由羽(the Raid.)インタビュー『スコアを買って夢中で練習——何にも興味を持てなかった自分を変えてくれた音楽の存在』〜俺達の出発点vol.6〜
全国展開のツアーを定期的に行なうなど、精力的に活動を続けてきたthe Raid.。メンバーからもサウンド面で絶対的な信頼を受けるギターの由羽(ゆうは)さんが、支えとしてとして挙げたのはヘヴィメタルバンド『ANGRA(アングラ)』のスコア(楽譜)。そのスコアを中心に、音楽が人生観をも変えたというこれまでのお話を伺いました。
自転車を1時間走らせて買いに行ったスコア。夢中になれることが嬉しかった
——“自分を支えてくれた物”を中心に、由羽さん自身の変化を伺いたいと思います。
海外のヘヴィメタルバンドANGRAのスコアを持ってきました。もともと中学の頃まで全く音楽に興味がなかったんですけど、高校の頃に先輩にSEX MACHINGUNSを教えられて“音楽ってカッコイイ”と思ったところからギターに興味をもちました。そこから洋楽にハマっていくんですけど、まずはギターと機材を買いあさって、その後にスコアの存在を知りました。初めて買ったスコアはSEX MACHINGUNSで、ANGRAのスコアは2冊目ですね。
――スコアを購入した時のことを教えてもらえますか?
近所の本屋には置いていなかったので、大型店舗に問い合わせをしてからチャリンコを1時間走らせて買いにいきました。すぐにでも手に入れたくて夢中でしたね(笑)。
――ちなみに、洋楽の中でもANGRAにハマったのは?
海外の人って指が長いのもあって、ギターを弾いていてもすごいフレーズがバンバン出てくるんですよ。ANGRAの映像を見て“やってみてぇ!”ってなったのがキッカケです(笑)。でも、映像を見ても早すぎて“何をやってるんだろう?”という状態だったのでスコアが役立ちました。手にしたのは高校の夏休みだったんですけど、ほぼ家から出ずに夏休み中はずっと弾いていました。音楽にハマるまでの僕は、何も心に響くものがなくて無の状態というか、ただ生きていたという感じだったのですが一気にのめり込みましたね。
——そこから飽きることなく?
そうですね。技術は、0から1にすることの繰り返しだと思っていて、0が1になった瞬間に楽しさを覚えるけれど、また次のステップが生まれる。それを繰り返していたらあっという間に夏休みが終わりました(笑)。その頃は、まだステージに立ちたいとかバンドを組みたいという欲求はなくて何かに夢中になれることが楽しかったんです。
ANGRAのスコアは今でも見返すし、いつも手元にある手帳のような存在
——そのスコアは今どこに置いてありますか?
リビングの棚に置いてあります。ANGRAの曲は、東京の専門学校に入る時のクラス分けの試験曲としても演奏したので上京する時も持っていました。当時、東京のホテルで試験にそなえて練習したのは今でもすごく覚えています。
――今でもスコアを見ることはあるんでしょうか?
はい。“あのフレーズってどうだったのかな?”と見返えすし、自分たちの曲のフレーズを考える時に煮詰まったら参考にしたり、あとはギターの練習をする時にも開きます。その過程で、昔は気づかなかった新しい発見があったり、“この指の動きはバンドに活かせるな”と思ったり、自分の中では手帳のようになっていますね。
——思い出の品ではなく、今でも活躍しているんですね。
いつでも僕にとっては最新作なんです(笑)。あの頃には分からなかったことが、改めて分かるようになるとまた楽しいんですよね。それに、もし音楽を好きじゃなくなることがあったら、また何にも心が動かなかった自分に戻ってしまう。それだけはイヤだなと。親に無理を言って上京したので、純粋に音楽をカッコイイと思う気持ちはずっと忘れたくないと思うし、このスコアは自分の中のワクワクを継続するためのものでもあります。
技術が全てだと思っていた頃からの変化。今はバンドとして光を受けたい
——高校生だった由羽青年がご自身の姿を見たらどう感じるんでしょう?
たぶん当時の僕が今の自分を見たら否定すると思います。あの頃の僕は、練習が全てで、技術があることが一番素晴らしいことだと思っていたんです。もちろん技術は必要なんですが、僕がやっているのはバンドだからメンバーと調和がとれていることも大切で。1人だけが楽しくても、他のメンバーが巻き添えをくっていたら意味がないし、たとえ自分が犠牲になっても4人がキレイにスタート出来るなら、そのほうが美しいんです。それは、あの頃の僕には理解できなかったと思いますね。
それもあって、今もし誰かに褒めてもらえるんだとしたら“上手なギターがいるバンド”じゃなくて、“あのバンドのギターは上手だ”と言われたい。昔の自分は“自分が輝けばいい”と思っていたけど、今はバンドとして光を受けたいと考えるようになりました。
——そう考えられるようになったきっかけはありますか?
