くろくも インタビュー 『夢のために必要なお金は自分で稼ぐ――当時の呼び名はバイト戦士!?』
前作からの変化や、心模様を凝縮したアルバムが完成!
——2nd Major Album『bloom』の制作にあたり意識した点について教えて下さい。
1st Album『amorous profumo』(2016年発売)をリリースしてから3年の期間が空いてしまったので、その間に感じたことや、心情が変化していく様を込めたアルバムにしたいと思って作り始めました。新規で収録する曲は、尊敬している方や好きな作曲家さんにお願いしています。曲ごとに喜怒哀楽や感情の1つずつを、ギュッと濃縮して落とし込んでもらいました。
——表題曲となる「Black Lily」についてはいかがですか?
この曲は湊 貴大さんに制作していただきました。実は、私が初めて聴いたボーカロイドの曲が、湊さんの作品で、それからずっと大好きで……。その時から“いつか曲を書いてもらいたい!”と思っていたので、念願の夢が叶った1曲となりました。曲中の英詞部分がとても素敵なので、是非翻訳してみてほしいです。
——アルバム全体を通して、歌声にも高音の透明感と低音の深みを感じました。
今までの作品に比べると低音が多いかもしれないです。今回のアルバムジャケットも昼夜で2パターンを描いているので、声のバリエーションも色々と挑戦しています。
——アルバム内でも、特に「花病み」は独特な世界観がありますね。
これは奏音69さんに作ってもらった曲で、まさに“奏音69さんにしか作れない世界”だと思いました。花をモチーフにお願いしたところ、想像以上のものがあがってきて感動しました。もともと明るく力強いものより、儚さや、もがいているからこその強さが好きなので、ドストライクの曲をいただいて嬉しかったですし、そのぶん曲に負けないように歌いたいと思いました。
——歌詞には、友だちの恋愛を祝いたいけれど苦しいという気持ちが描かれていますね。
この歌の主人公である女の子は、自分がすり減ってでも周りに優しくしてしまった結果、気持ちが言葉を選べずあふれ出てしまうんです。私も人に嫌われるのが怖くて相手に合わせてしまうタイプで、それが積み重なってだんだん心が重たくなっていく気持ちは分かるので、エグられた感じがしました。
――恋愛においても共感できる部分はありますか?
私も学生時代に、友だちと好きな人が被ったことがあって、その時は、歌詞の主人公と同じように、友だちに“(自分も彼のことが好きだけど、その気持ちを抑えてでも)本当に頑張ってほしいな”と思ってしまったんです。その純粋な思いと、後悔とのバランスというか。恋愛だけではなく、受身な自分自身を投影して共感できる作品です。
——完成してみて、どのようなアルバムになったと感じていますか?
既存曲も含めて、この3年の気持ちの変化を、順を追って表現できていると思うので、通して聴いてもらえたら嬉しいです。
夢のために始めたバイト。飲食店で約3年間×週5で働きました
——では、ここからはバイト経験について伺いたいと思います。
小さい頃から声優や歌手になりたくて、中学の頃からセリフを使っての声真似や歌を、SNSや動画サイトに投稿していました。その時は、とにかく楽しいことをやっているという感じだったんです。その後の高校は通信制だったので、母親が夢を応援してくれて、「いつか上京するつもりなら自分でお金を貯めなさい」とアドバイスをくれたのが、バイトを始めたキッカケです。
――どんなバイトをされたのでしょうか?
チェーン店の飲食店で高校の3年間、週5で働きました。ホールで接客をしたりキッチンに入ったりと、一通りは経験しましたね。
——印象に残っているエピソードはありますか?
ホールでの接客が大変でした。まず、とにかくお皿が重たくて(苦笑)。焼肉店だったのですが、お肉が1㎏盛られた皿を持って、もう片方には多い時はビールジョッキ10杯とか……それがキツくて苦手でしたね。接客は嫌いではなかったのですが、お客さんへの対応にしても、どれだけ心地良い環境を届けられるかという気遣いが必要でしたし、家に帰った後はグッタリでしたね。
動画投稿を始めた当初は、『見てくれ、聞いてくれ精神』だけで突っ走っていた
——そうすると、動画投稿の時間も限られますよね?
