QuizKnock・伊沢拓司&鶴崎修功 Presents「僕たちの読書スタンス」
良書と出合うには、信頼できる人に聞くのは一番てっとり早い
――クイズプレイヤーという仕事柄、本を読む機会は多いと思うのですが、正直なところ本って好きですか?
鶴崎 好きですね。ただ、僕は物語が読めないんですよ。ハリーポッターを読むのに1年かかったので。おもしろいとは思うんですけど、少し読んで「あとは明日読もう」と思うと、なかなかその明日が来ず、そのうちそれまで読んだ物語を忘れていき、登場人物を忘れていき…。
伊沢 それでもよく1年かけて読み切ったな。その「明日」のタイミングが気になるところだわ(笑)。
鶴崎 僕にとって読書は“勉強したいときに参照として読むもの”なんですよ。大学で数学を学んでいるから数学書を読んだり、クイズを作るためにクイズ本を読んだり。でも『東大王』は普通のクイズとは違うので、クイズ本よりも世界遺産とか漢字の本を読んだりすることが多いです。自宅の本棚は3/4が実用書かデータベースですし。
伊沢 わかるわかる。僕も物語より実用書派。最近、読んでおもしろかった実用書は?
鶴崎 『すべてがわかる 世界遺産大辞典』シリーズ。世界遺産検定の公式テキストなんですけど、いわゆる教科書なので、何の知識がなくても読み進んでいくうちに理解できるようなつくりになっていてとてもわかりやすい。最初に地図を見せて、どこにどんな世界遺産があるかが網羅でき、そこから気になった遺産のページに飛んで見ると概要が詳しく書いてあるんです。
ビジュアルもキレイですし、歴史、地理、芸術の知識が身に付くから読んでいてすごく楽しい。『東大王』をやっていなければ読んでいなかったと思うけれど、世界遺産以外の勉強にも役立つので重宝しています。
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すべてがわかる世界遺産大事典<上><第2版> 世界遺産検定1級公式テキスト
世界遺産検定事務局 著/編集
マイナビ出版 刊
3575円(税込) ※第2版は2020年3月18日発売
https://www.amazon.co.jp/dp/483997179X
伊沢 教科書的な本は勉強をするようにつくられているから内容がかなり練られていておもしろいよね。
――世界遺産の本はたくさんあると思いますが、鶴崎さんが本を選ぶポイントって何でしょうか?
鶴崎 人に聞くことですね。たとえば、世界遺産の本を読みたいと思ったら、その道に詳しい人に「何がオススメ?」と聞く。専門書ってたくさんあって何がいいか迷いがちですから、精通している人が「読んでよかった」と思えるものを聞くのが、間違いがなくててっとり早く良書を見つけられます。
伊沢 ホント、そう思う。テキストでのオススメはおもしろい反面、たまに間違っているものもあるから、実際に読んでみた人からのオススメは信用できるし。
鶴崎 最近、数学科の友達から『ノンデザイナーズ・デザインブック』という本を薦められて。デザイナーではない人向けのデザイン本で、素人でもわかりやすいデザインの基本が書かれているんです。刊行されて21年経っているけど、まだ刷られているぐらい定番人気の本なんですよ。
伊沢 定番で何年も刷り続けられている本も信用できるよね。多くの人がその本を選んで参考にしているわけだから。
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ノンデザイナーズ・デザインブック
Robin Williams 著、 米谷テツヤ 監修/翻訳、小原司 監修/翻訳、吉川典秀 翻訳
マイナビ出版 刊
2398円(税込)
https://www.amazon.co.jp/dp/4839955557
知識と理解度をより深めるには、連鎖型読書がオススメ
――伊沢さんの本の選び方のポイントも気になります。
伊沢 僕は連鎖していく読書(※)が楽しいと思っているんですよ。そうすると、1つのジャンルに対しての知識が深まるし、視野も広がるからオススメの読み方。
※連鎖型の読書とは…同じ著者や同じジャンルなど関連するテーマの本をどんどん読んでいくこと。
たとえば、好きな本に哲学者の永井均さんが書いた『子どものための哲学対話』という本があるんですが、これは子どもと猫が対話形式で様々な常識を「これはこう信じられているけれどなんで?」と別の観点から見ていく内容で、小学生や中学生の哲学の入門書としてぴったり。
この応用編ともいえる本が、小説家の京極夏彦さんが現代の問題を独特な視点で語る『地獄の楽しみ方 17歳の特別教室』。シリーズではないのですが、両書とも固定観念とどうつきあうかが自分の生き方につながっていくかというテーマが根底にあって、2冊読むことで理解度がより深められる。学生向けではありますが、大人が読んでも十分に楽しめます。
鶴崎 連鎖読書はいいですね。読んでいる本の参考文献として出ている本を読んだりするのも楽しいですし。
伊沢 僕は小学生の頃に講談社の火の鳥文庫という子ども向けの伝記シリーズにハマって、その後『プロジェクトX』のルポ版を読んで……という感じでノンフィクションにハマっていったので。中学生のときは音楽が大好きになったから、好きなミュージシャンのエッセイ本を読み漁っていた。大槻ケンヂさんや中島らもさんとか。中学時代は大槻ケンヂチルドレンだったから……。
鶴崎 中学生で大槻ケンヂチルドレンですか(笑)。
解決策が見つからない「本の置き場問題」
――お2人は読書は紙と電子書籍、どちら派ですか?
