幸樹(ダウト)インタビュー『人を楽しませたい気持ちが強い。それはバイト時代からあった』【俺達の仕事論vol.1】
今年結成10周年を迎えるロックバンド“ダウト”のボーカリスト幸樹(こうき)。自分の世界を広げるために好奇心をもって取り組んでいたというバイト経験や、音楽活動を始めた時の話を聞きました。バンドを始める前は高校球児として、甲子園を目指していたなど、意外な一面もうかがい知ることができました。
上京して3年で挫折。地元に戻る直前に今のメンバーと出会った
――今年はダウト結成10周年という節目を迎えられますが、幸樹さんにとってこの10年はどんな年でしたか?
人との出会いによって、さまざまなことがもたらされた10年だったと思います。最初の頃はバンド活動を数年やって、結果が出なかったら地元に帰って税理士を目指そうと思っていたんです。実際に最初の3年くらいはバンドがうまくいかなくて一度は音楽を辞める決意をしたんです。それで地元に帰るちょうど一週間前に知人の紹介で、今のメンバーと出会いました。
それからダウトを始めて、気付いたら今年で10年経っていて……。こうやって10年も一緒に続けられる仲間に出会えることって、なかなかないと思うんですよ。
――運命的なものを感じますね。
そうですね。あの時から10年間ダウトの幸樹として僕が存在できたのは、ファンとの出会いや、協力してくださるスタッフの方がいたから。改めて人と人とのつながりってすごく大事だと感じますね。
大人の世界が見てみたいと思って始めた運送のバイト
――では、これまでのバイト経験を教えてください。初めてバイトをしたのはいつですか?
高校3年の時です。僕、高校球児だったんですよ。ピッチャーで3番! 本気で甲子園を目指していたんですけど、1回戦で早々に負けてしまったので、心にぽっかり空いた穴と時間を埋めるために、バイトでもしようかなと思ったんです。正直、最初は単なる好奇心でしたね。ずっと野球に専念してきたので、一度外の景色、自分が知らない大人の世界を見てみたくて社会勉強のために1ヵ月間だけやろうと決めました。
それで、運送会社の仕分けを始めたんですが、すべてが新鮮で、楽しくて、気付いたらそのまま続けていました。普段まじわることのなかった大人の人たちと話すのが楽しかったし、その中にいると、自分もすごく大人になった気分になれて。
そして、何より嬉しかったのが、初めてもらった給料。その時は7万円くらいだったんですけど、1ヵ月頑張った成果を形としてもらえたのが嬉しかった。その記憶は今でも忘れられないです。運送の仕事の後も、パソコンで経理関係のデータ入力のバイトとか、パチンコ店、甲子園の売り子、着ぐるみ、ピザの配達、引っ越しと、バイトはたくさんしましたね。
――そのなかで長く続いたバイトはどれですか?
パソコンのデータ入力とピザの配達です。
――意外な組み合わせですね。打ち込みの仕事を選んだキッカケはなんだったんでしょうか?
大学生の時に親からパソコンを買ってもらったんですけど、使い方がわからなくて、ずっとパソコンは眠ったままの状態だったんです。最初は覚えるために教室に通ったんですけど、習うよりも実践で培ったほうがいいなと思って、すぐにアルバイトの募集をみつけて働きました。そこで3年ほど働いたおかげで、僕ブラインドタッチがめちゃくちゃ早いんですよ(笑)。
その流れで、パソコンのシステムも徐々に理解できるようになりました。今は、音楽制作にPCは不可欠ですし、PhotoshopやIllustratorを使えるようになって、バンドに関わるアートワークにも表現の幅が広がっているし、バンド活動にも生かされています。
人を喜ばせたい気持ちが強い。音楽でもバイトでもそうだった
――バイトを通して自分の可能性を広げていますね。ちなみにバイト選びのポイントは?
バンドを始めてからは、ヴィジュアル系ということもあって髪の毛の色が派手になっていたので、髪型の規定があるところは最初から諦めていましたね。バンドを続けていくためのバイトだったから、髪型をバイトのほうに合わせたら意味がないし(笑)。
それ以外に選んでいた基準は、まず自分が楽しめそうかどうか。いくら時給がよくても自分がつまらないと思ったら続かないですからね。
――とはいえ、楽しいことばかりではないと思うのですが。
もちろんしんどいこともたくさんありましたけど、そもそも僕は人を喜ばせることが好きなんだと思うんです。どうしたら相手が喜んでくれるか、仕事の効率をあげられるか、何かしら自分で課題を作って取り組んでいました。たとえばピザの配達だったら、なるべく早く持っていってお客さんの喜ぶ顔を見たいとか(笑)。そのほうが仕事にも張り合いが出るんですよね。
今はバンドや音楽で人を楽しませたいと思っていますけど、人を喜ばせるのが張り合いという思いは、音楽活動だけではなく、バイト時代にも共通してるし、自分が本質的に求めていることなんだと思います。
—―—音楽とバイトの両立は大変じゃなかったですか?
