カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」テレアポバイト編
謙虚を美徳とする日本だが、ネガティブな人間はそれが行き過ぎて卑屈になってしまい、逆に一人称が「俺様」の人間より周囲をイラつかせてしまうことがある。
確かにネガティブな人間は、自分に自信がない上に、何事にも否定的なため「足腰が弱いので立ち仕事は無理だし、座りっぱなしの仕事は足腰を痛めるので避けたい」みたいな話を真顔でしてしまったりする。
そしてこの洗礼を潜り抜け「寝てできる仕事があればいいですよね」と返してくれた優しい人に対し「そんな仕事があれば苦労はしない」と鬼のマジレスでとどめを刺してしまうのだ。
このようなAh言えばkoo言うレスポンスのいい話をしがちなため、相手から「じゃあ一体ができるんだ」と怒られたことは1回や2回ではないのだが、高校の時の友人にそう言われた時「何もできないよ」と答えたところ「そんなこと言うなよ…」と急にツンヅくんのモノマネで慰めてくれた。
今思えば、高校生とは思えない優しさとユーモアを兼ね備えた人である、こういう人がいるから何も搭載していない初期アバターみたいな人間が出てきてしまうのだ。
今でも長所を聞かれたら「花粉に強い」としか答えられず、得意なことは見つけられていないが、さすがにこの歳になると特にできないことはわかってきた。
言うまでもないが、私には接客業は向いていない、仕事を探す時はまず除外するし、接客は苦手という人は珍しくないと思う。
しかし私の友人に「接客業以外できない」という人がいる。
そんな人が何故私の友人なのか不思議だが、そういうタイプだから私の友人ができると思えばかなり説得力がある。
その人も一時期事務の仕事をしていたのだが、現在以前やっていた「コールセンター」の仕事に戻り「やっぱりこっちの方が精神的に楽」と言っている。
私からすると「通勤に車で30分はツラいので徒歩5時間に戻した」と言っているようなものなのだが、やはり人には向き不向きがある。
今回のアルバイトも私には向いていなさそうだが、ものすごく向いているという人も多分存在するのだろう。
今回紹介するのは「コールセンター」さらにその中の「テレアポ」のバイトだ。
コールセンターの仕事には「テレオペ」と「テレアポ」がある。
「テレオペ」は「今日送られてきた服を着てみたが明らかにモデルと中身が違う」など、お客様の質問や注文、クレームなどの電話を「受ける」仕事だ。
逆に電話を「かける」のが「テレアポ」の業務だが、もちろん個人のスマホに「弊社のパソコンが立ち上がらないのですが」と質問するためにかけるのではない。
個人や法人にサービスや商品の商談を取り付けるためのセールス電話をかけるのがテレアポである。
つまり電話による飛び込み営業のような仕事である。
会社が用意するリストを元に顧客に電話をかけ、マニュアルに沿った商品やサービスの紹介を行い、興味を持ってくれたお客様と商談の約束を取り付けるまでがテレアポの仕事だ。
電話した日時や会話内容などの履歴を残すのも仕事の一つだが、業務内容は至ってシンプルである。
説明は完全にマニュアル化されているし、マニュアルを見ながらの仕事もできるため「覚えなければいけないことが多い」という、多くのバイトにありがちなハードルは低めとすら言える。
もちろん冷暖房の効いた部屋での座り仕事であり、データ入力のように、パソコンに向かって長時間集中しなければいけないというわけでもない。
相手からこちらの姿は見えないため、服装の自由度も高いところが多く、最近は自宅でリモートテレアポの仕事も出てきているらしい。
「電話の向こうに不特定の生身の人間がいる」ことを除けば、屈指の楽バイトと言えるかもしれない。
そんなテレアポの大変なところだが、やはり「心ないことを言われることがある」のは避けられないようだ。
テレオペのバイトは、お客様の方が用があってかけているため、少なくとも開口一番「なぜ電話をとった?」と怒られることはない。
しかし、テレアポの場合、こちらに用がない、何だったらそれどころじゃない人に対し、全く興味が湧かない話の電話をかけてしまうかもしれないのだ。
むしろ今までテレアポを受ける側として「ちょうど家の外壁塗装してほしかったんだよね」と思ったことは一度もないので、不要電話をかけてしまうことの方が圧倒的に多いと思われる。
ゆえに、ガチャ切り、文句を言われる、などは日常茶飯事であり、スルー力がない人や自分が悪いと思ってしまうタイプには向かないそうだ。
逆に言えば、俺が悪いわけではない、と思えるタイプであれば、前述の通り仕事自体は難しいことがなく、職場環境的にも楽なバイトと言える。
実際、会社の指示に従い電話をかけ、会社が用意したマニュアルを元に話をしているのだから、顧客の怒りの責任はバイトにはない。
しかし耳元で怒られながら「怒られているのは俺ではない」と思える人間はレアなせいなのか、テレアポの時給はテレオペより高額設定されている場合が多いようだ。
割り切りが上手く引きずらないというタイプは高時給を狙ってテレアポを選んでもいいかもしれない。
もし平気なだけでなく、テレアポに向いていれば、好成績による昇給や、獲得数に応じたインセンティブなど、さらなる収入アップも目指せる。
昨日も私のスマホに15年以上前に登録した派遣会社から電話があったが、どうせお断りになるので出なかった。
しかし、今後「ちょうど浄水器がほしかった」ということはなくても「今まさに仕事を探していた」というシーンは訪れそうなので、着信拒否はできないでいる。
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