鶴崎 最近は電子書籍ですね。最初は抵抗があったんですけど、勉強で使うときにパソコン上で書面をコピーしたり、キャプチャを切り取って自分でまとめたりできるので。あとは、自宅が本で埋め尽くされてきたので、これ以上増やせないという現実的な悩みもあり…。
伊沢 切実だよね、本の置き場問題。ウチも本が入ったダンボールが大量にあって、玄関開けるとダンボールで靴箱が開かないっていう(笑)。本は売れないし、捨てられないタイプなんだよ。たまに「あの本読みたい!」ってなるじゃん。そういうときって、大体「今すぐ」読みたかったりするから、一度読んだ本も手離せなくて。
鶴崎 伊沢さんは大量の本、実際どうしてます? 僕は引っ越しを考えているレベルですよ。
伊沢 僕は実家に送っちゃう。あとはオフィスに置いて周りに嫌がられている(笑)。と、いうぐらい紙派なんですよね。2対8の割合ぐらいで紙。
スマホでは得られないビジュアル訴求とスピード感が雑誌の魅力
――紙の本ならではの良さってどんなところですか?
伊沢 雑誌が好きで、サッカー雑誌は毎月2、3誌買っているし、週刊誌も読むし、『ユリイカ』『BRUTUS』『GALAC』は結構チェックしている。最近だと『Spectator』というカルチャー雑誌で日本のヒッピームーヴメントの特集をしていておもしろいなと。雑誌ってスマホ画面ではハンドリングできないサイズのビジュアルで訴求してくるから楽しいし、そのときに特集している識者が今何を考えているかがわかるスピード感が魅力なんだよね。noteにはない利便性を感じる。
――伊沢さんって月、何冊ぐらい本を読んでいるんですか?
伊沢 あちこちバラバラ読みなんで、読破しているのは5冊ぐらいですかね。でも、購入している金額は3万円ぐらい使っているかも。
鶴崎 すごいですね。僕は月0.2冊とか。専門書やテキストが多いので世界遺産の本も読み終わるまであと4ヶ月ぐらいかかりそうだし、今読んでいる漢検や資格関連の本も3ヵ月以上はかかりそう。
伊沢 本って「読んだ本の冊数」ではなくて「読んだ本の情報をどれだけ身に付けた」かだと思うんだよ。本から吸い上げた情報量が大切で。だから鶴崎みたいに冊数は少なくても、知識が自分の身になっていれば、すごく良い読書法だと思う。
かさ張るとわかっていても漫画は紙で読みたい!
――活字だけでなく漫画も読みますか?
伊沢 読みます! 最近読んでおもしろかったのは夢枕獏さん原作、谷口ジローさんが絵を描いている『神々の山嶺』。山岳漫画なんですけど、おもしろすぎて一気読みしました。
鶴崎 僕は昔から少年漫画にはそこまでハマらなかったんですけど、少女漫画は大学2年のころにクイズで問題をやったことがきっかけでハマりました。少女漫画の世界観や背景が好きなんですよ。漫画誌だと『花とゆめ』『Kiss』を読んでいて、好きなのは樋口橘先生の『学園アリス』や志村貴子先生の作品ですね。
伊沢 僕も高校生のときに高屋奈月の『フルーツバスケット』を一気に読んだな。漫画って紙で見るように描かれているから、見開きの迫力とかは紙でしか味わえないドキドキがある。
鶴崎 単行本で「このページで終わるのか!」みたいなのもいいですよね。
伊沢 そうそう! 終わりも考えられて描かれているからさ。漫画ってその世界を体験できる感覚がいいんだよ。って、本の話題なら無限に話せるわ(笑)。
■Profile
1994年生まれ、東京大学経済学部卒。高校時代に『全国高等学校クイズ選手権』を個人として初の連覇。クイズ番組『東大王』でも優勝を果たす。2016年に知識集団「QuizKnock」を創設しWEBメディアを運営、現在は株式会社QuizKnockCEO。書籍執筆やYouTuberなどの活動も行っている。
1995年生まれ、現在東京大学大学院数理科学研究科に在籍。東京大学クイズ研究会に在籍し「QuizKnock」でも活躍中。2016年にクイズ番組『東大王』にて優勝を遂げ初代東大王に輝く。現在も東大王チームとしてレギュラー出演中。
取材・文:中屋麻依子 撮影:八木虎造