経験を経てではありますが、根底にあるのは自分が落ち込んでいた時期に専門の先生からもらったアドバイスですね。今は誰でも動画投稿が出来る時代だから人の投稿もよく見るんですけど、明らかに自分より若いのに上手い人がたくさんいるんです。それを見て自信をなくした時に、「世の中に上手いギタリストはいくらでもいるけれど、やりたいことに芯をもったほうがいい」というアドバイスと、職業にするからこその技術ではない感情や感性という人間味の大切さを指摘されて、それがすごく刺さりました。
――もし、技術だけを追っていたら今の由羽さんはいないと。
はい。ちなみに最近、自粛を受けて無観客でのライヴ配信をしたんですけど、久々にバンドで演奏したら、音が合わさった瞬間にすごく気持ちよかったんです。音の振動があって、メンバーが出すその時だけの音がある。生演奏に勝るものはないということを再発見したし、気づいたらリハ中に笑っていました。それは1人では味わえなかったものだと改めて感じます。
人の意見を受け入れられるようになるキッカケをくれた恩師の言葉
——とはいえ、人からの言葉を受け入れるのが難しい場合もあると思いますが。
それも「喰わず嫌いはよくない」と学生時代の先生に教わったことが大きいです。受けたアドバイスや意見が自分の考えと違っても一回噛み砕いてみて、やってみて違っていたら捨てればいいと教わって。もしかしたら自分のためになることかもしれないと思ったら“確かにな”と。そこから考え方が変わったんだと思います。
それにthe Raid.を始めてからは、星七(ヴォーカル)がよく驚くようなアイディアを持ってくるんですけど、最初は無理だと思っても“何故そうなのか”を考えたら面白いなと感じるし、「人生一回しかないんだから」というのは、彼がよく言っている言葉でもあります。
人生何が起きるか分からない。それは自分が体験したからこそ伝えたいこと
——少し話は戻りますが、それだけ感受性が豊かだと音楽に出会うまで熱中する物がなかったというのが意外です。
音楽に出会ったことで感受性が豊かになったのかもしれません。音楽は心の中に働きかけるもので、実際に自分の人生を救ってもらったと思っています。その自分がやっている音楽に、助けられていると言ってくれるファンの子たちもいて。そこに関われていると思ったら、昔の自分に「ありがとう」を言いたいですね。僕がスコアを見て夢中になったように、聞いてくれる人にとってのスコアがthe Raid.の音楽だったら本当に幸せだなと思います。
——夢がなかった少年がずいぶん変化しましたね。
よくファンの子たちからも、やりたいことがないという話を聞くし相談を受けることもありますが、僕もまったく同じ状況だったからすごく気持ちは分かるんです。でも、そんな僕もひょんなことで人生が変わったわけですからね。人生何が起こるか分からない。だから、過去に“もっと何をしておけば良かった”とか、“何をしなかったからダメだ”とか考える必要はなくて、今生きているままが一番正しい形だと思うんです。今が正解で、その上で明日何かが見つかるかもしれない。
――夢がないことを責めなくてもいいと。
はい。それで、もし自分が少しでも楽しいと思えることがあるなら、直接夢につながることではないとしてもやってみたらいいと思います。ドアを開けないと、その先の景色は見えない。1回開けてみて、その景色がキレイじゃなかったら閉めればいいんです(笑)。自分の捉え方1つで変化は起きるだろうし、人生いつ何が起きるか分からないから一緒に楽しみましょう!
由羽(the Raid.)
2011年に結成したthe Raid.(レイド)。由羽(ゆうは)は2013年にギターとして加入。メンバーチェンジを経て2016年に現メンバーとなり同年7月に新体制として初となる1stシングル『Re:born』をリリース。2018年から2019年春にかけて全74本ワンマンツアー、2019年は47都道府県を実施するなど、全国を隈なく廻るツアーを定期的に行なっている。現在はライヴ自粛を受け、バンド存続のため期間限定でのメンバーが店員をつとめる『CAFE de RAID.』を渋谷にオープン。
◆the Raid. Official HP:https://the-raid.net/
◆由羽 Official Twitter:@theRaid_yuuha
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河井彩美 取材・文:原千夏