猟牙(RAZOR)インタビュー『様々な世界や人に触れることで人生が豊かになる』【俺達の仕事論vol.39】
2018年11月に結成2周年を迎えたRAZOR。ステージ上でのエモーショナルなヴォーカルスタイルとは打ってかわり、気遣い溢れる猟牙さんのバイトエピソードを伺いました。大人との接し方や、物事を楽しむための方法論が凝縮されたインタビューです。
初めての社会経験は、上司の当たり前の一言でさえ厳しく感じた
——初めてのバイトを教えてください
「16歳の時に、地元のデパートの中にあるスーパーで、野菜とかお肉の品出し(陳列)をするバイトをしました。高校には行っていなかったので、朝7時から昼過ぎまでバイトをしつつ、バンドを始めるためのメンバー探しをしていた時期ですね」
——バイトが初めての社会経験になるわけですがどうでしたか?
「そうですね。本当に何も分からなかったから、それこそ上司の一言が厳しく感じたり。『それそこじゃないよ!』とか『ちんたら歩かない!』とか、普通のことなんだけど、生活態度もなおされて“あぁ、俺ダラダラ生きてきたんだなぁ”って。でも、そこでは同じ職場のおばちゃんたちに可愛がってもらいました。もともとおばあちゃん子だったし、親せきとも仲が良かったから、大人と接することに抵抗はなくて、アドバイスにも素直に『はい!』って言えたり、『これどうするんですか?』『これなんですか?』って気になることは純粋に聞きまくっていましたね」
同じことをするなら楽しまないと損。そのためには自分から意識を変えていく
——バイト先にはすぐに馴染めていたんですね。
「それでも最初は緊張もあってぎこちなかったと思いますよ。でも、ある時“よし楽しもう!”って意識を変えてみたんです。明るく挨拶したり積極的に話しかけたりしていたら、上司とも徐々に話せるようになりました。その上司には、商品を陳列するときに『君なりにどうしたら売れるか並べてごらん』って言われて、やってみたら『いいね』って言ってもらったり。仕事は厳しいけど、ちゃんと俺らの目線にも立ってくれる人でしたね。『お前楽しそうだな』って言われたのも記憶に残っています」
——実際に楽しかったんでしょうか?
「周りの人たちも楽しそうに作業していたから、それを見て“同じことをするにしても楽しまないと損だな”と思って。ヒマだと時計ばっかり見て“まだ終わらないんだ”ってなりがちだけど、没頭していると時間が経つのが早いんですよね。なので、最初は意識的に夢中になるようにしていました」
——そんななかでも“苦手だな”と思うことはありましたか?
「お客さんが近くにいると『いらっしゃいませ』って声がけをしないといけないんですけど、それだけは照れ臭くて苦手でした。でも開き直って思いっきり『いらっしゃいませぇい!』って言いまくってみたら、周りの人たちも『元気いいねぇ』って笑ってくれて“これでいいんだ!”って」
生活に必要な知識も自然と身についた
——実践することは大事ですね。逆に好きだった作業はありますか?
「スーパーでは品出し以外にも、調理用の玉ねぎの皮をむいたり、ジャガイモの芽をとったりっていう作業があったんですけど、そういうチマチマしたことが楽しくて意外と好きでした(笑)。自分で作業した後、先輩にチェックしてもらうんですけど、奥の方に残っている芽もしっかり取るように指示されて“ここまでとらなきゃいけないんだ!”とか、生活に必要な知識も自然と身につきました」
——その後は、徐々にバンド活動がメインになっていくのでしょうか?
「最初の頃は、スタジオに少し入るくらいだったんですけど、先輩バンドのローディー(お手伝い)をするようになってから、地方のツアーへの同行が増えていきました。そうすると、数週間バイトに穴を開けてしまうことになるので、1年半くらいでスーパーのバイトは辞めました。その後は、昔からよく家族で行っていたラーメン店の店長が声をかけてくれたので、そこで働かせてもらって。オーダーをとったり、頭にタオルを巻いてラーメンとかレバニラ炒めを作っていましたよ(笑)」
——猟牙さんは、なんでも出来ちゃうタイプですか?
「そんなことないですよ。レジでミスしてテンパって『あっ、ちょっちょっちょ店長!』とか。もう焦ってるの丸出しでしたから(笑)」
引っ越し作業は、手袋の性能が大事! それは身をもって学びました(笑)
——不器用なところもあって安心しました(笑)。ラーメン店は、どれくらい続けたんでしょうか?
