【街で見かけた「働く人」劇場】宅配ピザのお兄さんの話

先日、某宅配ピザのチェーン店に行き店頭で注文と受け取りを済ませようとしたところ、店長らしき人が男性の店員さんに向かって「おまえ遅ぇんだよ！　もっとテキパキ動けねぇのかよ！　あぁ!?」と罵声をあびせる場面に遭遇した筆者（私）。

ピザができあがるまで15分ほどかかると言われたので、厨房などを眺めながら店内でのんびりとしていた中でのできごとです。コトが起こる前に、お兄さんの仕事ぶりも見ていましたが特にノロノロしていた印象はなかったので「これってパワハラじゃね!?　うわー……お兄さんかわいそう」と思っていた次の瞬間！

「すみません！　店長があまりにも体格よすぎるんで、さすがの俺でも（厨房内を）歩くのが大変で！」と、お兄さんが店長に向かって笑顔で一言おっしゃるではありませんか！　

細身なお兄さんに対し、店長はまさに「高カロリーフード大好き♪」な体形で、確実にひとりでふたり分の厨房内面積を占領している状況！　「もう一度言ってみろ！」と怒鳴る店長！　「んじゃ（宅配に）行ってきまーす！」と言ってお兄さんは爽やかに退場!!　

これ何のコント？と思いながらも「なんかカッコいい……!!　特にイケメンってわけじゃなかったけど、脳内では彼がイケメンに見える!!」的な感じで、すっかりお兄さんのファンになってしまった筆者。

その後も何度かお店までピザを買いに行ったのですが、お兄さんの「かわし力」は常に筆者を圧倒してくれました。ある日には、こちらが注文して5分も経っていないのに「おい、いつまでお客さん待たせてんだ！」と横から店長が言い出した。そこにすかさず「すみません！　もうすぐ焼きあがりますよ！　その後すぐに店長の分も作りますね！　おなかすいてカリカリしてるんですねよくわかります！」と返して店長をなだめるお兄さん。店長、「ちょ……お、は、腹なんか減ってねぇよ！」とまたイライラしてましたがもうすっかり迫力はなくお兄さんは華麗にスルーです。

店長が店員を罵倒するような状況は、客にとっても決して心地よいものではありません。しかし、お兄さんの「かわし」によってシリアスな状況が一転してコメディのようになってしまうのですから、お見事としか言いようがありません。嫌な思いをさせる相手を優雅にかわしつつ面白おかしく返すことで、自分だけでなく、お客さんの心も守ってくれるお兄さん。まさに接客のプロと言えましょう。

ところで、筆者はお兄さんに会うために週２回のペースでそのピザ屋に通っていたのですが、体重は激増し財布の中身は激減するという笑えない状況に陥り、笑いをくれるあのお兄さんに会いたいと願うもピザ屋に行けば状況は悪化するだけだし何かもうヤダなんでピザ屋なんだよ八百屋とかでやってくれよ、と日々ピザ屋の方角に向かって念を送っております。

ライターシマヅ (Shimazu)
1988年生まれ。フリーライター。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科を卒業後、2年ほど美術業界を転々としていたが現在は主にWEB上で文章を書き生計を立てている。女性向けコラム、インタビュー記事、グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。