たんだと思っています。
——特に、ターニングポイントとなった作品はありますか?

武瑠さんデザインのバラの矢モチーフのお財布
バラの矢(写真参照)のデザインです。これはデザインを作った時から手応えがあって、そのうえで作品としては一番評判が良かったので、より自分の感性を信じられるキッカケになりました。
——ある意味、音楽が第一にあったからこそ、アパレルブランドには少しフラットに向き合えていたのかもしれないですね。
そうですね。のめり込んでいた音楽とは違う位置にあったからこそ、客観視できた部分はあります。もし、音楽とアパレルブランドとの比重が逆転していたら、また結果も違ったと思うので。
デザイン制作時に当時聴いていたのはCLARK『TURNING DRAGON』
——アパレルブランドでの具体的な仕事内容も教えてもらえますか?
生地選びやデザインは当たり前で、予算組みや、工場への発注、出来上がった商品を撮影する時は、スタジオやカメラマン、モデルのスタッフィングとかも全部自分でやります。あとは、カタログに掲載する商品の説明も10年間ずっと自分で書いていますね。最近は、アパレルだけじゃなくて空間を飾れる家具にも興味があって、ドレッサー(写真参照)も設計図から作りました。
——本当にイチから全てに携わっているんですね。
プロデュース商品というと、何をやっているのか見えづらいので、最初の頃は、アイディアだけで実際にの作業は何もしていないように思われることも多くて悔しかったですね。ようやく最近、「どうやら本当に自分でやってるらしいぞ」と思ってもらえるようになってきて(笑)。だからこそ、少しも手は抜きたくなかったし、その悔しさを糧にしていた部分はあったかもしれないです。
——デザイン案は、どんなところから生まれますか?
ひらめきの時もあれば、イメージをストックしておく場合もあります。デザインなのかコラージュなのかによっても、作業方法が違うので一概には言うのは難しいですね。
作業でいうと例えばコラージュの場合は、大きな紙に、自分が撮った写真とかデザインをちぎって貼って、そこから何が見えてくるのか対話するんです。それを元に立体の切り絵みたいなものを作ってスキャンしたり。基本は、パソコンではなく手作業でやっています。
——作業している時に、よく聴いている音楽はありますか?

武瑠さんが裏地をコラージュデザインをしたライダースジャケット
コラージュ作品を作る時によく聴いていたのはCLARKのアルバム『TURNING DRAGON』。IDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)で、不思議な音楽なんですけど、インスピレーションが湧くので、このアルバムは今でも作業時によく聴きます。写真にもあるライダース(裏地)のコラージュは、まさにこれを聴きながら作りました。
音楽とファッションは、どちらも表現をするうえで必要なもの
——デザイン作業は楽しい時間ですか?
どちらかというと苦しいことが多いかな。始めるまでが憂鬱(笑)。キレイゴトみたいになりますけど、音楽もファッションも、結局は自分の作りたいものを形にする。それに対して、喜んでくれる人がいることを感じられた時にやっと嬉しいとか楽しいと思える。自分の欲だけだと飽きちゃって、10年は続けられていないと思いますね。
——あえて伺いますが、歌を辞めて、“感性を信じる”という自信を与えてくれたアパレルブランドの道1本に絞ろうと思ったこともあるのでしょうか?
今は何か表現したいアイディアが浮かんだ時に、それを音楽にしようか、アートワークだけにしようか、両方に絡めていこうかを選んでアウトプットしている感じなんです。なので、すべてが表現として繋がっているので、アパレルブランドだけにしようと思ったことはないです。
それと歌に関しては、バンドが終わる時に感じた色々な思いを、まだ音楽として出し切れていないというのが続けている一番の理由かな。昔は思うように音楽にイメージを落とし込めない難しさがあったけど、続けてきたことで今はようやく形にできるようになってきているので、自分の感性を信じられる限りは、音楽は続けていくと思います。
好きなことをするための困難は、自分を強くするための材料
——最後に、好きを形にする方法や、夢を追い続けるためのアドバイスをお願いします。
“好きなことをするための仕事”だったり、“好きなことを仕事にするための困難”を飲み込めるかだと思います。輝かしい夢とか、表面だけしか見ないと、“こんなはずじゃなかった”と思うだろうし。
夢を追う過程で、マイナスや弱点を受け止めてどう動くか。そこで何を伸ばそうと考えるのか。苦手なことや困難を、自分が強くなるための材料だと思って向き合ってみるといいと思います。僕も全然えらそうなことは言えなくて……これは、自分への言い聞かせでもあります。
武瑠(sleepyhead)
3D音楽プロジェクトsleepyhead(スリーピーヘッド)として活動中。10年間ボーカリスト、クリエイティブディレクターを兼任したバンドSuGで、武道館を経験。自身のバンドだけに限らず、様々なアーティストへの曲提供やクリエイティブを担当。ストーリーテリングから派生する音楽、デザイン、映像監督、執筆などの活動は多岐に渡る。
原宿文化の象徴であるゴシックスタイルと、ストリートスタイルをミックスさせたSuG 武瑠独自のニューカルチャー“ストリートゴシック”を表現したブランド『million dollar orchestra(ミリオンダラーオーケストラ)』は今年で設立10年を迎える。
◆sleepyhead OFFICIAL SITE:http://sleepyhead.tokyo/
◆武瑠 Official Twitter:@ta_streetgothic
◆million dollar orchestra OFFICIAL SITE:http://million-d-orchestra.com/
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:原千夏 撮影:河井彩美
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。