声優インタビュー:野島健児【先輩のオフレコ!】1
プロとして社会で活躍する「先輩」たちの成長の秘密に迫る『先輩のオフレコ!』。話題の声優さんに、アルバイト・新人時代のお話を伺います。今回のゲストは『弱虫ペダル』の黒田雪成役や『ユーリ!!! on ICE』のイ・スンギル役で話題の野島健児さん。全3回に渡ってお届けします!
声優という職業を早くから意識した幼少期
―野島さんと言えばお父さまも声優ですが、子どもの頃のお父さんとの思い出はありますか?
声優の仕事は時間が決まってないので、幼少期は父が仕事に行くたびに「今日は、何時に帰ってくるの?」と聞いていました。
「今日は遅くなるから、先に寝ちゃってるよ」って僕が言ったり、「今日は早いから、おみやげ買って帰るよ」って父が答えたりして、父が帰ってくるのをすごく楽しみにしていましたね。
イベントや吹替えの仕事は日曜日に行われることが多くて、なかなか休みがとれないんですけど、父はなるべく休んで僕たちを遊びに連れていってくれました。
―お父さまが声を担当するアニメは見ていたんですか?
よく見ていました。当時は父から収録の終わった台本をもらうことが出来たので、その台本を片手にテレビを見ていました。
今と違って昔の台本は売れるようなものじゃなく、ゴミ箱に捨てたり古紙として回収したり、もっとライトに扱われていましたからね。
アニメでは、父と親しい声優の方々とは子どもの頃から何度もお会いする機会があったので、たとえばテレビでアニメを見ていても声を聞いて「ああ古谷徹さんだ!」とか「古川登志夫さんだ!」とか、キャラクターというよりもまず中の人が頭に浮かんで、キャラクターのその先にいる役者さんたちに意識がいっていたかもしれません。
一度、父に『Dr.スランプ アラレちゃん』が大好きだって話したら、則巻千兵衛役の内海賢二さんが「おお! 健児かあ、元気かあ」って、お電話してきてくれたことがあったんです。
でもその時は、千兵衛さんと話しているんですけどそれとは違うそのキャラクターの先にいる「人間」をすごく感じたんです。そこでアニメはこんなに温かい人達がやっているんだって感動しました。きっと内海さんは千兵衛さんとして、子どもの僕に電話をかけてくださっていたのですが、子どもながらも僕はその2次元のキャラクターの千兵衛さんと喋っている感覚というより、役者の内海さんという存在を強く感じて、そこにドキドキしていましたね。
なので、もしかしたら僕は声優という職業は他の子より早く認識していたと思います。
声だけで演技するからこそ無限に広がる可能性
―声優になりたいと思ったのはいつ頃ですか?
実は声優は目指してなかったんですよね。
舞台だったり映画だったりに出るような、役者になりたかったんです。
なんせ、もともと目立ちたがり屋だったんですよ。
人前に出るのは恥ずかしくて緊張しちゃうんですけど、それでもみんなの前に出たくて、子どもの頃から自分で台本を書いて近所の子どもたち集めて芝居をしたりしていました。
ずーっと演技に触れる遊びをしてきて、その延長線上で役者をやりたいなって思っていたんです。
それである時、父に「俳優やりたいんだけど、親父の力で映画の主役できないか?」って相談したんですよ。そしたら「そんな簡単にできるわけねぇだろ、バカ野郎!」って言われました(笑)
まずは演技について勉強しなさいってことで、スタニスラフスキーの演技論(※)全何巻っていう難しそうな本をバンって渡されて…。もちろん、そのまま本棚に戻しましたけど(笑)
注:ロシアの俳優・演出家 コンスタンチン・スタニラフスキーが提唱した演技理論。20世紀の演劇人に多大な影響を与えた
親にしてみれば子ども時代は子どもらしく遊んでもらいたいと思ってたみたいで、役者に向けてのゴーサインはなかなか出してくれなったんです。
18歳になった時にもう大丈夫だろうと思って、再び親父に相談してOKをもらい、父オススメの養成所のパンフレットをもらって試験を受けたんですね。
それが今も所属している青二プロダクションの付属の養成所なんですけど、パンフには俳優養成所って書いてあったんで、当時は声優の養成所だって知らずに入ったんです(笑)
