ヨビノリたくみpresents・バイト先に隠れている数学「ポアソン過程」
YouTubeで大学レベルの物理・数学について分かりやすく講義をする“予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」”というチャンネルを運営しているヨビノリたくみさん。今回はバイト先に隠れている数式ということで、たくみさんが学生の頃に飲食店でバイトをしていた経験をもとに、ポアソン過程について講義していただきました。
1時間でお客さんは何人来るか
――バイト先に実は数式が隠れているということで、今回は“ポアソン過程”について、数学が苦手な人でもわかるように解説していただきたいと思っております。まず、ざっくり言うと“ポアソン過程”とはどういうものなのでしょうか?
自分も高校生のときに飲食店でバイトをしていたんですけど、1時間でどのくらいお客さんが来るのか、お客さんが来ないことってあるのか、っていうことがいつも気になっていて。そういうランダムに起こる事象を考える際に現れるのが“ポアソン過程”です。
――そう聞くと、ハードルがだいぶ低くなる気がします。
これを知っていて役に立つかどうかは置いておいて(笑)、働いている中で実はそこに数学があるんだ、っていうことを実感できる楽しさはあると思います。では、早速数式を書いていきます。
平均来店数「λ」と実際の来店数「k」を数式にあてはめると、確率が分かる
いきなり難解な数式が出てきてびっくりされるかもしれませんが、今からゆっくり説明するので安心してください(笑)。まず単位時間あたり平均「λ(ラムダ)」回起こる事象がちょうど「k」回起こる確率「P」を表すのが、この式。たとえば、1時間に平均λ人が来るお店に、k人来る確率が知りたかったら、それぞれに数字を入れてあげればいいんです。
――「e」と「!」は、どういう記号なのでしょうか。
「e」は高校の数学Ⅲで習うネイピア数というもので、2.71828….という無限に続く数字です。3.14159…と無限に続く円周率をπと表すように、ネイピア数はeと表します。
「!」は階乗を表す記号。階乗とは1 からある数までの連続する整数の積のことで、仮にκを3とすると3!=3×2×1=6という計算式になって答えは6になります。4とすると4!=4×3×2×1=24となります。
それから、みなさんがもっとも謎に思うであろう、分子の説明もしましょう。λのk乗は、たとえば3の2乗=9のように、λをk回掛けましょうという意味です。また、eの-λ乗のように累乗に“-”がつくと、逆数という意味になります。たとえば分子に3の-2乗とあれば、分母に3の2乗を持っていきます。
忙しくなる確率や暇になる確率も計算できる
――ひとつひとつ解説していただくと、数学に対して苦手意識があってもすんなり飲み込めます。
そう感じていただけたならよかったです。では、あるこじんまりした雰囲気のいい喫茶店があって、そこで僕がバイトをしていたとします。そのお店には、1時間に平均5人のお客さんが来るとします。そこで僕がシフトに入っている、ある1時間にちょうど3人のお客さんが来る確率を求めてみましょう。
まず分母から計算すると、3!=3×2×1=6ですね。そして、分子のeの-5乗は2.718の5乗=148.33(小数点第3位以下切り捨て)として分母に持っていって、もともとあった3!=6にかけると、小数点以下四捨五入で890になります。分子は5の3乗ですから5×5×5=125となり、890分の125=0.14という答えが出ます。これをパーセントにするには100をかけて、1時間に3人のお客さんが来る確率は約14パーセントになります。
――この数式を知っていたら、短時間で確率が求められるのですね。
そうなんですよ。ちなみに、僕が高校生のときに働いていた飲食店には、平均して1時間に10人くらいお客さんが来たんですけど、1時間にひとりもお客さんが来ない確率、感覚的にどのくらいになると思いますか?
――2パーセントくらいですかね……。
なるほど。なんとなくそのぐらいの気もしますが、とりあえず計算してみましょうか。
――0!や10の0乗は、0になるのでしょうか。
そう思われるでしょうが、実は0!も10の0乗も数学では1として扱います。そして、この式を計算すると答えは約0.00005になるので、これをパーセントに変換するために100を掛けると0.005%になります。お客さんがひとりも来ない確率は0.5%しかないので、絶対にレジを離れるべきではないということがわかりますね(笑)。
ほかにも、たとえば1年で平均5個の不良品が出てしまう機械で、1年にちょうど3個の不良品が出てしまう確率を求めることができたりとか……。
――その場合、数式②と同じ式になりますから、14パーセントになりますよね。
そうです。ほかにも、不良品が11個以上出てしまう確率もわかるんですよ。サイコロで考えると、6の目が出ない確率は、6の目が出る確率6分の1を1から引いた6分の5。これを当てはめて、1年で1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の不良品が出る確率を全部足して、1から引けばいいんです。
さきほど例に出した、平均して1時間に10人お客さんが来るお店に11人以上くる確率も、同じ考え方で求められます。単位時間は1分、1時間、1日、1か月、1年といろいろ当てはめられますからね、平均値がわかっていてこの“ポアソン過程”の数式さえ知っていれば、状況に合わせていろいろと応用もできるんですよ。
――“ポアソン過程”の数式を知った上でバイトをすると、見え方も変わりそうです。
コンビニだったらお茶が1時間に○本売れる確率、飲食店だったらあるメニューが1時間に○回オーダーがある確率なんかがわかったら、きっと仕事が楽しくなります。
ほかにも、自分的に素敵だなと思う人が1時間に○回来る確率、有名人が1か月に○回来る確率なんかを出してみたら、気分が高まったりもするんじゃないでしょうか(笑)。
ヨビノリたくみ
教育系YouTuber、フリーランス数学講師。東京大学大学院卒業。博士課程進学とともに6年続けた予備校講師を辞め、科学のアウトリーチ活動の一環としてYouTubeチャンネル予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」の創設を決意。今では登録者48万人(令和2年7月現在)を超える人気YouTubeチャンネルとなっている。
東大院卒/元学術振興会特別研究員(DC1)/元予備校講師/現YouTuber
◆OFFICIAL Site:https://yobinori.jp/
◆OFFICIAL YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCqmWJJolqAgjIdLqK3zD1QQ
◆OFFICIAL Twitter:@yobinori
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◆note:https://note.com/yobinori
■書籍情報
■難しい数式はまったくわかりませんが、相対性理論を教えてください!
1540円(税込)
SBクリエイティブ 刊
■難しい数式はまったくわかりませんが、微分積分を教えてください!
1540円(税込)
SBクリエイティブ 刊
編集:ぽっくんワールド企画 撮影:内藤恵美 取材:杉江優花