会社都合退職とは?自己都合退職との違い、失業保険への影響や、会社都合となる条件を解説
退職には「会社都合退職」と「自己都合退職」の2種類があります。ここでは、会社都合退職と自己都合退職それぞれに該当する条件や、失業保険への影響などについて解説します。
会社都合退職とは
会社都合退職とは、労働者の一方的な都合ではなく、会社の業績や経営状況などによる退職を指します。
一方で、自己都合退職とは、労働者本人の事情で退職することをいいます。たとえば、個人的な理由による転職、自身の結婚・出産・転居・病気など体調不良、家族の介護などでの退職などが該当します。
会社都合扱いになるか自己都合扱いになるかは、退職理由とその状況により決まります。
失業保険の受給手続きを行うにあたって「会社都合退職」になるプロセスは2通りあり、1つは事前に会社側からリストラや整理解雇を労働者本人に通知した場合、「会社都合退職」として扱われます。もう1つは、退職後に自ら労働者本人が自ら手続きを踏んで「会社都合退職」と認められるケースです。労働条件やハラスメントが原因の退職場合、退職時に自己都合として扱われても、ハローワークで手続きを行えば会社都合に変更されることがあります。
一方で自己都合退職は労働者が会社に自己の都合による退職意思を伝えることで成立し、書面や口頭で明確に「自己都合退職」として扱われます。
会社都合退職となる条件
会社都合退職の場合は、離職前1年間のうち6カ月以上雇用保険に加入していれば基本手当(失業保険)を受け取ることができます。では、具体的にどんな条件なら会社都合退職になるのでしょうか。
会社倒産、事業所の廃止・移転による離職
会社の倒産や事業所の廃止、移転など以下の条件に当てはまる場合には、会社都合退職に該当します。
①勤務先の倒産によって離職
②勤務先で1か月に30人以上の離職予定の届出がされた、または従業員の 3分の 1を超える人数が離職したため離職
③事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む)に伴い離職
④事業所の移転により、通勤することが困難な状況になり離職
人員整理、退職勧奨、早期・希望退職による離職
勤務先の人員整理や勤務先からの退職奨励など、再就職の準備をする時間的余裕がなく離職した場合も会社都合退職となります。
①業績悪化などでの解雇による離職(違反や違法行為などで懲戒解雇された場合は除く)
②事業主から退職を勧められての離職(早期、希望退職)
③有期雇用や派遣社員の労働契約の未更新による離職
労働条件の不一致、変更、ハラスメント等による離職
契約締結時の労働条件と実態が異なった、上司や同僚からのいじめやハラスメントがあったなどの理由で自ら申し出て離職した場合も、会社都合退職となります。
この場合、もし離職票の上では自己都合退職となっている場合にハローワークに会社都合退職と認定してもらうために、労働条件が契約内容と異なることやハラスメントの実態を説明できるようにしておきます。
①労働契約締結時の条件と実態が大きく異なったことが理由の離職
②賃金の不当なカットや未払いによる離職
③上司や同僚などからのいじめやハラスメントによる離職
④慢性的な残業が改善されないことによる離職
⑤職種転換等に際し、職業生活の継続のために必要な配慮が行われなかったことで離職
⑥使用者の都合での休業が3か月以上となったことにより離職
⑦事業所の業務が法令に違反したため離職
自己都合退職を会社都合退職の扱いに変更するには
会社都合退職が認められると、失業保険の受給の面で優遇されます。
自己都合退職した後、会社都合にしてもらうには、会社都合退職に該当する証拠をハローワークに提出して「会社都合に値する正当な理由があった」ことを認定してもらうことが必要です。例えば、長時間労働がわかるタイムカード、予定が書かれた手帳、雇用契約書、給与明細、退職の経緯が分かるメールや音声データなどです。詳しくは、ハローワークに相談してみるとよいでしょう。
会社都合退職、自己都合退職の3つの違い
会社都合退職と自己都合退職では、それぞれ失業保険・退職理由の書き方・退職手続きの方法に違いがあります。会社都合退職のほうが、失業保険の給付開始日が早く、給付日数が多くなります。
■会社都合と自己都合の3つの違い
会社都合退職 | 自己都合退職 | ||
失業保険 | 待機期間 | 7日 | 7日 |