逆に、何をやるにしても大変じゃないことのほうが少ないと思うんですよ。でも、大変だからこそものごとが上手くいった時に旨味を感じるし、楽しいって感じられる。バンドだけで食べていけるようになってバイトは辞めてしまいましたけど、いろんな経験ができたのは貴重だと思います。
人生は100%思い通りにはならない。でも必ず次につながる
――ダウトを続けている一番の原動力、音楽を続ける理由は?
理想とする“未来の自分たちの姿”ですね。このバンドを始めた時に自分が描いたビジョンがあるんです。途中で投げたら後々絶対後悔するから、本当に自分がやりきったと思うまでは続けたい。とはいえ、人生って、100%自分の思い通りにはならないじゃないですか。だから時に、思ったように事が進まなくとも、それは失敗ではなくて、単なる通過点の結果であって、100%に到達させようとする活力、そこまでどう立ち向かえたかが大事だと思うんです。
何事においても僕は失敗ってないと思うんですよね。たとえば、ライヴハウスを満員にできなかったとする。でも、そのライヴに取り組んだ事実はなくならないし、次にどうするか作戦を練ればいいと思うんです。
チャンスは一度じゃない、たくさん訪れるもの
――なにごとも前向きに取り組まれていますが、失敗を恐れて、前に進めないことはありませんか?
バンドの後輩たちを見ていても、諦めるのが早いなと思うんですよ。気持ちはわかるんですけど、何かを捨てる前に、もう1度、目線を変えて、違った方法でチャレンジしてみてもいいんじゃないかと思うんですね。僕は何かが起きた時に、人のせいにする前に自分を磨けっていう発想に切り替えようとは思っています。
僕もバンドをスタートしたばかりの頃は……って、自分で言いながらかなりの大御所バンドみたいですけど(笑)、何も進んでいない焦りはあったし、そういう時って自分や、人のせいにしちゃっていたんですよ。でも、後から振り返ると悩みもがいている時って、止まっているようでも、じつは進んでいるんですよね。
よく“チャンスは1度だけ”っていう言葉があるけど、チャンスはもっとたくさんある!……ということを、このバンドをやって思えるようになりました。僕なんてプロ野球選手から税理士の夢を経て、バンドですからね。坊主からコテコテのヴィジュアル系ですから(笑)。
だから、焦らずに……っていったら語弊があるのかもしれないけど、1回失敗したからって、それで終わりではなく、何度でもやり直せるので、ずっと好奇心は持ち続けていたいですね。
――2017年はダウトの活動もさらに活発化しますが、この先も幸樹さんの挑戦は止まらないようですね。
これを読んで、少しでも僕やダウトの音楽に興味をもってくださった方は、3月4日に上野水上野外音楽堂でフリー(無料)ライヴが行われるので、気軽に足を運んでいただけたらと思います。その際には、みなさんの背中をちょっとでも押せるものが見せられるかなと思いますし、もしかしたら、設営のバイトをされている方は、その日に会えるかもしれないですね。
その時は、これを読みましたって言ってくだされば、楽屋からお茶でも差し入れさせていただきますので(笑)。
幸樹(kouki)
ロックバンドダウトのボーカリスト。2007年結成のダウトはロックというジャンルだけにとどまらず演歌や、歌謡曲など日本人の琴線に響くような独自の音楽を表現している。2012年にリリースした4枚目のシングル『中距離恋愛』では、ヴィジュアル系初のご当地歌謡シングルとして、 オリコンシングルチャート演歌歌謡チャート1位、総合チャートでも12位を記録。また、5枚目のシングル『恋アバき、雨ザラし』では過去最高位となる、週間シングルランキング10位を記録した。今年は、バンド結成10周年を迎える。
◆ダウトOFFICIAL SITE:http://www.d-out.info/
◆幸樹公式Twitter:@kouki_d_out
◆幸樹LINE BLOG:http://lineblog.me/d_out_kouki
企画・編集:ぽっくんワールド企画 取材・文:星野彩乃 撮影:青木早霞