会社都合退職とは?自己都合退職との違い、失業保険への影響や、会社都合にできるかなど解説
退職には「会社都合退職」と「自己都合退職」の2種類があります。ここでは、会社都合退職と自己都合退職それぞれに該当する条件や、失業保険への影響などについて解説します。
会社都合退職、自己都合退職の意味と違い
退職理由は、大きく分けると「会社都合退職」と「自己都合退職」があります。ここでは、会社都合退職となる条件や、それぞれの違いについて解説します。
会社都合退職とは
会社都合退職とは、労働者の一方的な都合ではなく、会社の業績や経営状況などによる退職を指します。具体的には、会社の倒産、事業所の廃止のほか、人員整理による解雇(リストラ)も該当しますし、退職勧奨や早期退職、希望退職も会社都合となります。そのほか、契約内容と労働条件が著しく異なっていたり、大幅な給料カットや未払い、慢性的な長時間残業やパワハラなどが原因で自ら退職した場合でも、「会社都合退職」にあてはまることがあります。
・倒産、事業所の廃止
・人員整理による解雇やリストラ
・退職勧奨(経営不振など臨時的に会社が希望退職や早期退職を募った場合。就業規則などに定めのある制度を選択した早期退職は該当しない)
・会社側からの解雇(自己の責めに帰すべき重大事由での解雇は除く)
・労働条件の大幅な変更(賃金カットや勤務地変更など)
・職場のハラスメントが原因での退職 など
自己都合退職とは
自己都合退職とは、労働者本人の事情で退職することをいいます。たとえば、個人的な理由による転職、自身の結婚・出産・転居・病気など体調不良、家族の介護などでの退職などが該当します。
解雇は原則、会社都合として処理されますが、労働者の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合は、自己都合として扱われます。また、悪質な規律違反、法令違反などにより、「懲戒解雇」された場合も、自己都合退職となることがあります。
・キャリアチェンジや転職
・家庭の事情(結婚、育児、介護など)
・職場の不満や人間関係
・個人的な体調不良やストレス など
会社都合と自己都合は、いつ・どのようにして決まるのか
会社都合は、退職理由とその状況により決まります。会社都合が決まるプロセスには二通りあり、リストラや整理解雇の場合は会社が事前に本人に通知します。その際に「会社都合退職」として扱われます。労働条件やハラスメントが原因の場合、退職時に自己都合として扱われても、ハローワークで手続きを行えば会社都合に変更されることがあります。
一方で自己都合退職は労働者が会社に自己の都合による退職意思を伝えることで成立し、書面や口頭で明確に「自己都合退職」として扱われます。
自己都合を会社都合にしてもらうには?
失業保険の手続きにおいて、自己都合退職した後、会社都合にしてもらうには、会社都合退職に該当する証拠をハローワークに提出して認定してもらうことが必要です。例えば、長時間労働がわかるタイムカード、予定が書かれた手帳、雇用契約書、給与明細、退職の経緯が分かるメールや音声データなどです。詳しくは、ハローワークに相談してみるとよいでしょう。
会社から「自己都合退職にしてほしい」と言われたら?
会社都合での退職にもかかわらず、会社から「自己都合退職にしてほしい」と言われた場合は、慎重に対応する必要があります。会社側が会社都合退職にしたくない理由は、政府からの助成金が受け取れないなど財政的な事情や会社の評判が下がることを避けたいという意図が考えられますが、自己都合を受け入れると、自身の失業保険の給付に影響します。万が一会社から自己都合を強要されたり圧力をかけられたという場合は、違法となる可能性があるため、労働基準監督署やハローワーク、弁護士に相談することが重要です。
失業保険の給付までが早いのは会社都合
失業保険の給付とは主に基本手当のことをいい、離職している一定期間、国から支給される給付金です。会社都合と自己都合のどちらも基本手当を受け取れますが、受給開始までの期間やトータルの受給期間が異なります。基本的には自己都合よりも会社都合のほうが、受給タイミングや日数などで手厚くなっています。
失業保険の給付までの期間や内容の違い
会社都合退職は、失業保険の受給資格が認定され、待機期間の7日が経過すればすぐに基本手当を受け取れます。一方で、自己都合退職は、受給資格が認定されてから2カ月は給付制限期間となり、基本手当を受け取ることができません。また、受給する基本手当にも違いがあり、会社都合退職の方が給付日数が長く、給付金の総額も多くなる傾向にあります。
■会社都合と自己都合の失業保険給付までの期間や給付日数の違い
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
待機期間 | 7日 | 7日 |
給付制限期間 | なし | 最短で2カ月 |
給付日数 | 90~330日 | 90~150日 |
※就職困窮者を除く
なお、令和2年10月1日以降に離職した人で、直近5年間に退職した人の2回までは待機期間は2カ月、3回目以降は待機期間が3か月となります(※自己都合退職でも懲戒解雇の場合は3カ月となります)。
自己都合退職でもすぐに受給できる場合も