そもそも声優って、昔は顔出しの役者さんたちがアルバイト感覚で行っていたらしいんですよ。父も最終的には声優に落ち着きましたけど、もともとは俳優活動をして、舞台やテレビに出ていました。
なので、青二の養成所では、基本中の基本であるお芝居を大事にしていて、舞台、ダンス、日舞、歌の稽古っていうのはあるんですけど、声優に特化したカリキュラムが一切なかったんです…、だからしばらく気付かなくって。
でも、みんなアニメや戦隊モノの話ばかりをしていたのでおかしいなと思って「ここって俳優養成所じゃないの?」って、周りに聞いてみたんですよね。
そしたら「青二プロダクションは、声優の事務所だよ」って言われて、そこで初めて自分が声優の養成所に入ったことを知ったんです。(おい、親父ぃ…!)ってなりました(笑)
その時はなんで?って思ってたんですけど、親父は親父なりに僕の適性を見ていたんじゃないかな。あとは、青二プロダクションの今の社長とも親しかったので、自分の手の届く範囲で役者を目指してほしかったのかもしれませんね。
―もともと俳優志望でしたが、声優になって良かったと思いますか?
その後、養成所を卒業して無事に青二プロダクションに入って、お仕事として声優をすることになりました。
それまでは役者を目指していたのであまり声優に詳しくなくて、最初はどういう仕事なんだろうって興味を持ちながらはじめたんです。
父があれだけ楽しそうにしている仕事はどんなだろう?って、他の人とは違った気持ちで取り組んでいきました。
いざ仕事をしてみると、声だけの演技って制限されているように見えて、無限大の可能性や表現の広がりがあることに気付いたんです。
特にどの作品で気付いたというわけではないですが、一つ一つ役を作り上げていくごとにこれは深い世界だなって実感していきましたね。
強く憧れ続けて、声優になりたくてなったものじゃないけど、すごく自分に向いてたなって。
今も「ああ、声優になってよかったな!」って思える時がたくさんあります。
脇役こそ人間力が試されるテクニカルな仕事
―お父さんと同じ声優の道を歩まれた野島さんですが、子どもの頃はお父さんと仕事について話したことはありますか?
父もいろいろなアニメで声優をしていたのですが、ヒーローものに出ることも多かったんです。でも、レッド、ブルー、イエローっていると、父のポジションはだいたいイエロー。5人いたらグリーンなんですよ。
僕がもし父と同じ職業に就いたら絶対にレッドかブルーがいいと思っていたので、よく小さい頃は「なんで、古谷さんみたいにレッドとかブルーじゃないの?」って親父に聞いていましたね。今思えば、その頃からなんとなく、役者になりたい意識はあったのかもしれないです。
でも父は「グリーンやイエローは楽しいんだよ」って言うんです。
当時の僕としては、グリーンやイエローのどこがどう楽しいか全然わからなかったんです。でも、いざ仕事に就いてみると、確かにレッドやブルーは絶対キャラクターを壊しちゃいけない分、制約がものすごく多い。いい意味でキャラクターを裏切ってはいけないっていう緊張感だったり、責任感だったりがあるんです。
一方で、イエローやグリーンは自由にやってくださいって役が多くて、実はすごくテクニカルで役者の人間力にかかってるんですね。
そういった意味でやりがいや楽しさは、確かにイエローやグリーンにはあるなって声優になってから感じました。
次回は幼少期を過ごした大分でのエピソードやアルバイトに対する思いを語っていただきます。どうぞお楽しみに!
野島健児 Nojima Kenji
東京都出身。主な出演アニメ作品は『PSYCHO-PASS サイコパス』(宜野座伸元役)など。最近の出演作品に『干物妹!うまるちゃん』(土間タイヘイ役)、『クズの本懐』(鐘井鳴海役)などがある。2017年10月からは、『干物妹!うまるちゃんR』が放送予定。
撮影: 佐藤航嗣 ヘアメイク:佐茂朱美 取材:舟崎泉美
撮影地: Peche
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