給付制限期間 | なし | 最短で2カ月 | |
給付日数 | 90~330日 | 90~150日 | |
退職理由の書き方 | 会社都合により退職 | 一身上の都合により退職 | |
退職手続きの方法 | 退職届や退職願は原則不要 | 就業規則にある期日までに退職意思を示す |
※就職困窮者を除く
なお、令和2年10月1日以降に離職した人で、直近5年間に退職した人の2回までは待機期間は2カ月、3回目以降は待機期間が3か月となります(※自己都合退職でも懲戒解雇の場合は3カ月となります)。
失業保険の給付までが早いのは会社都合
失業保険の給付とは主に基本手当のことをいい、離職している一定期間、国から支給される給付金です。会社都合と自己都合のどちらも基本手当を受け取れますが、受給開始までの期間やトータルの受給期間が異なります。基本的には自己都合よりも会社都合のほうが、受給タイミングや日数などで手厚くなっています。
失業保険の給付までの期間や内容の違い
会社都合退職は、失業保険の受給資格が認定され、待機期間の7日が経過すればすぐに基本手当を受け取れます。一方で、自己都合退職は、受給資格が認定されてから2カ月は給付制限期間となり、基本手当を受け取ることができません。また、受給する基本手当にも違いがあり、会社都合退職の方が給付日数が長く、給付金の総額も多くなる傾向にあります。
自己都合退職でもすぐに受給できる場合も
自己都合退職であっても、正当な理由があり、ハローワークで「特定理由離職者」と認められると、失業給付の給付制限期間が免除され、7日間の待期期間後、すぐに受給できる場合があります。特定理由退職者と認められる正当な理由には、下記のようなケースがあり、ハローワークの窓口に必要書類を提出し、認定してもらう必要があります。
【特定理由退職者と認められる正当な理由の例】
・30日を超える育児や家族の介護
・体力不足や心身障害
・事業所移転や異動などによる通勤困難
・妊娠、出産
・会社から更新しない旨を通知されたことによる有期労働契約の終了 など
>特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
自己都合退職でもすぐに受給できる場合も
自己都合退職であっても、正当な理由があり、ハローワークで「特定理由離職者」と認められると、失業給付の給付制限期間が免除され、7日間の待期期間後、すぐに受給できる場合があります。特定理由退職者と認められる正当な理由には、下記のようなケースがあり、ハローワークの窓口に必要書類を提出し、認定してもらう必要があります。
・30日を超える育児や家族の介護
・体力不足や心身障害
・事業所移転や異動などによる通勤困難
・妊娠、出産
・会社から更新しない旨を通知されたことによる有期労働契約の終了 など
>特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
履歴書での退職理由の書き方
履歴書上の経歴
会社都合と自己都合では、転職の際に使う履歴書の職歴欄での記載方法が異なります。会社都合であれば「会社都合により退職」となりますが、自己都合であれば「一身上の都合により退職」等と記入します。
・自己都合退職 → 一身上の都合により退職
・会社都合退職 → 会社都合により退職
会社都合・自己都合の退職手続きの違い
会社都合と自己都合では、退職時に必要な手続きや書類が異なります。
会社都合なら、退職届や退職願は原則不要
会社都合退職の場合、労働者側が「退職届や退職願」を提出する必要は基本的にはありません。退職願の役割は、自ら退職を願い出て、意思を伝えるための書類であり、退職届は退職が確定している際に渡す書類です。「退職届や退職願」を提出すれば、退職後に自己都合退職として離職票が発行される可能性があり、失業保険の申請に影響することがあるので注意しましょう。
経営不振に伴う解雇や退職勧奨など、会社都合にもかかわらず「退職願や退職届」の提出を求められたときは、退職理由に「会社都合(事業所閉鎖のため)」などと明記しておくと、後から何かあった際の証明になります。
なお、会社都合退職の場合、正社員などの契約期間の定めのない人や有期契約であっても2か月を超える有期契約期間が定められていて実際に2か月を超えて働いている人については、会社は30日以上前に解雇予告を行うか30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。解雇と言われたときは会社から解雇予告通知書と解雇理由証明書を必ず発行してもらいましょう。