自己都合退職であっても、正当な理由があり、ハローワークで「特定理由離職者」と認められると、失業給付の給付制限期間が免除され、7日間の待期期間後、すぐに受給できる場合があります。特定理由退職者と認められる正当な理由には、下記のようなケースがあり、ハローワークの窓口に必要書類を提出し、認定してもらう必要があります。
・30日を超える育児や家族の介護
・体力不足や心身障害
・事業所移転や異動などによる通勤困難
・妊娠、出産
・会社から更新しない旨を通知されたことによる有期労働契約の終了 など
>特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
履歴書での退職理由の書き方
履歴書上の経歴
会社都合と自己都合では、転職の際に使う履歴書の職歴欄での記載方法が異なります。会社都合であれば「会社都合により退職」となりますが、自己都合であれば「一身上の都合により退職」等と記入します。
・自己都合退職 → 一身上の都合により退職
・会社都合退職 → 会社都合により退職
会社都合・自己都合の退職手続きの違い
会社都合と自己都合では、退職時に必要な手続きや書類が異なります。
会社都合なら、退職届や退職願は原則不要
会社都合退職の場合、労働者側が「退職届や退職願」を提出する必要は基本的にはありません。退職願の役割は、自ら退職を願い出て、意思を伝えるための書類であり、退職届は退職が確定している際に渡す書類です。「退職届や退職願」を提出すれば、退職後に自己都合退職として離職票が発行される可能性があり、失業保険の申請に影響することがあるので注意しましょう。
経営不振に伴う解雇や退職勧奨など、会社都合にもかかわらず「退職願や退職届」の提出を求められたときは、退職理由に「会社都合(事業所閉鎖のため)」などと明記しておくと、後から何かあった際の証明になります。
なお、会社都合退職の場合、正社員などの契約期間の定めのない人や有期契約であっても2か月を超える有期契約期間が定められていて実際に2か月を超えて働いている人については、会社は30日以上前に解雇予告を行うか30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。解雇と言われたときは会社から解雇予告通知書と解雇理由証明書を必ず発行してもらいましょう。
また、契約期間の定めがある場合でも、3回以上契約が更新されている人や1年を超えて継続して勤務している人に契約の更新をしない場合は、30日前までに予告する義務があるので、会社がルールを守っていない場合は、労働基準監督署などに相談してみましょう。
自己都合なら、期日までに退職意思を示す
自己都合退職の場合は、会社の就業規則にある期日までに、自ら退職意思を示す必要があります。口頭などで退職意思を伝え、さらに退職届など必要書類を求められたら、規則に沿って書類を提出します。
退職意思の表示タイミングは、法律上は2週間前までに申し出ればよいことになっていますが、会社がそれ以上の期間を定めている場合、その期間が合理的であればその期間が優先されます。一般的には、退職希望日の1カ月前までとする会社が多いようです。また、後任への引き継ぎなどを考慮し、早めに意思表示をするのが良いです。
なお、契約期間の定めがある人は、契約期間が1年を超える場合を除き原則、期間満了までは退職できませんが、事情によっては退職に応じてくれることもあるので、会社に相談してみましょう。
自己都合だと退職金が減額となる会社もある
自己都合で退職すると、会社都合退職よりも減額する退職金制度を設けている会社もあります。退職金の有無や支払い額の規定は、会社によって異なるので、就業規則を確認しましょう。
転職活動に関する疑問
書類選考で「会社都合退職」は不利になる?
倒産や経営不振による整理解雇(リストラなど)の場合は、それが理由で書類選考が不採用となることはありません。履歴書の職歴欄に書く際は、「会社都合により退職 ※会社倒産のため」等、理由を補足しておくといいでしょう。
一方、自分に何らか原因のある普通解雇や懲戒解雇は、転職活動で不利になる可能性はあります。転職活動での職歴欄にあえて退職理由を書く必要はありませんが、面接で会社都合退職の詳細を聞かれることがあるため、どのように答えるかはあらかじめ対策が必要です。
面接で会社都合を自己都合と答えても問題ない?
面接で会社都合退職を自己都合退職と答えることは、避けた方が良いでしょう。退職理由を偽ると、事実が発覚した際に信頼を失うだけでなく、採用取り消しやその他のトラブルになる可能性もあります。また、会社都合退職の理由がリストラや経営不振など、個人の責任ではない場合は正直に伝えても採用に影響がありません。正直に説明しつつ、新たな仕事への意欲など前向きな姿勢をアピールすることが重要です。
渋田貴正
司法書士事務所V-Spirits 代表司法書士。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社に在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
https://www.pright-si.com/
※初回公開:2022年03月23日、更新履歴:2023年11月28日、2024年6月21日、2024年9月30日
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