そうですね。いま考えたら“自分すごいな”って思います(笑)。バイトの日は、帰ってくると疲れてすぐに寝てしまうことも多くて。一時期はバイトをし過ぎて、SNSにも「バイト終わった」というつぶやきしかしていなくて、フォロワーさんにも“バイト戦士だね”と言われていました(笑)。あまりに浮上しないと、“疲れて寝てるのかな?”って書かれたりして、“その通り!”っていう(笑)。
——とはいえ、それだけ頑張れたのはどうしてでしょうか?
自分のために使うお金は自分で稼ぎたいという思いですね。それと、高校時代に初のアルバムをリリースさせてもらったりと、自分が好きなことをして、さらに見てくれる人や聴いてくれる人がいることが楽しくて仕方がなかったんです。いま思うと、『見てくれ、聞いてくれ精神』だけで突っ走っていましたね(笑)。自己肯定をしてもらえて、楽しいことが出来る。本当に夢中だったんだと思います。
バイト代のほとんどは、動画投稿や活動のための資金になった
——では、夢のために始めたバイトですが、具体的な使い道も教えてもらえますか?
歌を録音するための機材やマイク代、ライヴのための衣装、それと上京するための資金ですね。機材も1つ1つが高いので、総額にするとかなり使ったと思います。ただ、それ以外の趣味はなかったですし、流行を追うタイプでもなかったので、時間もお金も歌うための動画投稿だけに費やしていました。
——いま仕事になったことで、歌に対する気持ちに変化はありますか?
学生の頃は毎日が楽しかったんですけど、20才になり、年齢を追うごとにだんだんと仕事としての現実味が強くなってきて、歌への想いより、将来に対しての不安が大きくなることもあります。極端に言うと、“楽しさ”と“不安や辛さ”が、半日ごとに行き来している感じというか(笑)。そうやって落ち込んだ時は、応援してくさる方たちからの手紙を読むようにしています。
——手紙ですか?
はい。動画のコメントやSNSのリプライも見ますが、手紙が大好きなんです。文字制限がないぶん、私に対しての思いや、その人自身の事を深く書いてくれるので心に刺さりますね。くじけそうになる時は、応援してくれる人たちの存在を感じることで次に進むエネルギーに変えています。
ちなみに、ライブでもらったお手紙は一気に読むのがもったいなくて、“1日何通までにしよう”と決めていて(笑)。それでも足りない時は、同じ手紙を何度も読んだりしています。“楽しい”で始めた音楽が、いつの間にか仕事になって、聴いてくれる方たちに支えられて生きているんだなぁと、改めて思いますね。
バイトで学んだのは人との接し方。色々な立場で物事を見られるようになった
――では改めて、バイトをしたことで自分自身が変化したことはありますか?
敬語を使えるようになったこと(笑)。あとは、人への対応の仕方を学びました。
――人への対応というと、どういったことでしょうか?
たとえば、先輩が新人の子に「どうしてそんな事もできないの!?」という怒り方をしているのを見た時に、“私だったら萎縮して余計に失敗をしそうだな”と思ったんです。それに、“きっと怒った人も最初から出来たわけではないはずなのにどうしてそういう言い方をするんだろう”って。そういう立場の違いや言い方、関わり方を見て、“相手はどう感じるのかな?”というのを、より考えられるようになりました。
“自分がして欲しかったことはする”、“されて嫌なことはしない”。物事を第三者目線で見ることが出来る人間でありたいと思えたのは、バイト経験があるおかげです。どこで働くにしても人間関係が一番大切だと思うので、これからバイトやお仕事をする方も、居心地の良い環境に出会えるように応援しています!
くろくも
中学生の頃から音声配信や、動画投稿を行う。2016年に1st Album『amorous profumo』でデビュー。当時、高校生ということでも注目を集めた。2017年12月にはPlayStation Vita用ゲーム『俺達の世界わ終わっている。』OP/ED担当。Youtubeチャンネル登録者数は17万人を超える。2019年1月には、新宿ReNYでのワンマンライブを行った。
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企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河井彩美 取材・文:原 千夏
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