「2年弱くらいかな。その後は、さらに時間に融通がきく派遣に登録しました。工場の流れ作業とか、引っ越し業、宅配便の助手とか、冷凍工場の仕分けとか、本当にいろんな経験をさせてもらえて楽しかったです」
——お話を聞くと、良い思い出のほうが多そうですね。
「そうですね。でも“いま思うと”ですけどね。やっている最中は、やっぱり“こんなことしてないで早くバンドだけで食べていきたいな”と思っていましたよ。あっ、でも1つ辛かった経験を思い出しました。お弁当の具材を詰める流れ作業は、ひたすら同じことを繰り返すのが性に合わなかったらしくて。曲とかバンドのことを考えながらやってはいるんですけど、そこは唯一“早く終わらないかなぁ”って思っちゃっていましたね(苦笑)。あともう一つあげるなら、引っ越し作業の時に洗濯機を階段で運ぶのがきつかったくらい。ちなみに、引っ越し業での手袋の性能は重要でした(笑)」
——手袋の性能というと?
「手袋は自分で用意しないといけなかったんですけど、最初はただの軍手で行ったんですよ。そしたらすべっちゃって何もできなくて。先輩にも『そんな軍手してるからだよ!』って怒られつつ“確かにな”と。それで、滑り止め付きの軍手を買ったんですけど、それからは“なんのためにそれが必要なのか”とか、“なんのための作業なのか”を考えるようにもなりました」
——ちなみに、当時のバイト代は、ほぼ音楽活動に費やしていたんでしょうか?
「そうですね。最初の頃は自主活動だったから、全部自分たちでやるわけですよ。CDを出すのもお金がかかるし、ライヴをするのもノルマがあるし、フライヤーや衣装を作ったり、メイクさんを雇ったり、活動するほどにお金が減っていくから、まったく貯まることもなく……」
——もし、お金があったらバイトはしていませんでしたか?
「音楽だけに打ち込めるのは嬉しいけど、それだと視野が狭くなってしまったと思うから、やっぱりバイトでの経験は自分にとって必要なことだったとは思います」
社長の一言『今はこの時間を一生懸命に使いなさい』に感銘をうけた
——では、バイトを通して学んだことは?
「常識を知れたこと。無愛想はダメだとか、わからないことはちゃんと聞くとか、どれも普通のことなんだけど、身をもって感じるとまた違いますよね。それと、いろんな世界に触れられたのは大きかったです」
——具体的に印象に残っているエピソードはありますか?
「スーパーで働いていた時に、床掃除をしていたら、社長に『もっとグッと心をこめて拭きなさい』って言われたんです。その人は俺がバンドをやっていることを知っていたんですけど、『君は今ちんたら掃除をしてるけど、同じように音楽をやってても誰もよろこばないだろ。君は音楽がやりたいのかもしれないけど、今は与えられた仕事として、この時間を一生懸命に使いなさい』って言われて。どの仕事にも真剣に向き合うべきだっていうことがわかったし、“この人いいこと言うな”って(笑)。すごく説得力があったんですよね。いろんな立場や視点で物事を見ることを教わった気がしました。
一生懸命に打ち込んでいたら、いつの間にか身近な人が味方になってくれる
——どんなことにも一生懸命向き合うことの大切さですね。
「そうですね。それと、夢を追いかけている人ばかりが頑張っているわけじゃなくて、職種が違ってもみんながそれぞれの環境で一生懸命に働いている。それを上司や、職場の方たちの姿を見て感じられたのは、本当にバイトをしたからこそだと思います。バンドって、すごく自由に見えるけど正解がないぶん悩むこともあるんです。だけど、本気で向き合っていたら、きっとそれは伝わるっていうことを信じるキッカケにもなりました」
——では最後にこれからバイトを始める人にアドバイスをお願いします。
「どんな仕事であれ、適当にやっていたら何も手には入らないと思うので、できる範囲で自分なりの責任感をもって取り組んでほしいです。一生懸命にやっていれば、意外と身近な人が味方になってくれたりするし、仕事を認めてもらえたら、自分のモチベーションもあがって自然と期待に応えたくなるだろうし。経験や出会いのすべてが人生を豊かにしてくれると思うので、何事も楽しみながら向き合ってみてください!」
猟牙(りょうが)
2016年にヴォーカルの猟牙、ギターの剣を中心にRAZOR(レザー)を結成。ラウドな楽曲から、エモーショナルなバラードまで、ジャンルにとらわれない多様な楽曲と、猟牙の描く独自の歌詞が魅力。
◆RAZOR OFFICIAL SITE:http://razor-web.jp/
◆猟牙 Official Twitter:@Ryoga_britannia
企画・編集:ぽっくんワールド企画
取材・文:原千夏
撮影:青木早霞(PROGRESS-M)
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。