また、契約期間の定めがある場合でも、3回以上契約が更新されている人や1年を超えて継続して勤務している人の契約を更新しない場合は、会社側は30日前までに予告する義務があります。会社がルールを守っていない場合は、労働基準監督署などに相談してみましょう。
自己都合なら、期日までに退職意思を示す
自己都合退職の場合は、会社の就業規則にある期日までに、自ら退職意思を示す必要があります。口頭などで退職意思を伝え、さらに退職届など必要書類を求められたら、規則に沿って書類を提出します。
退職意思の表示タイミングは、法律上は2週間前までに申し出ればよいことになっていますが、会社がそれ以上の期間を定めている場合、その期間が合理的であればその期間が優先されます。一般的には、退職希望日の1カ月前までとする会社が多いようです。また、後任への引き継ぎなどを考慮し、早めに意思表示をするのが良いです。
なお、契約期間の定めがある人は、契約期間が1年を超える場合を除き原則、期間満了までは退職できませんが、事情によっては退職に応じてくれることもあるので、会社に相談してみましょう。
自己都合で退職すると、会社都合退職よりも減額する退職金制度を設けている会社もあります。退職金の有無や支払い額の規定は、会社によって異なるので、就業規則を確認しましょう。
会社から「自己都合退職にしてほしい」と言われたら?
本来は会社都合退職なのに、会社から「自己都合退職にしてほしい」と言われた場合には、慎重に対応する必要があります。退職届を提出する前と後とで対応が異なりますので、それぞれ対応を確認しておきましょう。
実態に反する場合は自己都合退職扱いを断っていい
会社都合での退職にも関わらず、会社から退職奨励をされたり、「自己都合退職にしてほしい」と頼まれたりすることがあります。これは、会社側が政府からの助成金が受け取れないなど財政的な事情や、会社の評判が下がることを避けたいという意図が考えられます。実態が伴わない場合には断っても全く問題ありません。
自己都合の退職届を提出してしまった場合にできること
既に自己都合の退職届を提出してしまっている場合には、ハローワークや弁護士に相談することをおすすめします。会社から自己都合を強要された、圧力をかけられたという場合は違法となる可能性もあります。ハローワークへの申請時に、労働契約書や就業規則、給与明細書、タイムカードなど会社都合である証拠を求められることがあります。
転職活動に関する疑問
書類選考で「会社都合退職」は不利になる?
倒産や経営不振による整理解雇(リストラなど)の場合は、それが理由で書類選考が不採用となることはありません。履歴書の職歴欄に書く際は、「会社都合により退職 ※会社倒産のため」等、理由を補足しておくといいでしょう。
一方、自分に何らか原因のある普通解雇や懲戒解雇は、転職活動で不利になる可能性はあります。転職活動での職歴欄にあえて退職理由を書く必要はありませんが、面接で会社都合退職の詳細を聞かれることがあるため、どのように答えるかはあらかじめ対策が必要です。
面接で会社都合を自己都合と答えても問題ない?
面接で会社都合退職を自己都合退職と答えることは、避けた方が良いでしょう。退職理由を偽ると、事実が発覚した際に信頼を失うだけでなく、採用取り消しやその他のトラブルになる可能性もあります。また、会社都合退職の理由がリストラや経営不振など、個人の責任ではない場合は正直に伝えても採用に影響がありません。正直に説明しつつ、新たな仕事への意欲など前向きな姿勢をアピールすることが重要です。
渋田貴正
司法書士事務所V-Spirits 代表司法書士。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社に在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
https://www.pright-si.com/
※初回公開:2022年03月23日、更新履歴:2023年11月28日、2024年6月21日、2024年9月30日、2025年7月7日
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。