パート・アルバイトの社会保険の加入条件とは? メリット・デメリット、損しない働き方
パートやアルバイトとして働く場合、年収や労働時間などによって社会保険の加入対象になる人とならない人がいます。今回はパートやアルバイトに関係する社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するメリット・デメリット、損をしないための働き方についてご紹介します。
(参照)厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
社会保険とは
社会保険とは、年金保険、医療保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類を指す国が運営する公的な保険制度のことですが、一般的に社会保険というと、会社勤めなどの雇用者を対象にした健康保険(けんぽ等)と厚生年金保険の2つを示すことが多いです。
社会保険の加入条件に当てはまると加入義務が発生し、保険料は、雇用者もしくは雇用主、または両者で負担します。加入条件は、それぞれの立場や働く日数や時間、収入額によって異なりますが、配偶者や親などの社会保険の扶養に入っている人でも、その条件に当てはまると自身の勤務先で加入することになります。そうなれば扶養から外れ、自ら保険料を払う事になります。
ここでは、パートやアルバイトで働く人が社会保険の対象となるケースについて解説します。
パート・アルバイトの社会保険の加入条件
社会保険完備の会社で働く場合、1カ月以内の短期契約でないパートやアルバイトも社会保険の加入対象になります。以下のうち、いずれかの条件を満たす人は加入する義務があるので、詳しく見てみましょう。
勤務時間及び日数が、正社員の4分の3以上
パートやアルバイトなど短時間労働者の社会保険の加入条件は、常時雇用者(≒フルタイムの正社員)の月の労働日数と1週間の労働時間が4分の3以上であることが必要です。この条件は、社会保険完備の勤務先で働く場合、会社の規模、年収の額、社会人か学生かに限らず、適用されます。
年収106万円以上など5つの条件を満たす
上の①に該当しなくても、通称106万の壁の条件を満たすとパート先の社会保険に加入します。勤務先が従業員数51名以上(厚生年金の被保険者数)の場合、週の労働時間が20時間以上で、なおかつ決まった月収が8万8000円以上、雇用期間が2ヵ月を超える(見込みを含む)パートやフリーターなどは、社会保険の加入対象になります。
なお、勤務時間が週20時間を超えたり超えなかったり変動がある場合は、会社の健康保険組合が常時週20時間以上と判断すれば加入、繁忙期などで一時的と判断すれば加入対象になりません。基準については各健康保険組合に確認すると良いでしょう。
<106万の壁:社会保険の加入条件>
1.週の所定労働時間が20時間以上であること
2.賃金月額が月8.8万円以上(*1)(年約106万円以上)であること
3.2ヵ月を超えて使用されることが見込まれること
4.従業員51名以上(厚生年金の被保険者数)の勤務先で働いていること(*2)
5.学生でないこと(※夜間や定時制など、学生でも加入できる場合もある)
----
(*1)以下は1ヶ月の賃金から除外できる。
・臨時に支払われる賃金や1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与等)
・時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(例:割増賃金等)
・最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
(*2)厚生年金の被保険者数が50人以下の企業でも、「労使合意(働いている方々の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することに合意すること)に基づき申し出している」又「地方公共団体に属する事業所」であれば、51人以上の要件を満たすことになります。
社会保険に加入するメリット
「パートは扶養の範囲内で働けばいい」と考える人もいるかもしれませんが、社会保険の加入にはメリットもあります。
保険料を会社と折半できる
厚生年金保険料と健康保険(協会けんぽ等)の健康保険料は、労働者側と雇用者側が原則として折半して支払います。そのため、社会保険に加入すれば、支払うべき保険料の半分を企業が負担してくれることになります。
例えば自営業や個人事業主などの場合、国民健康保険と国民年金は全額自分で支払う必要があるので、社会保険に加入したほうが少ない自己負担で済む可能性があります。
老後に受け取れる年金額が増える
厚生年金保険に加入すると、国民年金から将来受け取れる基礎年金の額に、在職中に支払った厚生年金の保険料に応じた金額を上乗せしてもらうことができます。
また、厚生年金保険の加入期間が長い分だけ、将来上乗せされる年金の額も増えます。
手厚い保険制度が利用できる
社会保険の被保険者は、条件を満たしていれば手厚い保障制度を受けることができます。もちろん社員だけでなく、パートやアルバイトも対象です。
例えば、けがや病気を理由に3日間連続で休む場合、給与の支払いを受けられないなどの条件を満たせば、4日目以降に傷病手当金の受給が可能です。
出産手当金や出産育児一時金なども、要件を満たしていればすべての雇用形態の人に支給されます。
社会保険に加入するデメリット
給与の手取り額が減る
これまで専業主婦だった人や扶養の範囲内で働いていた人など被扶養者だった人は、社会保険に加入すると毎月の保険料が天引きされ、手取り額が減ります。
例えば、会社の社会保険の加入条件が年収130万円で働くケースで考えます。東京都内在住の30代主婦のパートで、年収が129万円に押さえた場合と、130万円になって社会保険に加入すると社会保険料は約19万円を自己負担することになり、手取りが129万円⇒124万3300円、130万円⇒108万6052円と、129万円の手取り額より減ることになります。
◆年収129万円(通勤交通費無)での所得税と住民税(2024年6月時点)
【所得税】
課税対象129万-55万-48万=26万×5%×1.021=13,273(→端数処理後13,200)円 …①
【住民税】(東京都の場合)
課税対象129万-55万-43万=31万
(都民税)31万×4%-1,000=11,400円+均等割1,000円=12,400円
(特別区(市町村)民税)31万×6%-1,500=17,100円+均等割3,000円=20,600円
(森林環境税)1,000円
合計33,500円 …②
①+②=46,700円
手取り⇒1243,300円
----
◆年収130万円の社会保険料と所得税・住民税
【所得税】
課税対象130万-55万-48万-189,816 =80,184(課税される額80,000)×5%×1.021=4,084(→端数処理後4,000)円 …①
【住民税】(東京都の場合)
課税対象130万-55万-43万-189,816=130,184(課税される額130,000円)円
(都民税)130,000×4%-1,000=4,200円(4,200)+均等割1,000円=5,200円
(特別区(市町村)民税)130,000×6%-1,500=6,300円(6,300)+均等割3,000円=9,300円
(森林環境税)1,000円
合計15,500円 …②
【社会保険料】(協会けんぽ(東京都)、40歳未満の場合)
130万÷12ヵ月=108,000=標準報酬月額110,000円
(健康保険料5,489円+厚生年金10,065円)×12カ月=186,648円 …③
雇用保険料…130万×0.6%=7800円 …④
③+④=194,448円 …⑤
①+②+⑤=213,948円
手取り⇒1,086,052円
※2023年10月より、事業者向けに「年収の壁・支援強化パッケージ」が実施されています。年収の壁を超えても手取り収入を減らさないための対策で、対応は各企業になります。詳細は、勤め先の担当者にご確認ください。
▶厚生労働省:年収の壁・支援強化パッケージ
106万円や130万円の壁に悩むパートの対処法
夫の扶養に入っている主婦主夫の場合、扶養を外れると保険料を自己負担するため、目の前の手取りは減ってしまいます。今は、手取りを大事にしたい人は、どうすればよいでしょうか。
扶養内で働きたいことを伝える
パートやアルバイトの面接時に、扶養内で働きたいことを明確に伝えることが大切です。その上で、パートやアルバイト先との労働契約書に、所定労働日数や時間が扶養内に収まる内容で締結するようにします。改正により、ゆくゆく加入対象になりそうな人は、改正前に契約書の修正をパート先と相談しておきましょう。
掛け持ちして収入を分散させる
パートやバイトでの総収入は落としたくない人は、掛け持ちをする方法もあります。先に説明した社会保険の加入条件は、1つの勤務先で該当すると加入することになりますので、掛け持ちで複数の勤務先から給料を分散することで、条件に当てはまりにくくなります。その際も、掛け持ち合計の年収が130万円を超えないように注意しましょう。130万円を超えると、勤務先の社会保険に入れなくても、扶養が外れて自分で国民年金や国民健康保険に加入することになります。
社会保険のメリットとデメリットを考慮して、働き方を検討しよう!
「手取り額を減らしたくない」という人にとっては、パートやアルバイトで社会保険に加入することにデメリットを感じるかもしれません。ですが、老後にもらえる年金の額が増えたり、休職・退職時に手厚い保障を受けられたりするなど、社会保険に加入して得られるメリットも少なくありません。社会保険に加入するメリット・デメリットを知った上で、自分自身の働き方を検討してみることをおすすめします。
監修/トミヅカ社会保険労務士事務所
※初回公開:2019年4月7日、更新:2020年8月17日、2021年10月27日、2022年6月22日、2022年10月1日、2023年5月23日、2023年10月23日、2024年6月21日、2024年8月27日、2024年10月1日、2025年1月7日
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。